朝日記241212 橘樹住香 歴史逍遙 みなひとの古代の夢にかへらむか
―歴史逍遙―
みなひとの古代の夢にかへらむか
会員 橘樹 住香
(初出し:NPO法人 HEARTの会 会報No.118 2024,夏季号)
松岡映丘に吉村忠夫あり
忠夫 住香庵
さねさし さかむのおのに もゆるひの ほなかにたちて とひきみはも
貫頭衣をもとに装束を考証す
箱根稽古場のすまひから 新緑の山をみわたす その山のいたたきから やまとたけるは 弟橘姫をいたみ さかむの海に あかつまはや となき 吾妻となる
むさしの國のわか苫屋の向ヶ丘は やまとたけるの ゆかりの神木(しぼく)あり 姫の ゆかりと奈良朝には 橘樹(たちばな)郡と名つく 橘樹郡は世田谷から保土ヶ谷まで 生い茂る橘の實をおさむ かつて綺麗な川崎は 長十郎梨の原産地 きよき多摩川をうたふやうに 菜の花にさくら 桃 梨の花の咲きみたれ 桃源郷のなのか また 汽水域に生うる海苔にて 天下一品の浅草海苔となるも 京浜工業地帯となりその名のみのこり 絶ゆ かつては 東国の高野山といはれ 鎌倉のころに 山ふかき原生林の生い茂る柿生に 原産の甘柿の禅寺丸柿のみつけらる なれといくへにも重なる山をきり崩し ヤンキーとなり 近代化 すなはち西洋化により うみやまと おくにふりを なくしてゆくのか
われたつや やまとくにはら ほろほろと なくこえかなし あをかきやまに 住
住香庵
古寺巡礼 ときに はたち いにしえのおもかけの色こき京やまと 二月堂にてめくりあひし日本畫の月岡榮貴に いまどこの宿 若きころはみな奈良博のむかいの日吉館だよ ここは大學の古美研の集ひ 奈良の芸術院とも
お前は何泊するのかとおかみさん 二泊三日 短い そんなんで奈良がわかるのか 會津八一は半月もひと月も泊まり 扁額は八一の筆 いい紙に書くと こはばるが 新聞なら おおらかな書となると 八一へのなつかしさをわれに
宿のこみ ねるところなく 奥のおかみさんのもとへ あるとき 労組により國鉄のとまり 古美研を引率する女子美のときの永井信一學長の手配のバスに 一 緒にと 花のお江戸へ 鎌倉府の技芸をおそわるみちゆきとなる
前田青邨に入江正巳あり
入江のこのゑには 五十年ほと前の 奈良の薬師寺のこひしい 静謐な かなしみあり
ギリシャの あふれんはかりの たまの肌の 女神にひきつけられしローマの人々は アフロディテへの 綺麗さの源の ほんかとりに励む
あをき地中海の 天霊地気の ましろき大理石をてにいれ すへらかな 素肌のいのちを とはに ととむ なんてきれいなのかしら
ローマ カピトリーノ
日が陰りはじめ 人がまばらになり ぐるっと 一気呵成に かいてみる いたらぬところのあるも かいてみると おもしろい
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