現代日本において、草食系男子は増えている、というのはもはや常識であるらしい。
年配の方々、あるいは女の子の側から「男、しっかりしろ」と怒りが表明される。
でも、本当に増えているのか。
若者の置かれた社会状況の変化、若年層の恋愛観の変質等により、草食系は増えている、と主張する人は多くいる。確かに、外発的、内発的を問わず様々な事情により、草食系となっている男の子はいるだろう。
だが、過去と比べて増えている、というのは事実なのだろうか。
そう結論づけるには、しばし留保を促したい。
赤松啓介の著作に、日本の村社会における伝統的な夜這いの習慣を調査した、その名もズバリ『夜這いの民俗学』なる本がある。
これによれば、村の若者は男女問わず、ある一定の年齢に達すると、皆一斉に初体験を済ませていた。で、済ませてのちの男の感想が、「ああ、素晴らしかった。大変いいものだ」というのと「なんだ、あんなものか」というのに、はっきりと二分された、という。
この「なんだ、あんなものか」と呟いた男、これは潜在的草食系男子ではなかろうか。
草食系という言葉が存在しなかった時代、〈肉食系・草食系〉という区分けがなされなかった時代、それは男なら誰しもが肉食系であるのが当たり前な時代であっただろう。草食的に振る舞いたくても、周囲がそれを許さなかったであろう。どうしても肉食的振る舞いが苦痛で、そこから逃げた場合、後ろ指さされてコソコソしていただろう。
要するに、小生の推論はこうだ。いつの時代にも、草食系男子はいた。しかし、草食系という言葉がない以上、それは潜在的なものにならざるを得ず、社会に周知されにくかった。当の潜在的草食系男子本人も、その事実を包み隠し、あるいは自ら否定し、できるだけ肉食的に振舞おうとした……。
森岡正博の『草食系男子の恋愛学』が発刊されたのが2008年、「草食男子」が流行語大賞に選ばれたのが2009年。
ここから、草食系男子は市民権を得る。
「あ、こういう生き方ってアリなのね」という認識が、広く日本社会に――一部の反発をのぞいて――定着する。
すると、最初はおずおずと、しばらくすると臆面もなく「僕、草食系男子です」という名乗りが行われるようになる。草食系の素質が充分にあり、それを素直に表明しただけ、という者もいるだろう。だが中には、草食と肉食の中間くらい、もしくはやや肉食よりの男子であっても、「なんか、ラクで楽しそうだから」という理由で草食系宣言をした者もいるのではないだろうか。
つまり小生の仮説の二つめは、「草食系という言葉自体が草食系を生み出しているのではないか。草食系男子が増えている、というのが正しいとすれば、それはマッチポンプ的増え方なのではないだろうか」というものだ。
ひとつ、興味深い事例がある。
欧米社会には、以前は「肩こり」に該当する言葉がなかった。おもに、凝りが現れるのは腰であり、肩こりという言葉がない以上、肩はこるものだという認識はなかった。
近年になって、日本のマッサージが紹介され、それをきっかけとして欧米の人々は「肩こり」を知った。で、それ以降肩こりを訴える人が現れるようになった、という。
これは、肩こりを指し示す言葉、概念がなかったため、その症状は不定愁訴のようなものにならざるを得なかった、というのと、「肩こり」という言葉を知ることで、「自分の肩は凝っていないか」と、積極的に症状を検知するようになった、というのと、二つの面があるだろう。
まとめると、小生の主張は、外発的・内発的を問わず、様々な事情により、草食系男子となっている者はいるが、それは過去においても潜在的草食系男子として存在したのであり、最近になって急に増えたわけではなく、いくらか増えたというのが事実だとしても、その言葉自体が増加に影響している面が大きいのではないか…ってこと。
ところで、先にも述べたが、草食系男子に対しては、年頃の女性から非難が浴びせられがちだ。
「ふざけんな、男。ナヨナヨするな、もっと強くなれ」と。
そんな女性方に問うてみたい。
「肉食系男子が多い社会というのは、男が威張っている社会でもあるけど、それでもいいの?」
小生ははっきり言って、男が強い社会は、ろくでもない社会だと思っている。
男が威張っている社会、それは力の理論が支配する社会であり、極言すれば、戦争をする社会である。
日本は明治以降、欧米諸国に抗するため、それまでは必ずしも男が強いとは言えなかった社会システムを、父権的なそれに作り替えた。結果として、植民地化されることは避けられたものの、十年に一度ほどの割合で戦争をしでかす国になってしまった。
国家が戦争を行う方向に傾いていると言われる現在、もし肉食系男子が増加すれば、その傾向に拍車をかけることになるだろう。
力の理論が支配することになるので、家庭内暴力や性犯罪も増加するかもしれない。
それでもいいの?
男が頼りないというのなら、女のほうがリードすればいいだけだと思うが。それで何の不都合がある?
オススメ関連本・福岡伸一『できそこないの男たち』光文社新書
年配の方々、あるいは女の子の側から「男、しっかりしろ」と怒りが表明される。
でも、本当に増えているのか。
若者の置かれた社会状況の変化、若年層の恋愛観の変質等により、草食系は増えている、と主張する人は多くいる。確かに、外発的、内発的を問わず様々な事情により、草食系となっている男の子はいるだろう。
だが、過去と比べて増えている、というのは事実なのだろうか。
そう結論づけるには、しばし留保を促したい。
赤松啓介の著作に、日本の村社会における伝統的な夜這いの習慣を調査した、その名もズバリ『夜這いの民俗学』なる本がある。
これによれば、村の若者は男女問わず、ある一定の年齢に達すると、皆一斉に初体験を済ませていた。で、済ませてのちの男の感想が、「ああ、素晴らしかった。大変いいものだ」というのと「なんだ、あんなものか」というのに、はっきりと二分された、という。
この「なんだ、あんなものか」と呟いた男、これは潜在的草食系男子ではなかろうか。
草食系という言葉が存在しなかった時代、〈肉食系・草食系〉という区分けがなされなかった時代、それは男なら誰しもが肉食系であるのが当たり前な時代であっただろう。草食的に振る舞いたくても、周囲がそれを許さなかったであろう。どうしても肉食的振る舞いが苦痛で、そこから逃げた場合、後ろ指さされてコソコソしていただろう。
要するに、小生の推論はこうだ。いつの時代にも、草食系男子はいた。しかし、草食系という言葉がない以上、それは潜在的なものにならざるを得ず、社会に周知されにくかった。当の潜在的草食系男子本人も、その事実を包み隠し、あるいは自ら否定し、できるだけ肉食的に振舞おうとした……。
森岡正博の『草食系男子の恋愛学』が発刊されたのが2008年、「草食男子」が流行語大賞に選ばれたのが2009年。
ここから、草食系男子は市民権を得る。
「あ、こういう生き方ってアリなのね」という認識が、広く日本社会に――一部の反発をのぞいて――定着する。
すると、最初はおずおずと、しばらくすると臆面もなく「僕、草食系男子です」という名乗りが行われるようになる。草食系の素質が充分にあり、それを素直に表明しただけ、という者もいるだろう。だが中には、草食と肉食の中間くらい、もしくはやや肉食よりの男子であっても、「なんか、ラクで楽しそうだから」という理由で草食系宣言をした者もいるのではないだろうか。
つまり小生の仮説の二つめは、「草食系という言葉自体が草食系を生み出しているのではないか。草食系男子が増えている、というのが正しいとすれば、それはマッチポンプ的増え方なのではないだろうか」というものだ。
ひとつ、興味深い事例がある。
欧米社会には、以前は「肩こり」に該当する言葉がなかった。おもに、凝りが現れるのは腰であり、肩こりという言葉がない以上、肩はこるものだという認識はなかった。
近年になって、日本のマッサージが紹介され、それをきっかけとして欧米の人々は「肩こり」を知った。で、それ以降肩こりを訴える人が現れるようになった、という。
これは、肩こりを指し示す言葉、概念がなかったため、その症状は不定愁訴のようなものにならざるを得なかった、というのと、「肩こり」という言葉を知ることで、「自分の肩は凝っていないか」と、積極的に症状を検知するようになった、というのと、二つの面があるだろう。
まとめると、小生の主張は、外発的・内発的を問わず、様々な事情により、草食系男子となっている者はいるが、それは過去においても潜在的草食系男子として存在したのであり、最近になって急に増えたわけではなく、いくらか増えたというのが事実だとしても、その言葉自体が増加に影響している面が大きいのではないか…ってこと。
ところで、先にも述べたが、草食系男子に対しては、年頃の女性から非難が浴びせられがちだ。
「ふざけんな、男。ナヨナヨするな、もっと強くなれ」と。
そんな女性方に問うてみたい。
「肉食系男子が多い社会というのは、男が威張っている社会でもあるけど、それでもいいの?」
小生ははっきり言って、男が強い社会は、ろくでもない社会だと思っている。
男が威張っている社会、それは力の理論が支配する社会であり、極言すれば、戦争をする社会である。
日本は明治以降、欧米諸国に抗するため、それまでは必ずしも男が強いとは言えなかった社会システムを、父権的なそれに作り替えた。結果として、植民地化されることは避けられたものの、十年に一度ほどの割合で戦争をしでかす国になってしまった。
国家が戦争を行う方向に傾いていると言われる現在、もし肉食系男子が増加すれば、その傾向に拍車をかけることになるだろう。
力の理論が支配することになるので、家庭内暴力や性犯罪も増加するかもしれない。
それでもいいの?
男が頼りないというのなら、女のほうがリードすればいいだけだと思うが。それで何の不都合がある?
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