きのう読んでいた半藤末利子の『硝子戸のうちとそと』(講談社)に、半藤一利の最後の言葉が載っていた。4年前、加藤陽子の朝日新聞への寄稿のなかの「日本人はそんなにわるくない」の言葉を私が曲解していたのに気づいた。一利の意図を感じとってもらうため、末利子の本から抜粋する。
>亡くなる日の真夜中、明け方だったかもしれない。
「起きている?」
珍しくも主人の方から声をかけてきた。 (……)
「日本人ってみなが悪いと思ってるだろう?」
「うん、私も悪い奴だと思っているわ」
私がそう答えると、
「日本人は悪くないんだよ」
と言う。<
これを読んで病床の私は涙が止まらない。一利はなんて優しい夫なのだろう。
末利子の応答するからと、一利は日ごろ「日本人は悪い」と怒りまわっていたのだろう。彼は、死ぬ間際に、自分の言葉が与えつづけた呪文から妻を解き放したいと思ったのだと思う。
日本人全員が悪いわけではない。悪意の人もいれば、善意の人もいる。何も考えていない人もいる。悪い人がいるのは日本人だけでない。
一利は悪い日本人に怒りまくっていたのだ。
夫婦の思いやりという文脈を離れて、「日本人は悪くないんだよ」という言葉が独り歩きして欲しくない。
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