ケイの読書日記

個人が書く書評

島田荘司「龍臥亭事件」(上)(下)

2008-09-16 11:35:43 | Weblog
 以前読んだ『龍臥亭幻想』の8年前に起こった事件。面白そうだったので読んでみる。

 御手洗潔が日本を去って1年半。石岡の元を若い女性が訪れ「悪霊祓いに岡山県の山奥に一緒に行って欲しい」と頼む。
 3月末、二人は霊の導くまま過疎の寂しい駅で降り、山の中を分け入り、龍臥亭という旅館にたどり着く。これが身の毛もよだつ怖ろしい大量殺人の幕開けだった。

 ストーリー展開やトリック、ともに無理がある。こんな大量殺人なのに岡山県警の刑事が3人しか来ないというのは、何で?!
 密室殺人やバラバラ殺人てんこ盛りなんだから、報道陣が100人くらい龍臥亭のまわりをとりかこんでいても不思議はないが、最初から最後まで龍臥亭の周りはのんびり牧歌的!!


 ただ、昭和13年に起こった『津山30人殺し』をベースにしているので、本としてはとても面白い。
 『津山30人殺し』とは、横溝正史『八ッ墓村』のモデルとなったあの事件である。フィクションだと思っている人が多いかもしれないが、実際に昭和13年5月21日岡山県の津山地方で22歳の男が、たった2時間の間に村人30人を殺して自殺したのである。

 『八ッ墓村』の殺人鬼は、むら一番の金持ちの放蕩息子で乱暴者で色魔で、女と見ると家の座敷牢に閉じ込めレイプした、ということになっていた。
 しかし実際の津山事件の犯人・都井睦雄は、子どもの頃村一番の秀才で、大人しい男だった。
 進学を希望したが、両親は結核ですでに死んでいて、祖母を一人にはできず、進学を断念。ブラブラしているうちに、この地方の夜這いの悪習に染まり、多くの女と関係を結ぶ。そのほとんどが年上の既婚女性。

 そのうちに自身にも結核の症状が現れ、今まで寝ていた女達に関係を拒まれ、村中に悪口をいいふらされ、睦雄は孤立する。
 彼女達に恨みを募らせ、冷静に計画を練り実行。

 もと優等生が挫折の後、世を恨み大量殺人を計画実行したというのでは、秋葉原の加藤と似ている。が、加藤が「誰でも良かった」と言ったのに対し、睦雄は強い恨みを持っている女達を効率的に血祭りにあげる。
 犯行計画を練ってシッカリ練習し、実行したのである。
 そうでなきゃ、2時間で30人も殺せないよ。


 とにかく、この『津山事件』のインパクトが強すぎて、いくら猟奇犯罪でも龍臥亭事件の印象が薄くなっている。

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2 コメント

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Unknown (たか@ヒゲ眼鏡)
2008-09-17 00:36:02
TBさせて頂きました!
都井は、今で言うストーカー気質だと思う"(^^;"。まあやった事はそれどころじゃないんですが。
それに、プライドが高いんでしょうねえ、優等生だけに。
この作品的には、後半津山事件のノンフィクション的体裁になっていて、小説としてまとまりがよくない、と思いました。
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たかさんへ (kei)
2008-09-17 13:49:47
 コメントありがとうございました。

 しかし2時間で30人っていうのは凄い。その時には死ななくても数日後死んだ人もいるでしょうね。

 この人の生家は、小作ではなく自作農だったので、農村部では極貧と言うわけではない。まあまあの、中農だったわけで、ここまで被害妄想を膨らませなくても、なんとか別の道があったような気がします。
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