フランス生まれのイギリス人作家、モーム。恥ずかしながら、私はこの作家名を全く知りませんでした。『新訳シリーズ』一覧表を見ながら、次はどれを読もうか~ 月つながりで、「月と六ペンス」にしよう、と思い、『予約貸し出しカード』に記入したのは先週のこと。翌々日、図書館へ立ち寄り、受け取ってきました。最初の方こそ、物語が始まるというよりは、ストリックランドという名の画家と芸術作品について、「理解不能な人物だが、偉大な芸術家だった」という説明が延々と続くかと思われ...少し退屈しかけたところで、作家の卵である主人公の「私」の目を通して、(晩年をタヒチで過ごしたゴーギャンがモデルと言われる)ストリックランドの人生が語られ...物語の幕が開く...♪
気付けば、のめり込むように物語の世界へ入っていき、主人公と同じく ストリックランド、という人物について、その言動、精神性、人を人とも思っていないかのような人となりについて、考察し始めました。
”人生や人間観察に関わる深遠なメッセージを探したい読者”には、十分すぎる手応えがあります。モームという作家を今の今まで知らずにいたことを残念にすら思いました。これまでの疑問に対する答えがすべて、ここにある!と言っても過言ではないほどなのに!
ストリックランド… 類まれな才能の持ち主であったか、そうでないか?という点を除くと、そっくりな人を実際に数人知っています。不可解な言動には傷付きもし、ずっと振り回されてきました。
「芸の為なら女房も泣かす♪」という演歌があったと思いますが、ここでいう芸は美。 絵画でも、戯曲でも、小説でも、芸術であれば何でも。泣かす相手は女房・女でなくとも、同性でも子供でも親でも知人でも、通りすがりの人でも誰でも..です。
佐藤浩市さんが父親について語っていた日を思い出しました。「世間にとって父は偉大は俳優だったかもしれない。しかし、子供だった自分も母も寂しい思いをしてきた。自分も父親になった今、余計にそう思う。父の存在は、反面教師」
ストリックランド... stric land 厳しい島 なんて名前。 カタカナ名はすぐ忘れる自分でも、こりゃ、記憶に残る!実際には翻訳を読んでいるため、英語でどう綴るかは不明ではありますが。
主人公の「私」は若い作家であり、読者「すず」でもあります。主人公「私」の目を通して、読者もストリックランドと 望むと望まないと、関わりを持っていくのです。相手が嫌がっていると悟ると、ニヤニヤしながら食事に誘ったり、関わりを持とうとするストリックランド。嫌悪感を持って、無視しようとしても、しつこい相手に最後は押し通されてしまう。
ある日、突然パリへ行くと宣言した手紙のみを妻に送ったストリックランド。それまで17年間も一般人として家族と生活をしてきたというのに。一方的に、理由も告げず、何の説明もせず、妻も子供も捨てたのですよ! もし、自分の身にこんなことが起きたら、納得できますか?
ここから少し、あらすじを~
「私」はストリックランドの妻から、自宅へ戻るよう夫を説得してほしいと託されるが一蹴される。 ストリックランドは絵さえ描ければそれでよいらしく、物欲はない。まともな食事もしない、お金もない、よってガリガリに痩せ、遂には衰弱して死にかける。そんな彼を自宅へ運び出し、献身的に看病した人がいた。彼の才能を 世間が彼の死後に認めるずっと前から崇拝していた善良な画家(しかし、売れてはいない)ストルーブと、その妻、ブランチだった。ところが、献身的な看護で回復したストリックランドは、夫ストルーブの留守中、ブランチを寝取り、彼女を自殺に追い込む。善良な二人の恩に報いるどころか、死に追いやったストリックランドに対して、「私」は順を追って説明していく。
①まず、貴方は死にかけていた。
②そこをストルーブと妻ブランチが介抱し、死の淵から蘇った。
③善良な夫婦の幸せを 気まぐれで妻を寝取ることで、滅茶滅茶にした。(ストルーブは失意の後、故郷オランダへ戻り、画家を諦める)
イギリスへ残してきた、いや、一方的に捨てた家族といい、今回の夫婦といい...
あなたには良心というものがないのか?
この問いに対する、ストリックランドの答えが、ホモサピエンス誕生の頃、或はもっと後でも良いものの、文明社会を無視したかのような、しかし、「原始的」で、「真実」故に誰もが一般的には認めないことを 言葉にして述べている... 暴言にも聞こえるものの...
ストローブもブランチも、人助けが好きでやっている。勝手にやらせておけば良い。自分にゃ関係ねぇ。ブランチが死んだのは、自分のせいではない。彼女が弱いからだ。愚かで不安定な女だからだ。
「女ってのは、愛したら相手の魂を所有するまで満足せんのだ。弱いくせに ー いや、だからかー 支配力は激烈で、魂の支配までいかんと気がすまん。知性も劣るぞ。抽象的な話題なんぞ持ち出してみろ。理解できんと言って憎まれる。理想なんて説いたところで妬みを買うのが関の山だ。男の魂は宇宙の果てまでさまよう。だが女はそれを家計簿の中に閉じ込めたがる。俺の女房を覚えているか?ブランチも同じさ。おれを罠にかけ縛ろうとした。自分が立つ地面まで引きずり下ろそうとした。おれのために何かをしたかったんじゃない。ただおれを自分のものにしたかっただけだ。おれはほっといてもらうことが望みなのに、何でもすると言いながら、それだけは絶対にしてくれなかった」(266ページ10行~)
そしてー 主人公「私」が言う。「なぜ私に構うんです? あなたを嫌い、軽蔑していると分っていながら」
ストリックランドは言う、腹立たしく感じるのは、「君が気に入らんのは、君にどう思われようと、おれが気にしないってことだけじゃないのか?」(269ページ)
要するに「無関心」ですね。人に対して関心がない。己のみ。いるな...このタイプ。小説は次のように続きます。折角なので抜粋します:
突然の怒りで頬が紅潮するのが分かった。無神経な身勝手さに我慢できない人間もいるーそれをこの男にわからせることは どうやら不可能だ。徹底した無関心がこの男の鎧。私はいつかそれを突き破りたいと願いながら、ストリックランドの言葉の真実を認めざるを得なかった。私たちは相手がこちらの意見に耳を傾け、こちらの影響下に入ることを たとえ無意識であれ期待している。期待が裏切られると相手を憎む。
「他人を完全に無視するなんて、人間に出来るでしょうか。」と私はーストリックランドにというより自分自身に言った。「人間は存在のすべてを他者に負っています。自分だけで自分のためだけに生きようとするのは、無謀な試みというしかありません。いつか疲れ果て、老い、群れに戻るしかない...略」(270ページ)
この作家、凄い、と思わず唸ってしまいました。人は、皆がみな、言葉を使って適格に表現できる能力が備わっているわけではありません。なので、遂、何が言いたいんだか! と日常生活では思考回路がぐるぐるしがち。理解しようと努力はしても、成功したためしがなく、価値観の違い、で終了。
「月と六ペンス」を読み終わり、アダムとイブを思い出し、「野生のゴリラだって森で群れるよね」と思い...
主人公「私」の問いかけ(270ページ)は最もで、殆どの人は日頃、感じている事だろうし、「自分は介抱されても人の介抱はしたくない」のであれば、最初から結婚するな、無人島へ行ってくれ!とストリックランドに暴言....あれ? ほんとに南の島へ行ったんだ...。
最終的に、群れに戻ったかどうか?は、本を読み、「その後」のご確認を~
ウィリアム・サマセット・モームは名前だけはなんとなく聞いたことある感じです。
ストリックランドさんなんとなく新庄がイメージされた?
新庄には子供はいなかったけど。
名前だけでも、御存知だったんですね。
わたしは全く!
英文学を専攻したのに、オハズカシイ限りです。
ストリックランドさんは新庄氏?
そういえば、インドネシアへ移住したんでしたっけ?
おはようございます。
月と六ペンスもウィリアム・サマセット・モームも名前だけは知っていました。
ちっとも自慢にはなりませんね。
本は読んでいないのですから。(笑)
ゴーギャンがモデルだと言うことくらいしか知りません。
何と言う浅はかな知識!?
作者名と作品名、それにゴーギャンがモデルということまで、すでに御存知だったのですね!
私みたいに、何も知らないよりは、すでに十分かと思います。
私の場合、たまたま、でしたので。
もしかすると既に届いているのかもしれませんが、
送信エラーではないかと思い、もう一度送信してみました。
月と6ペンスというタイトル(言葉)は何度か聞いたがありますが、作品を読んだこともなく、今、
すずさんの記事からある程度想像しながらのコメントですが・・・
”人生や人間観察に関わる深遠なメッセージを探したい読者”にはという言葉が先ず強く心に残りました。
すずさんが、主人公(私)=自分(すずさん)と思うところにも大きな関心がありますが、傲慢で相手に嫌悪感を持たせるようなそしてしつこい人物に興味を?・・・
17年間もおそらく何不自由ない生活をしてきたストリックランドという男が何もかも捨ててまでも求めようとしたものは?・・・
他人に嫌われても心を突き動かし自分勝手(?)な行動に突き進むその思いは何だったのか?・・・など
すずさんの記事を深読みし、私が勝手に思うことも多々ありますが「芸術」の尊さ、と同時に残酷さのようなものも感じましたね。
ひどい仕打ちに遭ってもなお、ストリックランドを知ろうとする主人公「私」の凄さ・・・
と同時に>『この作家、凄い、と思わず唸ってしまいました。』
と感じたすずさんの心境など今の私(fumiel shima)にくみ取れるでしょうか・・・
これは是非読んでみて群れに戻ったかどうかを確認しなければ・・・・ですよね。
そして月は何か?6ペンスは何を意味するのかも・・・
コメントありがとうございます。
最後まで著書を読んでも、タイトル、「月と六ペンス」の意味は分かりませんでしたが、解説で説明されていました。
これではない著書の書評で、「月(憧れの対象)を眺めていると、足元に六ペンスが落ちていることに気付かない」そんな小説~みたいな。
これ、この小説にも使える!と思ったモームがタイトルにしたとか。
すでに本は図書館に返却したため手元になく、正確に引用出来ず、すみません💦
お気付きかとは思いますが、ブログ記事中、太字の部分は、著書からの抜粋です。
”人生や人間観察に関わる深遠なメッセージを探したい読者”も。
例えば、”イギリス風ジョークにニヤリと笑いたい人にも”
...のように、いくつか 「こういう読者を満足させられる小節」として、解説されています。
ということは、あらゆる角度から楽しめるし、自分にとっては学べる”人間観察の指南書”とでもいうべき?小説でした。
解説は最後に読みましたが、「あ~これ、私も思った!」という点が他にも。
シナ人コックや日本人、それにアメリカ人など、主要登場人物以外の人種が様々で国際色豊かなこと。
まるで、人種のるつぼと呼ばれたシドニーのようです。
第一次世界大戦の時期に書かれていますから、世界の勢力図を垣間見ることが出来ると...
当時の新興国は米国と日本ですよね。
あとから、言われてみて、なるほど~でした。
ストリックランド
基本的には 人に対して「無関心」なんですね。
なのに、相手が嫌悪していると悟ると、構う。
最悪ですね、人間関係として。
「人として、こういう言動は、どうなのか?」
と思った主人公「私」が助言すると、すでに引用したようなセリフを言う。
まるでストリックランドの心には届かない訳です。
「生まれつき目が見えない人に、色を説明しようとするようなものだ」
と主人公はいいます。ちょっと差別用語とも取れるので、書きませんでしたが。
まるでわかり合えない。無駄な努力だと思いながら、懸命に説明しようとする「私」
理解しようと努める「私」、つまり主人公ですね。
でも、結構、周囲にいませんか?
ここまで極端でなくとも、
「親の介護はしたくない。5人兄弟でたらいまわし。殆どしなかった。でも、自分の介護は将来、娘にしてもらいたい」
私が小学生だった頃、結構👂にした大人たちの台詞でした。
まだ介護保険もなかった時代ですからね。
子供だった自分は、思ったものです。
自分の親を(いかなる親でも)大切にできない人は、まず配偶者の親を邪険に扱うだろうと。
自分の老後をわが子に面倒みてもらいたいのであれば、態度で見せればいいのに~と。
小学生にもわかることが、兄弟姉妹が多い大人たちには分らないんだな~と。
この小説は、そんな大人たち、いや、人間の 本心を語ってくれている。
ストリックランドは、「自由」というけれど、責任が伴う自由ではなくて、探究する美のためなら 何をやってもいい自由。
それらが許されないと、「束縛」「支配」となるようです。
一般的には、「良心」「責任」「思いやり」だと思うのですが。
芸術は残酷... そうですよね。
両立する芸術家も、勿論、大勢いますが、おちょやんの元夫も...。
多くの芸 或は美 というものは、多くの犠牲を払って生まれたものも多いのだろうな、と思うと、美術品を鑑賞する目も、また変わってきますね。
これは、お勧めの中のお勧めですよー📚
モームさんが生きていたら、
「あなたのお陰で謎が解けました!ありがとうございました!」とファンメールしたい気分です。
昨夜は素敵な演奏をありがとうございました。
(^^♪
片頭痛は昼頃まで引きずり、仕事中はちょっと辛かったものの、夕方には回復しました👍
そして~
知らなかったのは私だけみたい~💦
流石、皆さん、有名どころの作家とあらすじは御存知なんですね。
これを機会に、「聞いたこともない」という作家さんたちが書いた「古典」
色々と読んでみたいです。