きのう(1月18日)の菅義偉の施政方針演説を官邸のホームページから読んでいるが、評価して良いのか、そうではないのか、よく分からない。総花的で項目が挙がっているが、具体的には何を意味するのか分からない。
確かに、世論の批判を受けて、昨年の10月26日の所信表明より変わっているところもある。本人は努力しているのだろうから、信用したい。
例えば、「私が目指す社会像は、『自助・共助・公助』そして『絆』です」の文面がなくなった。代わりに、彼が「四十七歳で初めて衆議院議員に当選したとき」の内閣官房長官、梶山静六からの言葉が2つ言及されている。1つは、「少子高齢化と人口減少が進み、経済はデフレとなる」から「国民に負担をお願いする政策も必要になる」である。もう1つは「資源の乏しい日本」にとって「国民の食い扶持をつくっていくのがお前の仕事だ」である。
所信表明の「自助・共助・公助」よりもましである。
また、「Go Toキャンペーン」への言及がなくなった。所信表明では、原稿のなかの見出しに、「1 新型コロナウィルス対策と経済の両立」があったが無くなった。代わりに、「新型コロナを克服した上で、世界の観光大国を再び目指します」という言葉になった。
施政方針演説のはじめに、「私が、一貫して追い求めてきたものは、国民の皆さんの「安心」そして「希望」です」が加わった。
菅義偉の演説がわかりにくいのは、「働く者の権利を守る」とか「貧富の格差をなくす」とかいう単純明快なメッセージがないことである。非正規労働者をどう守るかの言及がない。
いま、人材派遣会社が儲けている。人材派遣会社に対抗して、非正規労働者や失業者を臨時国家公務員にして、彼らを守ったらどうだろう。職にありつけないあいだ、国が生活費を支給する。すなわち、一種のベーシックインカムを限定された働く人たちに実施する。
そう思いながら、これから菅の演説の細部を吟味してみよう。
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施政方針演説に、「所得が低いひとり親世帯に追加で五万円、更に二人目以降の子どもについて、三万円ずつの支給を、昨年中に行いました」とあるが、支給したのはいいことだが、継続しなければ、助けにならない。どう考えているのだろうか。
「雇用調整助成金」に言及しているが、すでに解雇されている非正規労働者にその恩恵が届くのだろうか。
東日本大震災からの復興の所で、「原災地域十二市町村に魅力ある働く場をつくり、移住の推進を支援します」というが、「魅力ある働き場」をどのようにつくるのかわからない。「国際教育研究拠点」を作れば「働き場」ができるというのは幻想である。ウソもはなはだしい。
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我が国の長年の課題、「日本企業のダイナミズムが失われた」、「デジタル化の流れに乗り遅れ、新たな成長の原動力となる産業が見当たらない」の答えに、「グリーン社会の実現」と「デジタル改革」を挙げているが、見当違いではないか。もちろん、公務員の採用枠にデジタル職の創設に賛成だが、問題は現在の企業風土にあるのではないか。
「日本企業のダイナミズムが失われた」は現在の経営者に責任がある。上司が偉そうにする会社に未来がない。上司の恣意的な判断で社員を首のできるのでは、日本の企業に未来がない。社員が自由に発言する風土こそが企業のダイナミズムを導くものでないか。
また、「デジタル化」とはそんな難しいものではないが、そんなに役には立たない職種もいっぱいある。企業風土を変えていくことこそ、だいじなのだ。
「教育のデジタル化」「子どもたちの希望や発達段階に応じたオンライン教育」も見当違いである。教育で一番だいじなのは、人間を信頼する気持ちを育てることである。「オンライン」は補助的なもので、対面教育こそが重要である。
それより、まず、文部省の教科書検定をやめ、教育の自由化を行うべきである。また、受験とか選抜とかいう制度をしだいに廃止しないといけない。国立大学からそれを実施する。
「グリーン社会の実現」のため「安全最優先で原子力政策を進め」には賛成できない。「安全最優先」に技術的無理がある。無理を通せば、腐敗が生じる。
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「ポスト5G、6Gを巡る国際競争が過熱化する中、官民を挙げて研究開発を進め、通信規格の国際ルールづくりを主導し、フロントランナーを目指します」も意味不明である。そんなことは企業がすることである。それより、国は「若手研究人材」に安定した職を与えることである。
「最低賃金は、雇用にも配慮しながら継続的な引上げを図り、経済の好循環につなげてまいります」には賛成だが、「持続化補助金や手形払いの慣行の見直しを通じて、生産性の底上げを図り」は意味がわからない。どうして「見直し」が「生産性」の底上げになるのか、また、「生産性の底上げ」が「賃金の上昇へ」につながるのか分からない。
「国際金融センターをつくること」をなぜ掲げるのか、意味不明である。これは、技術の蓄積がない後進国のアイデアではないか。「日本には、良好な治安と生活環境、一千九百兆円の個人金融資産といった大きな潜在性があり、金融を突破口としてビジネスを行う場としても魅力的な国を目指します」には、まったく腹がたつ。普通の日本人はそんな高額の「個人金融資産」を持ち合わせていない。それとも、菅は、日本の富裕層を世界の金融業の餌食にしたいのだろうか。
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「農林水産業」を「地域をリードする成長産業」したいは同感であるが、「農産品の輸出」も「主食用米から高収益作物への転換、森林バンク、養殖の推進」も、その解決にならない。それよりも、農協の組織の強化ではないか。自民党は。この間の農協敵視政策をやめるべきである。
政府は、これ以上、「観光立国」で国民をだますべきでない。
「企業で経験を積んだ方々を、政府のファンドを通じて、地域の中堅・中小企業の経営人材として紹介する取組」はまったく意味がない。地元の人間が産業を興し経営するのでなければ意味がない。
「ふるさと納税」は即刻やめるべきである。
「世界に冠たる我が国の社会保障制度」は言い過ぎである。それに「世界に冠たる」はナチスの常用句である。
「民間企業にも、障害のある方々への合理的配慮を求めます」とあるが、政府が障害者を雇って政策企画立案に参加させることのほうが重要である。障害者は仕事を通じて自分を肯定することを求めており、形式的な雇用を求めているのではない。障害者の声を反映するため、政府や自治体は積極的に障害者を雇用すべきである。
「経済あっての財政との考え方の下、当面は感染症対策に全力を尽くし、経済再生に取り組むとともに、今後も改革を進めます」は意味不明。何を言いたいのか。
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外交安全保障で「WTOの改革を推進」が意味不明。「安全保障上重要な防衛施設や国境離島を含め、国土の不適切な所有、利用を防ぐための新法を制定」も意味不明。
「日米の抑止力を維持しつつ、沖縄の皆さんの心に寄り添い、・・・・・・、辺野古沖への移設工事を進めます」は、腹の立つ言いぐさである。
「より多くの国・地域と共に「自由で開かれたインド太平洋」の実現に取り組んでまいります」は、中国のインドや太平洋の進出阻止のことだろうか。「自由で開かれた」という言葉は自由主義陣営の言い換えではないか。
「夏の東京オリンピック・パラリンピックは、人類が新型コロナウィルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたいと思います。」とは、お笑い草ではないか。日本が世界の新型コロナ撲滅に貢献していない中で、この発言はまずい。
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菅義偉の施政方針演説の詳細をみると、この人はやっぱり信用できないと思う。梶山静六は菅に「お前は役人に騙される」と言ったというが、理解できる。