福田首相の薬害肝炎一律救済案受入れ政治決断は総選挙都合から

2007-12-14 13:32:15 | Weblog

 政権交代こそが政治家の目を国民に向けさせる最善の方法である

 昨13日(07年12月)薬害C型肝炎集団訴訟大阪訴訟控訴審は和解期限に線引きを行わない全員一律救済を求める原告側の意思に反して東京地裁判決に添う和解案を示した。

 東京地裁判決とは次の通り。
① 国の責任/87年4月~88年6月
②被告企業の田辺三菱製薬の責任/85年8月~88年6月
③他の製薬会社責任(「クリスマシン」投与)の責任/84年1月以降
 (07.12.14『朝日』朝刊≪薬害肝炎 限定救済 原告は拒否≫から)

 大阪地裁のこの判断に当然のこととして原告側は見出しにあるとおりに受入れ拒否。<患者全員救済を求める原告側は「被害者を製剤の種類や投与時期、提訴時期で線引きする不当な内容」と批判し、「受け入れ拒否」を表明し>(同記事)、福田首相に全員一律救済の「政治決断」を再度求めた。

 この要求に対して福田首相は『朝日』の同日付の別の記事≪線引き救済 許せぬ≫には、<同日、記者団に対し、「感染者、患者の方々の立場に配慮して真摯に検討していきたい」と早期和解を目指す意向を示した。
 20日の(大阪高裁の)回答期限までに原告団と面会する容易があるかと問われると、「必要な時が来ればお会いしてもかまわない。しかし、今すぐということにはならない」と述べ、政治決断の可能性に含みを残した。>と解説している。

 福田首相が全員一律救済の「政治決断」をするのは既定路線であろう。その最大の理由は、悪者になって支持率を下げたくないからだ。ここで支持率を下げた場合、ただでさえ政権交代・自民党下野の悪夢に悩まされているこの頃であろうが(「そんなの関係ねえ、オッパッピー」とは言わせない)、それが最悪の現実となって襲いかかってこない保証はない。首相就任時、記者団に問われて「貧乏くじかもしれませんよ」と言っていたが、最悪の貧乏くじに「当たりー」、太鼓ドンとなりかねない。

 既定路線に向けた周囲からのお膳立てなのだろう、今日のNHK昼のニュースは桝添厚労相以下、自民党幹部の全員一律救済の「政治決断」を促す、あるいは容認する発言を紹介している。

 補給支援特別措置法案(「朝日」はこう呼び、「読売」などは「新テロ対策特別措置法案」と呼び習わしている)の採決に関わる動向次第では突発的に衆院解散・総選挙の展開もあり得る。選挙のための公約に過ぎなかったとか、公約と言えるほどのものではないといった年金公約破綻に関わる対応の拙劣さ等が追い討ちをかけて支持率の動向にマイナス要因となりかねない不都合な事情も抱えている。衆院解散・総選挙を後門の狼とするなら、全員救済案拒否の後ろ向きの「政治決断」は年金問題や防衛庁不祥事共々、前門の虎の一匹に加えなければならない。

 誰が見ても、「一律救済」は受け入れざるを得ない状況に立たされている。

 それを見越してに違いない。福田首相が「政治決断」するためのレールを親切心からか、既に大阪高裁が敷いている。和解案提示に当たっての「所見」を当事者に示したことがそのレールに当たる。内容は、

①「全体的解決のためには原告らの全員一律一括の和解金の要求案は望まし
 いと考える」
②原告側のそのような要求は「国・製薬会社の過失時期の認定が異なる5地
 裁判決を踏まえればその内容に反する」が、「国側の格段の譲歩がない限
 り、和解骨子案として提示しない」というもの。(同『朝日』記事から)

 ①の「望ましい」状況を打ち立てるためには「国側の格段の譲歩」が必要となる。それさえあれば、「和解骨子案として提示」できますよと福田首相の「政治決断」しやすいように誘導路(レール)をつけてやったということだろう。そうでなければ最初に「望ましい」状況を持ってこない。

 福田首相が「政治決断」しやすい誘い水と受け取らずに全員救済案を拒否した場合、裁判所が「望ましい」とした状況を裏切ることになり、少なくとも無視することになり、逆に「望ましい」状況を設定したことが裏目となって、福田首相は選挙戦略上、なおさらに自らを窮地に立たせることになる。

 全員一律救済案を拒否して自民党政権を投げ出す要因の一つにつけ加える勇気は福田首相ならずとも、他の閣僚、また党役員たちも持ち合わせていないだろう。

 小泉前首相の前例もある。熊本・鹿児島両県の国立療養所入所のハンセン病患者ら13名が1998(平成10)年7月31日に国を相手取り国家賠償を請求した裁判で熊本地裁は2001(平成13)年5月11日に国の責任を認めて賠償を命ずる判決を出した。対して旧厚生省は控訴の方針を示したが、小泉首相が控訴断念の「政治決断」を行い、原告勝訴が確定、支持率が朝日新聞の調査で78%から84%に撥ね上がている。裏方で工作したのは当時官房長官だった福田康夫だそうだ。

 支持率が78%もあるから、控訴して少しぐらい下げてもいい余裕があったにも関わらず、それを無視した「政治決断」は、控訴した場合の各種マスコミの情報がハンセン病患者に対する日本政府の隔離政策に集中することを怖れたからだろう。

 集中の過程で、ハンセン病元患者たちから失望と怒りの声を上げた1998年3月発表の「社会復帰支援事業実施要項」の作成に1996(平成8)年11月から1998(平成10)年7月まで橋本内閣のもとで厚生大臣として小泉純一郎も関わっていた事実、その内容が国の隔離政策の犠牲を受けて何十年も施設に閉じ込められ、故郷にも帰れないで過ごした者もたくさんいたハンセン病患者たちに対する代償が一人当たり支援金150万円といった、国の責任を最小限にとどめるケチ臭い補償を計画していたことが暴露された場合の支持率に対するダメージをハンセン病政策の当事者の一人として計算に入れていたはずである。

 所詮政治家と言えども利害の生きものたる人間であることから免れ得るわけではない。選挙での当選・落選の利害、そして政権の維持・獲得の利害を最優先事項として行動する。

 だとしたら、国民は政治家たちが専権事項としている利害を逆利用して、そこに生殺与奪の権を持ち込むべきだろう。政治家たちだけの利害とせず、国民の利害とも一致させることを言う。国民の利害とも一致させるには、政治家を国民に目を向けさせる最も有効な方法が政権交代だということを学ばなければならない。参院野党第一党獲得が既にそのことを証明しつつある。

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