こうも寒くなってくるというと、蕎麦屋なんぞに駆け込んで
キュ~ッと熱燗なんぞが恋しくなってくる。
こういう時、うどん屋では酒という気にならないが、蕎麦屋は文句なく酒を欲す。
こちらの酒は、賀茂鶴と月桂冠。
「総本家新世界更科」。 明治年間創業、大阪に点在する更科の源流ここにあり。
新世界にあってオールドファッションな店構えを残す、ほとんど唯一の存在。
たのんでみたのは…いりどり
いりどり、ご存じか。 筑前煮のことをいりどりという地方もあるが、
鶏を炒りつけてから煮る、そんな料理法から来てるらしい。
そもそも、こいつは鶏を炒りつけてなどいない気がするのだが。
出汁で煮たかしわを溶き玉子でとじて、三つ葉を散らしてある。
つまりは、親子丼の台抜きというわけだ。
もう一つ、なたね450円というのがあって、これは出汁をきかせた煎り玉子のこと。
小さい玉子の黄身を、なたねの花弁にたとえてある。なんとたおやかな言葉なりしか。
東京神田「まつや」ではいりどりのことを、親子煮と呼んだ。
まつやの親子煮1000円に対し、更科のいりどりは550円。この安さ!
甘口であるが、これがなんとも大阪の蕎麦屋で一杯やっている気にさせてくれる。
ざるは更科特有の一番粉(更科粉)を使ってあるから、白いそば切りになる。
蕎麦の香りに乏しく、野性味は感じにくいが、そこが上品といわれ、
御前蕎麦と相成った。 ざるそば650円 ボリュームもある。
さすがは新世界そだち。上品でお高くとまっていては、この街ではやっていけないだろう。
蕎麦のかすかな香りのために海苔は邪魔になるので、先に酒肴としていただく。
達筆の品書きはたしか二代目の主人が書き残したものだと聞いたことがある。
文楽人形が飾ってあるのも、いかにも大阪の老舗。
さぁ何人の客が人形の存在に気づいているだろうか。
欲をいえば、もっと賑々しく混んでいて欲しい。
広い店内でポツンと酒などやっていては寂しくていけない。
早く店じまいしたいんぢゃないか、など変に店員に気を使う。
こんな店が生き残っていてくれるのは有難いことだが、当節なかなか楽ではなかろう。
どんどんやれることは待っていずにやるに限る。
まだまだ客を呼び込む努力をしているとは言い難い気がする。
そうだ、せっかくこういう素晴らしい佇まいを残しているのだから、
新世界に来る観光客たちに、蕎麦うどんに留まらず古き良き大阪の味を教える場所としてはどうか。
串カツだけじゃない新世界をアピールする急先鋒となってもらいたい、毛受さんには。
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