人材派遣会社の不法派遣や不法なピンハネが社会問題となっている。そのことを受けてのことなのだろう、厚生労働省は労働者保護が不十分との指摘が出ている日雇い派遣制度を2008年度にも見直し、規制を強化する方針を固めたという。その柱は、
①派遣先企業に支払い料金を公開させて、派遣会社の極端なピンハネの防
止を図る。
②業務内容など労働条件の事前明示を徹底させる。
紹介手数料、あるいは斡旋手数料と言いながら、江戸時代、いやそれ以前から上前を撥ねるピンハネは目に余るものがあったに違いない。民主主義・人権の今の時代であっても相当にあくどいのだから、時代を溯れば、そのあくどさは過酷の方向に向かう。
江戸時代の徳川幕府という国家権力による年貢徴収に関わる「五公五民」とか「四公六民」とかはその最たる国家公認のピンハネだったろう。今で言うなら、月20万円稼いでも、「五公五民」なら10万円、「四公六民」なら8万円を税金に持っていかれるということである。農民を搾取しながら、身分上は武士の次に置くゴマカシを天下公認としていた。
国民の8割を占めた当時の百姓は一部富農を除いて過酷で難儀な生活を強いられた。現在の格差とは比較にならない格差社会に生かされていた。最下層の水呑み百姓はその名の通り水で水増しした粟・稗雑穀のおかゆばかりを主食としていたという。そうでなければ「水呑み」と呼称されることはなかっただろうから。「高掛りの年貢・諸役や村役を負担しないため、村の構成員と認められなかった」と『日本史広辞典』(山川出版社)には出ている。裏を返せば、負担できるだけの能力・財政的裏づけを持っていなかった程貧しかったということ。村で生活をしながら、村人にうちに入れてもらえなかった。
「高掛り物」江戸時代、村高に応じて賦課された付加税の総称。(『大辞林』三省堂)
桝添口先だけ威勢のいい厚労相は<高齢化社会を支える仕組みづくりを考える「人生85年ビジョン懇談会」を設置>し、ビジョン実現に<ラテン系の人生の楽しみ方や江戸時代の高齢者の暮らしを参考にする>(07.12.24『朝日』夕刊≪人生85年を考える委員に菊川さんら 厚生省が懇談会≫)としている。余裕ある、あるいは余裕の上に粋な老後生活を送ることができたのは特に町に住むほんの一握りの富裕な人間のみなで、それが落語や芝居といった今の時代で言う社会的な情報に当時から取り上げられていたから現在も目立つ記録として記憶されているだけのことで、決して一般的な江戸時代の高齢者の姿ではなく、所詮カネが保障した豊かな老後生活に過ぎない。一方人口の8割を占める百姓の殆どは死ぬまであくせくと働かなければならなかった生涯を送らされ、それが一般的な姿だった。
今の時代の「人生85年ビジョン」に江戸時代の高齢者を参考の対象とすることができるのは知らぬが仏の無知に囚われているからに他ならない。記事は<会のメンバーは女優の菊川怜さんや演出家のテリー伊藤さん、オタク評論家の岡田斗司夫さんら計18人の多彩な顔ぶれが並ぶ。人生85年を生きいきと楽しめるよう、現在の日本と異なる文化や価値観などを参考に、暮らしや働き方に関するビジョンを3月をめどにまとめる。>と伝えているが、老後のカネが保障されるなら他人の世話を待たなくとも自己解決できる「老後ビジョン」であって、年金が満足に受け取れるかどうか老後のカネの保障自体が危うい状況となっていることに一片の考慮を払わずに委員を引き受けて何とも思わないタレント連中もいい気なものだが、年金不安をつくり出した元凶と同じ立場に位置する厚労相にしたら「人生85年ビジョン懇談会」設置の前に老後のカネの保障となる年金問題の解決を先ず優先事項とすべきを、解決の目途が立たない中で人生の楽しみ方を国主導で伝授しようとするのもいい気なものである。
他の時代を参考にとは体のいい口実で、今の時代を誤魔化そうとするサギに違いない。桝添のこれまでの大臣行為からも、詐欺師と疑えないこともない。
池田勇人が首相当時「所得倍増」を叫んでいた高度経済成長時代黎明期には暴力団や暴力団をバックとした組織が東京の山谷、大阪の釜ケ崎、横浜の寿町などのドヤ街でその日暮しのドヤ住人を日雇い労働者に仕立てるべく芋づる式にピックアップして、と言うよりも人狩りして乗り付けさせておいた三輪車の幌つきの荷台にぎゅうぎゅう詰めにして工事現場に運んだ。勿論、日給はピンハネされた。幌つき三輪車は時代の発展と共にダットサン等の幌つきと変わり、10人乗りのバンへと変化していった。
携帯電話の今の時代、日雇い労働者は登録してある人材派遣会社に携帯を入れ、その指示で自分で電車・バス等を使って派遣先まで自分で移動すると言う。人材派遣会社にとっては人狩りに人手と時間の手間が省けて派遣に機能性を持たせることができ、便利な経営となっただろうが、そのことはそのままピンハネによって元々便利な存在だった日雇い人間がなお一層便利な存在となったことを意味する。利便性がギブアンドテークの双方向にではなく、強い立場の者がテークアンドテークする一方にのみ有利に働く状況が経済格差拡大発生の主たる要因なのは言うまでもない。
厚生労働省が「派遣先企業に支払い料金を公開させて、派遣会社の極端なピンハネの防止を図る」といっても、人材派遣が営利事業にとどまる以上、頭を撥ねるだけで実入りのいいピンハネの構造は変わるはずはない。実入りがよくなければ、誰もやらないだろう。人材派遣会社はこれまでも支払うとした給料の中から「データー装備費」とか「保険料」とかの名目を設けて天引きし、巧妙にピンハネの上乗せを図ってきた。「うま味」を確保する法の抜け道を考え出すに違いない。
法の改正によってもしもうま味も何もない人材派遣となったなら、派遣業から撤退する会社が相次ぐことになる。困るのは直接の雇用を避けてコスト削減競争に生き抜かなければならない大手企業である。彼らがそれ相応に持っている政治圧力によって、厚生労働省は程々のうま味を人材派遣会社に保証する中途半端な法改正で終わる恐れがある。
このことは最低賃金が使用者側の企業に配慮されて計算され、時給がなかなか1000円に届かない現状(現行時給平均673円)が証拠立てている。
非正規社員がなくなり、全員が正規社員となることが理想であるが、必要悪として存在し続けることになるなら、日雇い等の非正規社員の賃金をピンハネから可能な限り守る最善の方法は人材派遣業を営利事業から非営利事業に変える以外にない。非営利とするなら、運営主体はNPO以外に考えることはできない。
そこで社民党の出番である。党自体がNPOの代打を務める。護憲や戦争反対にしても、そのことを通した一般生活者の利益を目的として掲げている政策だろうが、日雇い労働者の利益向上を実際面から直接的に支援することは一般労働者の賃金向上政策の一助にもなる。
経営方法としては厚生労働省が日雇い派遣制度改正で方針としようとしている「業務内容など労働条件の事前明示を徹底させる」は当然の措置だが、「派遣先企業に支払い料金を公開させて、派遣会社の極端なピンハネの防止を図る」ではなく、非営利である以上、ピンハネは一切行わないこととする。
派遣先企業の支払い料金をその明細書のコピーをつけて各日雇い労働者に対する支払い賃金とし、そこから派遣業務に必要とする事務経費を差引いて支払う。携帯電話を使えば、特別な事務所もいらない。党本部の一室を宛がうことで片付く。パソコンでの管理をうまくやれば、それ程の人数も要らない。派遣先企業の業種と日雇い労働者が望む労働業種をうまく見合いさせるだけのことで、ときには相性が悪い場面が生じることもあるだろうが、そのときは事務的・機械的に離婚させて、別の見合いを演出させるだけのことである。
但し派遣事業を通して政治資金を稼ごうなどといったスケベ心を出さないことである。出したなら、従来の派遣会社と同じ境遇に堕落することになる。
事務経費を除いた一切の賃金を支払うのだから、交通費等の労働者側の経緯は自己負担とする。当然従来どおりにボーナスもない。かかる事務経費を除いて単なる給料の引渡しのみを役目とする。
相手が自己負担の国民年金ではなく、半額自己負担・半額企業負担の厚生年金を望んだ場合、企業側が支払い義務を負う同額の金額はその事務経費を加算して支払い給料から天引きし、その業務を行うこととする。当然国民年金を望む者と厚生年金を望む者とでは天引きされる事務経費と併せて受け取り給料の額に違いが生じることになる。
日雇い労働者にしても従来の営利の人材派遣会社よりも社民党の非営利の派遣の方がより高額の賃金が保証されるとなったなら、社民党の派遣事業との契約へと雪崩を打つだろうし、日雇い労働者を必要とする企業も、支払い賃金に変りがないとしたら、最終的により高額の賃金を保証する派遣事業所といやでも契約を結ばざるを得なくなる。ピンハネの多い事業所と契約を結ぼうものなら、世間から批判を受けることになるだろうから。
当然のことだが、社民党は契約した労働者に対して選挙のときに社民党候補に投票を義務付けることはできない。選挙運動はできる。最もカネがかからない方法は選挙時に携帯で仕事を指示する機会を通して、社民党候補に一票をと一声かけることだろう。結果は本人の意思に任せるしかないが、与えている利益に対する見返りのそれしかない一票の利益はかなり期待できるのではないだろうか。そのことに賭けた非営利の人材派遣事業とする。
見返りの利益を限りなく確実にするためには誠実に非営利を貫くことであろう。誠実に非営利を貫くということは日雇い労働者の立場に立ち、その利益獲得に最大限貢献すると言うことである。
参考までに≪日雇い派遣の規制強化、料金など明示徹底・厚労省方針≫ (07.12.23/日経新聞インターネット記事)を引用。
厚生労働省は労働者保護が不十分との指摘が出ている日雇い派遣制度を2008年度にも見直し、規制を強化する方針を固めた。派遣先企業が支払う料金を公開させることで派遣会社が極端に多額の手数料をとることを防止したり、業務内容など労働条件の事前明示を徹底することが柱。25日に開く労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の労働力需給制度部会で提案する。
日雇い派遣大手のグッドウィルが労働者派遣法で禁止されている港湾業への派遣などの行為を繰り返していたとして、厚労省は全事業所に事業停止命令を出す方針。与党は「日雇い派遣の制度自体を見直すべきだ」と主張しており、厚労省は具体策の詰めに入った。(12:55)