ケイの読書日記

個人が書く書評

ポール・アルテ「殺す手紙」

2011-06-28 14:58:51 | Weblog
 ツイスト博士シリーズではないので、あまり期待しなかったが、やはりアルテ、本当に面白いし、とても凝っている。

 
 空襲の焼け跡にある空き地へ行き、指定の時刻ちょうどにランタンをともして欲しい。そして外に出、通りを歩いていると、青いフォードの車がやってくる。
 運転手は道を尋ねるので、それに答えて欲しい。
 そして…。


 親友からラルフに届いた奇妙な手紙。不審に思いながらも事情があるのだろうと、ラルフは指示通り夜の街に出る。
 しかし、奇妙なパーティに紛れ込み、空襲で死んだはずの自分の妻を見かけ、ついには殺人事件に巻き込まれる!!

 ハラハラドキドキの展開で、あっという間に読めてしまう。ポール・アルテを読んでいると宮部みゆきを思い出すなぁ。ストーリー・テイラーなんだ。2人とも。
 読者を飽きさせない力量がある。

 ただ、ツイスト博士が登場するシリーズは適度なユーモアがあり、読後感がいいが、この作品は後味が悪いね。
 どうしてと考えるに、裏切り者ばかりが登場するからだろう。死んでも惜しくない人ばかり。


 話はガラッと変わる。ラルフの妻は1941年にロンドンのアパートで、ドイツ空軍の爆撃を受け死ぬが、そんなに早々とロンドンって空爆されたのだ。ちょっと驚き!!
 首都が大空襲を受けてもめげず、イギリス人は巻き返したのだ。えらいもんだ。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

佐野洋子「シズコさん」

2011-06-23 11:26:22 | Weblog
 佐野洋子さんと聞いても、ピンとこないかもしれないが、絵本『100万回生きたねこ』の作者といえば、誰もが思い当たるに違いない。
 そう、あの名作絵本を描いた人なのだ。ついこの間、亡くなったよね。
 「シズコ」とはお母様の名前。

 筆者は昭和13年生まれで芸大を出ているんだから、大変なお金持ちのお嬢様と思いきや…中国からの引揚者で、とても苦労したらしい。
 おまけに、浪人中、お父様が病気で亡くなった。

 だから、苦労して芸大を出してくれたお母様と仲が良いのかと思ったが、実際はその反対で、筆者はお母様を好きではなかった。
 筆者は、その事でずっと心を痛めていた。「私はなんて冷たい娘なんだ」と。

 ところが、大人になり交遊が広がると、母親が嫌いという娘は決して珍しくない、と気付く。

 父親と娘、母親と息子、この困難な関係をフロイトは分析しているが、母親と娘の難しい関係を、なぜフロイトは取り上げなかったんだろう、それは彼が男だからだ、と彼女は言う。

 お母様が、高級老人ホームに入居し(なんと、1ヶ月35万円!)ボケ始めると…やっと筆者は優しい気持ちを持つようになる。
 そして93才でお母様が永眠。

 長い!本当に長い!! 娘の方が先にくたばってしまいそうだ。(事実、筆者はその時乳癌が再発していて車椅子生活だった)

 「孝行を したい時には 親は無し」は昔の事で、今は「孝行を しきれないほど 親が生き」なのだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

京極夏彦「死ねばいいのに」

2011-06-18 09:59:55 | Weblog
 アサミという女が死んだ。殺されたらしい。知り合いのケンジ(情人ではない。本当の知り合い。4回会っただけ)が、アサミの事をもっと知りたいと、彼女の周辺にいた人たちに彼女の事を尋ねて回る。

1人目 職場の上司。不倫とまでいかないが、数回、関係を持つ。
2人目 住んでいたアパートの隣の部屋の女。
3人目 アサミの情人。ヤクザの下っ端。
4人目 アサミの母親。ギャンブルと株と借金で生活している。
5人目 アサミが殺された事件を担当していた刑事。

 彼らは、ケンジにアサミの事を聞きたいと言われるのだが、喋るのはアサミの事ではなく自分自身のことばかり。
 それも、愚痴や不平や憤りや…そんなのばっかり。アンタのそんな話を聞きたいわけじゃねーんだよ! そこで決めゼリフ「死ねばいいのに」

 本当にアサミってどんな女だったんだろう?アサミの事を知れば知るほど分からなくなる。
 最後にアサミ殺しの犯人は捕まるが、それでも不完全燃焼。すっきりしない。

 難しい漢字が出てこないのでサクサク読めるし面白いが、評価は分かれるだろう。初めて京極夏彦を読む人には、オススメしない1冊。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

北村薫「鷺と雪」

2011-06-13 13:40:45 | Weblog
 第141回直木賞受賞作品。
 北村薫らしく、ミステリとは言えないほどの日常のちょっとした謎を解く、3つの中編集。
 ただ、いつもと変わっているのは時代背景と舞台設定。

 昭和11年に起こった2.26事件、その前夜、軍部が台頭してくる不穏な時代の東京。
 良家の令嬢・英子が、女性運転手のベッキーさん(本名は別宮)と一緒に謎を解決していく。

 時代が時代なだけに、いくら皇族・華族の方々が通う超お嬢様校でも、「軍事訓練」とか「鬼畜米英」とかやってるんだろうかと思っていたら、まるで違って本当に優雅。
 英語だけでなくフランス語もある。まだ戦争に突入してないからね。

 公爵様とか伯爵令嬢とか、肩書きだけみれば、フランス宮廷にいるみたい。
 主人公・英子の父は、皇族・華族ではないが、財閥系の商事会社の社長で、家に何人もの使用人がいて、その1人がベッキーさん。
 英子はベッキーさんの運転するフォードで毎朝学校に行く。
 日曜は兄に連れられ、銀座で買い物。
 夏休みは、家族揃って軽井沢。

 資源も何もない日本で、上がこんなに贅沢すれば、下の方の取り分が無くなり貧しくなる一方だと批判めいた気分にもなるが…これは小説。優美な時間を束の間だけでも楽しもう。
 しかし、最後は2.26事件で終わる。日本はこれから後戻りできない道を進んでいく。

 今後、英子や彼女の家族・友人・ベッキーさんがぶつかるだろう困難を想像すると、暗澹たる気分になるね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

林真理子「下流の宴」

2011-06-08 14:59:00 | Weblog
 偶然だが、今NHKで、黒木瞳主演「下流の宴」を放送してるね。見たいけど、ちょうどその時間、私は『ガイアの夜明け』を見るので残念だがパス。

 林真理子の作品にしては後味の良い小説だった。いつもムカつく女が成功する話が多いが、これはちょっと違う。

 
 48才の福原由美子は、夫と娘・息子がいる専業主婦。夫は、出世コースは外れているが、一応有名企業のサラリーマン、娘は上昇志向の強い(つまり玉の輿願望の強い)OL。
 そして息子は、親が中学受験させ、まあまあの中高一貫校に入れたが、高校中退し今はフリーター。
 この息子が親と喧嘩して家を出てから、彼女と同棲を始める。
 由美子は、その彼女・珠緒と会ったが、下品で不器量で頭が悪いとボロクソにこき下ろす。

由美子「私の実家は医者だったんです。言ってはナンですけど、沖縄のどっかの島で飲み屋をしているあなたの家と違うんです。」

息子の彼女・珠緒「医者の娘っていうことでそんなにえらいんなら、私が医者になりますよ」

 そして珠緒は、周りが驚くほどの集中力と努力で、2年後、なんと地方の国立大学医学部に合格するのだ。

 お伽噺じみているが、ごく少数でもこういう人っている。


 それと対極なのが、由美子の娘・可奈。玉の輿ねらいなので、派遣会社に登録。毎朝おしゃれして、ミッドタウンにある会社に出掛ける。
 高収入の男と結婚し、安逸な生活を手に入れることを人生の目標にしている。
 高給取りの外資系金融マンと結婚し、白金マダムとして楽しい生活を送っていたが、夫がストレスから鬱病を発症し…。

 人生というのは、なかなか良く出来ていますね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする