横浜市の図書館情報システムがこの年末年始で入れかわった。これに関して私は大きな不満がある。
第1に、昨年の12月25日から今年の1月14日まで、3週間も、図書館情報システムのサービスをやめたにもかかわらず、切り替え後、1月15日、1月16日まで情報システムが混乱した。第2に、前システムのインタフェースと新システムのインタフェースに連続性がない。第3に、前システムの図書検索機能が改善されていない。
横浜市の図書館情報システムの入れ替えは4度目である。前回の入れ替えでは、図書館情報システムは長期にとまることも混乱もなかった。しかし、前回の入れ替えでも、インタフェースの断絶があった。検索機能は改善されるどころか、悪くなったと私は感じた。
前のシステムは、日立製作所が開発を請け負い、検索機能はトウハンが下請けしたようである。
トウハンは書籍流通の大手であるので、検索機能が前より劣るのは、私にはとても不思議だった。日本社会では旧漢字と常用漢字が併存しており、また、海外の著者名をカタカナに直す際に表記が一意的でない、タイトルに副題がついているなど、タイトルや著者名には、曖昧検索が必須である。
今回のシステムの入れ替えは、横浜市教育委員会事務局中央図書館企画運営課が2021年3月1日にシステム仕様書を作成し、同年10 月12 日に公開入札した。翌年の3月1日に富士通Japan株式会社神奈川支社が落札した。横浜市は「AIを利用した蔵書探索サービスを全国で初めて導入する」と発表したが、入れ替えたシステムは、前と同じく検索の精度が悪い。AIをなにに使ったか不明である。
新システムで、ハンナ・アーレントの『全体主義の起源』を検索しても該当なしである。3分冊になっているから、『全体主義の起源1』、『全体主義の起源 1』、『全体主義の起源 新版』と入力してもだめだった。いろいろ試して分かったのは、『全体主義の起源 1 新版』と入力しないと検索にヒットしないのである。
落札する会社によってインタフェースが変わるのも困ったものである。横浜市はインタフェースの連続性を保つようシステム仕様書に書くべきである。
また、今回のシステムでは、画面に表示される文字の大きさが、項目によって異なる。どうも図書システムを使ったことない人が画面をデザインしたらしく、大事な情報の文字が通常より小さいのである。私のような年寄りには、すべて同じ大きさでいいから、ほかのサイトと同じ大きさにして欲しかった。
つぎに、今回のシステム入れ替えで、3週間もかかったのに、新システムの初日と翌日のアクセス処理に混乱が起きたことを検討してみたい。
まず、システムの停止期間が長かったのは、横浜市がシステムをハードウェア中心に考えていたことである。もう3度目のシステムの切り替えだから、ソフトウェアの入れ替えだけでよかったはずだ。
システム開発の発注において、ソフトウェアとハードウェアを切り離すべきであった。今回、ハードウェアは図書館にすでにあるのものをベースにすべきであった。そうすれば、ソフトウェアシステムの開発に1年かかっても、切り替えの期間は数日あれば十分である。じっさい、多くの基幹システムの切り替えは数時間で行っている。
現在のシステムはサーバとクライアントからできている。どちらも、ソフトウェア側からみれば、ハードウェアがどこのメーカでも動くのである。とくに、クライアントは町で売っている普通のパソコンで十分である。ハードウェアは消耗品である。
今回入札したシステム価格は、ハードウェアベースに評価しており、ソフトウェアがおまけになっている。これはソフトウェア軽視であり、システム開発の経験者からすればあり得ない話である。
また、サービス開始におけるアクセス集中のトラブルも、開発請負会社の図書館システム運用実態の無知に起因すると考える。
今回、システム切り替えで、これまでのユーザーのログインパスワードを無効にした。利用者は新規パスワードを登録しないと、図書館システムが使えないのである。ユーザインタフェースがこれまでと異なるうえに、また、パスワードがこれまでと違い、8文字以上でアルファベットと数字と記号を含まないとだめに変更した。インタフェースの違いやパスワード規格の違いなどがあり、パスワード登録にユーザーの操作ミスでアクセス数が異様に増えたと私は考える。
利用者が旧パスワードでログインでき、1月中に新規格のパスワードに切り替えるとすれば良かったのだ。前回の切り替えでは、パスワードの変更が要求されなかったので混乱を招かなかったと考える。
システムの運営においては、サーバー側の運用に専門性が求められる。したがって、バッグアップなどのサーバーの管理は運営会社に委託すればよい。図書館側は各サービスのアクセス数とか不具合の発生とかの報告を運営会社から受け取ればよい。
サーバーの管理を運営会社に委託する利点はアクセスの増加・減少に合わせてサーバーの台数を動的に変えることができることにある。サービス開始時のアクセス集中を処理するためには、サービス開始時だけ、サーバー数を増やすのが20年前から世界の常識である。
請負会社を10年ごとに取っ変えるだけでは、図書館情報システムは良くならない。図書館側としては、図書館を愛する利用者が指摘する改善点をまとめ、継続的にシステムの改善をソフトウェア開発会社に求めて行くのが望ましい。
図書館を利用しない営業マンが「AIだ」「ビジュアル・インタフェースだ」と言うのを信用していけない。図書館側はソフトウェアシステムが分かる人を職員として正規採用し、富士通とか日立とかに騙されないようにすべきである。資本主義社会では、IT会社の経営者と営業マンはどこもごろつきである。彼らは、情報処理システムに無知なうえ、会社が儲かることしか考えていない。
[追記]
横浜市の図書館が教育委員会事務局の下にあるのに私は違和感がある。図書館は市の文化事業であるべきである。教育委員会が文化のことがわかるはずはない。
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