1998年に刊行した、「中国のチョウ~海の向こうの兄弟たち」(東海大学出版会、カラー図版232頁、解説160頁)には、1988年からの11年間に撮影した、354種の中国産蝶類の生態写真を紹介しています。その後の12年間に、(数えてはいないのですが、おおよその見当では)200種ほどの種が追加出来、少なくとも500種には達しているはずです。
原則として、グループ(種群~科、場合によっては単独の種など、臨機応変に)ごとに、ある程度のまとまりをもって発表して行きたいのですが、植物の場合同様、とりあえずの暫定的な報告として見切り発車をし、将来追加して行く、という方法を取りたいと思っています(種の同定も、原則保留)。
最終的には、(実体双眼顕微鏡が整い次第)紹介した全ての種について、♂♀のゲニタリア図を附添する予定でいます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「青山潤三ネイチャークラブ会報“Nature Asia”」(CD+冊子+写真原板)の配布について
ネイチャークラブ会員を含む支援者には無料で、それ以外の方へは、実費にて配布いたします。入手ご希望の方は、メールアドレスjaoyama10@yahoo.co.jp へお問い合わせ下さい。
2010年12月15日(改訂)号
『中国大陸産ミヤマシロチョウの仲間』
40頁(表紙・目次・奥付け・裏表紙を含む)
サンプル13頁分
サンプル(解説文)
中国大陸産ミヤマシロチョウの仲間(解説文の抜粋)
1【ミヤマシロチョウ属とアカネシロチョウ属】
近縁各属に対するミヤマシロチョウ属Aporiaの特徴は以下の通り。前翅(上側の翅)第9脈(この写真で見えている、前翅の下から6番目の翅脈)が常に明確に備えることで、それを欠く(またはほとんど無い)モンシロチョウ属Pierisと区別でき、第10脈(上から3本目の翅脈)を備えることで、それを欠くアカネシロチョウ属Deliasと区別できます。モンシロチョウ属のような♂の翅の鱗粉に♀を誘因する顕著な特殊鱗(発薫鱗)は持ちませんが、♂交尾器の把握版(valva)の内側に、誘因物質を収めた発香嚢を有します(モンシロチョウ属ではそれを欠き、トガリシロチョウ属Appiasでは交尾器の基端部から生じる長毛の束となります)。モンシロチョウ属をはじめとするシロチョウ類の基本食草は、アブラナ科(及びそれに近縁のフウチョウソウ科)植物が基本ですが、ミヤマシロチョウ属の基本食草はメギ科(アカネシロチョウ属はヤドリギ科)。
≪図説≫ミヤマシロチョウ属Aporia、アカネシロチョウ属Delias、モンシロチョウ属Pierisの、前翅の第7+8+9脈、および第10~12脈の違い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2【タカサゴミヤマシロチョウ】/3【ミヤマシロチョウ】
●タカサゴミヤマシロチョウ(タイワンミヤマシロチョウ)A.genestieri
●ミヤマシロチョウ(中国西南部亜種)A.hippia bieti
文献上の、ミヤマシロチョウAporia hippiaの分布域は、日本(本州)の高山帯のほか、中国北部を含む日本海の北縁地域、中国西部~チベット、タカサゴミヤマシロチョウA.genestieriは、台湾の高山帯のほか、中国西部などとなっています。僕の確認した限りでは、後者の中国での分布域は、長江中流域南側の標高1000~2000mほどの山地帯(湖北省西部~広西壮族自治区北部)で、今までのところ、前者の多産する、中国西南部(雲南省北部など)では、出会っていません。なお、一部の文献では、雲南省西北部産のタカサゴミヤマシロチョウA.genestieri(上記のように僕はこの地域で確認していず、追調査の要有り)を、ミヤマシロチョウA.hippiaと同定していますが、これは明らかな間違いです。一方、中国西南部産の真のミヤマシロチョウは、独立種A.bietiとされることが多いのですが、基本形態はhippiaとの間に差異はなく、hippiaの亜種に留めておくのが妥当と思われます。
≪図説≫ミヤマシロチョウApolia hippiaとタカサゴミヤマシロチョウ(タイワンミヤマシロチョウ)A.genestieriの、後翅中室の形の違い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4【その他の各種:雲南】/5【その他の各種:四川】
●ワイモンミヤマシロチョウ(ナカスジミヤマシロチョウ)A. delavayi
拙書「中国のチョウ」(東海大学出版会1998)で、四川省九塞溝産を「ナカスジミヤマシロチョウ」として紹介してあります(41・76・77・242頁参照)。四川省西部から雲南省北部にかけての、旧・東チベット地域周辺の高標高地に多く見られ、この地域の白いAporiaとしては、最も大型の種です(白い大型種としては、他に四川省九塞溝でエゾシロチョウA.cratageiを撮影/「中国のチョウ」76・242頁参照)。中国産のAporiaには、前後翅外縁の各室内にY字状の黒条が入る種が多数ありますが、後翅中室に2本の黒条を有するのは本種のみです。
●スジグロワイモンシロチョウ(オーベルチュールミヤマシロチョウ)A.oberthueri
本種とヘリグロワイモンシロチョウA.larraldeiは、ワイモンミヤマシロチョウより一回り小型の種。いずれも、四川省西部から雲南省北部の、旧・東チベット高地帯に広く分布しているものと思われます。「中国のチョウ」では四川省大邑県西嶺雪山(大邑原始林)産を、「オーベルチュールミヤマシロチョウ」の和名で紹介しています(76・242頁)。
●ヘリグロワイモンシロチョウ(ミツモンワイモンシロチョウ)A. larraldei
「中国のチョウ」では四川省大邑県西嶺雪山(大邑原始林)産を、「ミツモンミヤマシロチョウ」の和名で紹介(76・242頁)。雲南の訪花写真には登場していませんが、梅里雪山明永氷河末端下での吸水集団には、他の各種に混じって少なからず見出されます。四川では二朗山トンネル近くの渓流や、西嶺雪山(大邑原始林)の渓流沿いに数多く見られます。四川産は雲南産に比べ、明色斑紋が明らかに広く、あるいは互いに異なる分類群に帰属する可能性もあります。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6【吸水】
≪生態写真≫Aporia各種の吸水集団 2009.6.06雲南省迪慶蔵族自治州徳欽県梅里雪山明永氷河末端下
ミヤマシロチョウAporia hippia(手前中央)、スジグロワイモンシロチョウA.oberthueri(手前左)、ワイモンミヤマシロチョウAporia delavayi(手前右ほか)、スジグロチョウモドキA.lihamo(奥右ほか)、ヘリグロワイモンシロチョウA. larraldei(中央右寄り)、タカムクシロチョウA.agathon(中央奥)、ワイルマンシロチョウDelias wilemani(中央左)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7【Pierisに似たAporiaとAporiaに似たPieris】
●スジグロチョウモドキAporia lihamo
一帯に最も多い蝶のひとつで、この地域の固有種と思われます。印象は、Aporiaと言うよりもPieris。ただし翅脈相や♂交尾器は、Aporiaの特徴を示します。2009.6.06 雲南省迪慶蔵族自治州徳欽県梅里雪山明永氷河末端下(3枚とも)
○[参考]オオミヤマスジグロチョウPieris duvernardii
○[参考]ミヤマスジグロチョウPieris davides
○[参考]オオスジグロチョウPieris extensa
□[参考]ワイルマンシロチョウDelias wilemani
□[参考]アカネシロチョウDelias aglaia
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8【標本】
(上記各種のほか、未同定のAporia属の2種、Pieris属の1種を含む)
*同定(種の帰属の可否)は暫定的。近い将来、交尾期の検鏡比較などを行った後、学名を決定する予定です。
[この後、「ベニシジミの仲間」「ツマキチョウの仲間」「ヒカゲチョウの仲間」などの配布を準備しています]