本家ヤースケ伝

年取ってから困ること、考えること、興味を惹かれること・・の総集編だろうか。

『名人戦』を争う『迷人戦』・・朝日vs毎日。

2006-04-18 16:23:28 | 囲碁・将棋
*松岡正剛の千夜千冊『名人に香車を引いた男』(升田幸三)はここです。→http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0841.html

 この一文は前半は正剛らしさの出ていない駄文(失礼!)だったけれど、後半は面白かったです。w

*今日はこれまでにも何回か取り上げたことのある将棋の話です。
 『名人戦』という『名人位』を争うタイトル戦の主催(公式スポンサー)を巡って『天下の朝日』と『毎日新聞』がまたもや醜い(?)争いを始めたらしいのです。(ニュースソースは例によって昨夕の関西のTV番組です。w)

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 ではこれまでの経緯のおさらいをさらっと(?)してみます。

'35年・・毎日新聞が『実力制名人戦』を始める。それまでは安土桃山の時代から(?)『世襲制』だった名人位を、これ以降は一つのタイトルとして各棋士らが実力で争覇するようになった。
 『毎日新聞』と言えども我が世の春を謳歌した時代もあるので、現在のような朝日・読売に大きく水を開けられ弱体化した全国紙を連想してはいけません。w

'50年・・『名人戦』が朝日新聞に移籍。
    この間の事情は私は知らないのです。
(後註:これについてはオペロンという方がコメントしてくれました。)

'77年・・将棋連盟と朝日新聞が契約金を巡って対立。この結果『順位戦』が1年間中止という異例の事態に陥った。

 『将棋順位戦』というのは1年を通して行われる階級制のリーグ戦で、最上位の『A級』リーグの優勝者だけがその年の『名人位』に挑戦出来るシステムである。『名人位』というのは1年間有効の名誉会員(?)みたいなもので、仮にこのタイトルだけしか持っていなくても充分に生活は成り立つ。
 つまり1年に一度の『名人戦』は7番勝負だから、理屈としては『名人』は1年に4勝だけすればタイトルは防衛できるから生活には困らないわけである。w
 (勿論名人位に就くような人は他の棋戦でも概ね勝ちまくるから、こういう事態は実際にはあり得ない。w)

 何故連盟と朝日が揉めたのか、私はおぼろげに覚えているのです。

 新聞には『囲碁・将棋欄』というものが付き物である。
 今はwebとか媒体が沢山あるので事情が違って来ましたが、昔はこのどちらかを(或いは両方共?)趣味に持つ人は毎朝必ず新聞の『囲碁・将棋欄』に目を通していたものです。

 ここにはプロ棋士たちが各紙の新聞棋戦で指した(囲碁なら「打った」)『棋譜』(←記録のこと)が連日譜面付きで小出しに掲載されているのです。それを書くのが各新聞社お抱えの観戦記者で、対局場のご当地ものならまだしも、対戦者が昼飯に何を喰い、おやつには何を食ったとかいうアホみたいな(?)定番の記述も多い。

 で、朝日文化部はこの『囲碁・将棋欄』の両方に『名人戦』を並べようと画策した。それまでの朝日は『将棋名人戦』だけの主催で、囲碁の方はというと『プロ・アマ十傑戦』という何の権威も伝統もない(?)トーナメントのようなことをやっていたので、これでは朝日の権威主義者たちは納得出来なかったらしい。

 元々囲碁界には『本因坊』(位)という格式高い権威があるが、これも今では毎日新聞のタイトル戦・リーグ戦に編成されていて、こちらはちょっとやそっとでは毎日側も手放そうとはしないだろう・・ということで、ならばと読売の囲碁名人戦に目をつけたのです。

 ここで『読売新聞』は『囲碁・将棋』にどういうスタンスをとっているかというと、要するにプロである以上金が(つまり契約金が)問題だろう、うちは金なら出すぜ、という実にあっけらかんとしたわかり易い政策です。w
 そのため読売は、将棋で言えば今はそれまで主催していた『十段戦』を解消し、『竜王(位)』という破格の契約金でのタイトル戦を始めており、この竜王戦は名人戦と同格の権威ある扱いとなっています。
 ちなみに今このタイトルを持っているのは渡辺明という若手ナンバーワン棋士で、彼はgooのblogもやっていて結構人気があるみたいです。w

 将棋連盟の側からすれば、隣の欄にどんな囲碁棋戦が来ようと関係ないじゃないかと思う向きもありましょうが、問題はトレードに要したというその契約金です。

 確か、億単位で囲碁の方が優遇されているということが明らかになってしまったものだからたまらない。常日頃から囲碁と比較され「社長室には『日経』で趣味は『囲碁』」なら優良企業、「『スポニチ』片手に縁台将棋」ではその辺の町工場・・などと揶揄されているものだから、このライバル意識は尋常なものではない。日本将棋連盟というプロ棋士の団体は総会を開き怒りまくってついには朝日と訣別する道を選びました。(後に和解)

 私は日本の将棋文化はある意味囲碁以上と思っているけれど、しかし歴史的に言えば、例えば天下の将軍様にお披露目する『お城将棋』にしても、あれはあくまで『お城碁』の前座の扱いだったし、将棋家元の俸給も本因坊を筆頭とする囲碁四大家元には遥かに及ばなかったわけです。

 『新聞将棋』にしても、あれはどの新聞だったか、一時期囲碁欄より狭いスペースしか与えられなかったことがありますし、NHKTVの『NHK杯』囲碁・将棋トーナメントでも、これも一時期囲碁の方が30分間放映時間が長かった期間もありました。
 このことについて、加藤一二三九段が「(囲碁界と将棋界との間に)兄弟を措かず待遇して欲しい」とNHK側へ抗議した際には現米長将棋連盟会長も絶賛したものです。
 要するに歴史的には将棋の方が囲碁よりも「下に見られる」ことはあっても優遇されたり上位の扱いを受けたりしたことはかつて一度もなかったのですが、だからと言って将棋と囲碁とではゲームとしてどちらがより高尚だなどということは言える筈もないのです。
    
'78年・・それで朝日は囲碁『名人戦』のトレードには成功しましたが、今度は将棋連盟に臍を曲げられ逃げられてしまい元の木阿弥に。
 宙に浮いた『将棋名人戦』を毎日が引き受け、名人戦が再び毎日新聞に移籍したのです。
 しかしここに一つ問題が生じた。
 それは元々毎日が持っていた『王将戦』という伝統ある棋戦の扱いをどうするかということです。毎日新聞がタイトル戦を二つ持っていても仕方ないので、これは結局『スポニチ主催』というふうに形を変えて現在に至っています。

'06年・・で、このまま特に問題もなく推移して行くのかと思ったら、今回の騒動で再び三度『名人戦』は朝日へトレードか?!なんてことが言われている。

 連盟と毎日と朝日の間で三者三様に言うことが違っているようなので、どういう決着を見るのかはまだわかりません。笑
 '06.03.13の時点で、朝日と連盟との間で名人戦移籍に関して毎日とは破格の(?)条件提示があった。(←どちらが条件を持ち出したのかは不明)
 同日の毎日社説は「名人戦は手放さない!」と反論。面白くなって来た。

 ここで数字を少し上げると、毎日の現状3億3,400万円の名人戦契約金に対し、朝日は総額5億4,500万円の契約提示ということらしいが、これから移籍成立後廃止される筈の現『朝日オープン』棋戦の契約金1億3,500万円を差っ引くと、大差ないじゃないかというのが昨夕『ムーブ!』の分析だった。
 ちなみにスポニチ主催の王将戦の契約金は7,800万円に過ぎないというのだから、こちらは随分低く抑えられている。

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 まあしかしね、他のプロスポーツとの比較からして(←中国では囲碁は体育=スポーツの扱い)将棋棋士たちの待遇は低過ぎるかも知れない。
「将棋はルールを知っている人は多くても本格的に定跡(定石)を学ぼうという人は(囲碁よりも)少ない」と以前は言われましたが、今はどうでしょう?
 将棋ソフトの普及とかが著しい上、ファン層もまだまだ囲碁よりは底辺が広いと思いますよ。

「将棋しか出来ないんだから(将棋棋士の年棒が低くても)しょうがない」なんて言うんなら、野球しか出来ない人もサッカーしか出来ない人もゴルフしか出来ない人も大勢いて、トップクラスはみんな億単位の年棒があるでしょう?
 でも将棋界では毎年1億円の収入がある人は一人しか出ませんね。(あくまで賞金のみの話だけど。)
「一芸に秀でる」ってことはみな凄いことなんですよ♪

 てか、財源を旧態依然たる各新聞社からの契約金に依存しているのがそもそも時代遅れそのものではありませんかね。
 パトロンはITとか、もっと景気のいいところに求めたらいいのだ♪

 それで思い出したけど、かつてホリエモンが産経新聞と論争(?)して、
「右翼なんてそんな儲からないことは止めろ」と忠告していたのには笑いました。

 さて、メディアとしての有効性が今や問われている新聞には、『権威主義』に走っている余裕なんてないのではありませんか? w

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*ウィキペディア本因坊はここです。→http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AC%E5%9B%A0%E5%9D%8A

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4 コメント

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昭和25年の (オベロン)
2006-04-18 17:49:58
昭和25(’50)年の「名人戦」の毎日から朝日への「移行」は要約すればこういうことです。
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名人戦の「移行」は (オベロン)
2006-04-18 18:16:52
失礼、さて昭和23年度の第8期名人戦は契約金額100万円でした。それが第9期の将棋連盟の要求は3倍の300万円+寄付金50万の、計350万円、インフレの激しかった当時で連盟も苦しかったがそれだけのお金は毎日新聞にとっても大金だった。交渉が繰り返されて、250万円でなんとか落ち着きそうになったところへ、毎日新聞のあずかり知らぬところでで朝日新聞がこの交渉を知り300万円ポンと出して契約した、ということです。今回のケースによく似ています。加藤治郎八段と升田幸三九段が深くこの経緯に関わっていたといいます。朝日のこの行為に当時の毎日の記者だった村松喬は激怒して、『将棋戦国史』(独楽書房1500円)に「名人戦窃盗事件」と題してこの顛末を詳しく述べています。朝日はのちに囲碁名人戦をも読売から奪取したので村松は朝日新聞を「盗癖」のある新聞社だ、とまで言い切り、そのようなことを三たびするべきではない、と言っていますが、今回はしなくもその三度目をわれわれは眼前にしているわけです。村松の言うことには確かに説得力があります。彼はこの著の終わり近くで、読者にとって棋戦が必要ならば、自分のところで辛抱強くつくりあげるべきだ、金で横っ面をひっぱたいて、同業者の鼻毛を抜くようなことをすべきではない、と言っています。名人戦のかわりとして、歯をくいしばって王将戦を立ち上げた一人の言葉だけに、なるほどそうだ、と思わされます。

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コメント御礼。 (goodmiwatya)
2006-04-18 21:17:52
ご丁寧な解説ありがとうございました。

言われて思い出しましたが昔そう言えば誰かに似たような話を聞いたことがあります。

それにしても朝日はそんなに昔から名人戦に岡惚れしご執心していたのですね。w

何なんでしょう?

わかりませんね。



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朝日は… (オベロン)
2006-04-18 21:36:12
朝日新聞は自分のところが最高の新聞社だ、という自負があるようで、だから棋戦も一番のものがどうしても欲しいみたいです。それはいいんだが、自分のところでそれを作ろうとはせず、他社が一所懸命育て上げたものを金にあかせて虎視眈々と奪い取ろうとする。なかなか見上げた新聞社のようですよ。

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