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余裕ある小説

2015-10-31 | 日本語百科
余裕派を検索して、余裕派という名称は、

>漱石が虚子の小説『鶏頭』の序文で「余裕のある小説と、余裕のない小説」と書いたことに由来する 

という、ウイキペディアの解説を得て、高踏的、低徊趣味はさておき、まずは鶏頭の序によってみる。

いま、その序文は青空文庫で読む。
次のようである。

逼る、せまらないをいうが、それではわかりにくいというわけか、

>余裕のある小説と、余裕のない小説である。ただ是丈これだけでは殆ほとんど要領を得ない。のみならず言句にまつわると褒貶ほうへんの意を寓ぐうしてあるかの様にも聞える。かたがた説明の要がある。
 余裕のある小説と云うのは、名の示す如く逼せまらない小説である。「非常」と云う字を避けた小説である。不断着の小説である。  

と、述べている。

余裕のない様には、行屎走尿すら便じなくなる、余裕のない極端、という言いようがあって、はなはだ、表現を超える。
余裕はただに、

>世の中は広い。広い世の中に住み方も色々ある。其住み方の色々を随縁臨機ずいえんりんきに楽しむのも余裕である。観察するのも余裕である。味わうのも余裕である。此等の余裕を待って始めて生ずる事件なり事件に対する情緒なりは矢張やはり依然として人生である。

というようなことである。

茶を品し花に灌ぐのも余裕
冗談を云うのも余裕
絵画彫刻に間を遣るのも余裕
釣も謡も芝居も避暑も湯治も余裕

かくして漱石の言う、余裕はわかりよい。
虚子の小説の序文である。


低徊趣味については。次のように言う。
>文章に低徊趣味と云う一種の趣味がある。是は便宜の為め余の製造した言語であるから他人には解り様がなかろうが先まず一と口に云うと一事に即し一物に倒して、独特もしくは連想の興味を起して、左から眺めたり右から眺めたりして容易に去り難いと云う風な趣味を指すのである。



http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/2667_6504.html
高浜虚子著『鶏頭』序  明治四十年十一月

底本:「筑摩全集類聚版 夏目漱石全集 10」筑摩書房 
   1972(昭和47)年1月10日第1刷発行
※底本はこの作品で「門<日」と「門<月」を使い分けており、「間《かん》を遣《や》る」と「間人《かんじん》」には、「門<月」をあてている。「門<月」は「閑」の意味で使用されている。



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