チャイナショックはブラックマンデーとなり、うけとめかたがさまざまだ。国と地域によって、影響を受けるのが、オーストラリアなど輸入国であって、欧米、日本など、輸出国ではない、という論調もある。中国経済の減速に何が起こるか、世界が冷静になろうとしている。中国がこの大殺りくの阻止も否定もしなくなった、という、書き出しにびっくり、電子版社説にFTの略語があって、日本経済新聞のもの。
[FT]暗黒の月曜日、選択迫られる中国(社説)
2015/8/25 14:00日本経済新聞 電子版
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中国当局がもはやこの大殺りくの阻止も否定もしなくなったことは、中国株式市場の調整の過酷な状況を物語っている。株式ブローカーの取引画面には消し去りたいと願うには多すぎるほどの赤字が並んでいる。
公式に「ブラックマンデー(暗黒の月曜日)」と名付けられた今回の8.5%の株価下落で、株価は8月11日の人民元切り下げ以降約5分の1値下がりしたことになる。最近まで急速に値を上げていた株式の購入を国民に促していた国にとっては心配なことに、市場は現在1月1日の水準を下回っている。
それだけではなく、先進国が中国の為替の混乱に無関心でいられた日々も過ぎ去った。下落は世界中に飛び火し、その影響は株価や既に火の粉を浴びていた商品価格にも及んでいる。ロンドンのFTSE100種総合株価指数は4.7%下落し、多くの欧州の株式市場でも同様の下落が起きた。ダウ平均株価指数は寄り付きから急落したが、その後反発した。
この混乱に対する中国の当初の対応には感心しない。市場を巻き戻そうと、株価維持作戦で2000億ドルを投入し、売りを制限して、不要な株式を急いで購入するよう年金基金に指示した。だが症状の緩和をあきらめた現在、同国はより確実な方法で背後にある不快感の除去に取り組まなければならない。
賢明ではない投資主導型モデル
中国経済は課題が山積みだ。投資の急激な減速は、内需主導の経済へと再調整する長期計画の道の半ばで起きている。できることなら来た道を戻りたいという誘惑に駆られるだろうが、残念なことに中国指導部にとってそれは不可能だ。
輸出はもはや同国の救世主にはなり得ない。世界経済の約15%を占める中国経済は大きすぎて貿易で繁栄には至らない。また、金融危機以降経済をけん引した投資主導型モデルに戻すのも賢明ではないだろう。あれだけ多額の資本を投資すれば、その成長は非効率で、急停止せざるを得なくなることも多い。
中国には対策の余地があることも事実だ。同国はひどく困窮した債務国ではない。むしろ清算する債権者の立場にある。それでも、投資家は同国市場の窮状が広い範囲での需要減退の表れであるというサインがないかを注視するだろう。
中国政府は慌てるべきではないが、消費の拡大が必要であると判明したなら、その方法を必死で考えなければならない。また、そうして得た結論は、不本意であっても公にすべきだ。市場経済に共通の金融政策や財政政策がないことを考慮すると、市場や他の国々は計画が存在していることを確信する必要がある。
市場変動がもたらす恩恵も
中国だけが厳しい選択を迫られているわけではない。米連邦準備理事会(FRB)も同じ状況だ。市場の下落は、FRBが利上げの判断に向けて準備をしているときに起こったが、利上げは来月に行われるというのが大方の予測だった。FRBは資産価格を対象にすべきではないが、市場の激しい変動が利上げ先送り派の立場を強めている。
中国の再調整と世界的な超低金利からの脱却は常に繊細な取り組みになると言われていたが、実際にそうなりつつある。そうした全面的な調整を行う際には不安になるものだが、実体経済への影響がない限り、さらなる市場変動がもたらす恩恵もある。
これは、投資はリスクを伴うもので、人々の資産を守るのは中央銀行の仕事ではないということを再認識させるものだ。先進国は最近忘れてしまっているかもしれないが、中国の国民が学びつつあるように、これも正常なことなのだ。
(2015年8月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
(c) The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150827&ng=DGKKZO91016040X20C15A8EA1000
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO91016040X20C15A8EA1000/
中国発の市場動揺に警戒怠るな
2015/8/27付日本経済新聞 朝刊
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世界的に株価の乱高下が続いている。直接のきっかけは、人民元の切り下げによって中国経済の不透明感が強まったことだ。そこへ米国の利上げ観測を背景とした新興国からの資金流出も懸念材料として加わり、株式などリスクの高い資産への投資が世界的に手控えられた。
日経平均株価が2万円を下回るなど、日本市場も不安定な動きが続く。中国人民銀行(中央銀行)の追加金融緩和の決定を受け、株価はとりあえず反発したものの、世界的な市場動揺への警戒を怠るわけにはいかない。
説明力問われる習政権
市場関係者が懸念するのは、中国の経済運営への信頼が揺らいでいることだ。人民銀が政策金利を引き下げたのはほぼ2カ月ぶり、預金準備率を下げるのはおよそ4カ月ぶりだが、経済実態を映す指標の動きなどを踏まえると、特に準備率の引き下げは後手に回った印象が否めない。
中国の経済統計については、実態を映していないとの指摘が少なくない。年率7%前後という政府の成長目標に縛られ、機動的な金融政策が難しくなっているのではないか。習近平国家主席をはじめ共産党政権の指導部は、計画経済の名残というべき成長目標に過度にこだわるべきではない。
中国へのもう一つの懸念は、共産党政権の市場との意思疎通が円滑ではない点だ。
人民銀が今月11日、人民元の米ドルとの交換レートの目安である「基準値」の算出方法を変更して事実上の切り下げに踏み切った。人民元は米ドルにほぼ連動していたので、算出方法の変更が「市場化」に向けた改革の一環だ、とする人民銀の説明にはうなずける面もあった。
しかし、説明はウェブサイトや国営メディアを通じた一方的なもので、記者会見などを通じた丁寧な説明はなかった。このため、中国の実体経済への不安が募る結果となった。
共産党政権は市場の反応に注意深くなる必要がある。とりわけ、中国経済と世界経済の関係の深まりを踏まえ、海外市場への目配りが欠かせない。
一方で日本を含む世界は、中国市場の動向や共産党政権の一挙手一投足に過度に振り回されないようにする、懐の深い向き合い方を求められる。主要国の緊密な情報交換も欠かせない。
日本にとって悩ましいのは、投資家のリスク回避の傾向が強まると、安全資産とされる円が買われて高くなることだ。そうなると日本企業にとっては輸出が伸び悩んだり、円建ての収益が下振れしたりするリスクがある。株価の下落は、個人投資家の資産の目減りを通じて消費を下押しする「逆資産効果」を生む可能性もある。
ただ、日本経済の先行きを過度に悲観する必要はない。
4~6月期の実質経済成長率はマイナスに陥ったものの、景気回復の基調は崩れていない。企業収益は過去最高水準にある。
金融市場の混乱があったからといって、一時的なカンフル剤のような景気対策を打つことが政府の役割ではない。大事なことは、安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の第3の矢である成長戦略を加速することだ。
日本は成長戦略加速を
岩盤規制の改革や、環太平洋経済連携協定(TPP)をはじめとする通商交渉を遅滞なく進め、日本経済の潜在成長率を引き上げる環境を整えるべきだ。少子高齢化という逆風を跳ね返す構造改革を断行しなければ、頻繁に成長率がマイナスに沈む脆弱な体質を抜本的に改善できない。
日本企業もグローバル化をさらに進めるとともに、収益力を高めるための成長戦略を着実に進めなくてはならない。
この点で心強いのは、企業が攻めの姿勢を崩していないことだ。例えば、日本勢による海外へのM&A(合併・買収)額は過去最高の水準に達している。国際的な再編に打って出ることにより成長を目指す戦略は、中長期の投資資金を引きつけ、市場の評価を高めることにつながる。
中国発の市場動揺を受け、市場では米連邦準備理事会(FRB)が利上げの時期を、予想された9月から遅らせるとみる向きがある。しかし、他国の政策に期待をつなぐ前に、日本の政府と企業はなすべきことをなすべきだ。
世界の株式市場は、コンピューターによる自動売買の影響が強まり、株価が極端な動きを示す傾向が強まった。短期の相場変動に惑わされず改革を進めたい。
[FT]暗黒の月曜日、選択迫られる中国(社説)
2015/8/25 14:00日本経済新聞 電子版
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中国当局がもはやこの大殺りくの阻止も否定もしなくなったことは、中国株式市場の調整の過酷な状況を物語っている。株式ブローカーの取引画面には消し去りたいと願うには多すぎるほどの赤字が並んでいる。
公式に「ブラックマンデー(暗黒の月曜日)」と名付けられた今回の8.5%の株価下落で、株価は8月11日の人民元切り下げ以降約5分の1値下がりしたことになる。最近まで急速に値を上げていた株式の購入を国民に促していた国にとっては心配なことに、市場は現在1月1日の水準を下回っている。
それだけではなく、先進国が中国の為替の混乱に無関心でいられた日々も過ぎ去った。下落は世界中に飛び火し、その影響は株価や既に火の粉を浴びていた商品価格にも及んでいる。ロンドンのFTSE100種総合株価指数は4.7%下落し、多くの欧州の株式市場でも同様の下落が起きた。ダウ平均株価指数は寄り付きから急落したが、その後反発した。
この混乱に対する中国の当初の対応には感心しない。市場を巻き戻そうと、株価維持作戦で2000億ドルを投入し、売りを制限して、不要な株式を急いで購入するよう年金基金に指示した。だが症状の緩和をあきらめた現在、同国はより確実な方法で背後にある不快感の除去に取り組まなければならない。
賢明ではない投資主導型モデル
中国経済は課題が山積みだ。投資の急激な減速は、内需主導の経済へと再調整する長期計画の道の半ばで起きている。できることなら来た道を戻りたいという誘惑に駆られるだろうが、残念なことに中国指導部にとってそれは不可能だ。
輸出はもはや同国の救世主にはなり得ない。世界経済の約15%を占める中国経済は大きすぎて貿易で繁栄には至らない。また、金融危機以降経済をけん引した投資主導型モデルに戻すのも賢明ではないだろう。あれだけ多額の資本を投資すれば、その成長は非効率で、急停止せざるを得なくなることも多い。
中国には対策の余地があることも事実だ。同国はひどく困窮した債務国ではない。むしろ清算する債権者の立場にある。それでも、投資家は同国市場の窮状が広い範囲での需要減退の表れであるというサインがないかを注視するだろう。
中国政府は慌てるべきではないが、消費の拡大が必要であると判明したなら、その方法を必死で考えなければならない。また、そうして得た結論は、不本意であっても公にすべきだ。市場経済に共通の金融政策や財政政策がないことを考慮すると、市場や他の国々は計画が存在していることを確信する必要がある。
市場変動がもたらす恩恵も
中国だけが厳しい選択を迫られているわけではない。米連邦準備理事会(FRB)も同じ状況だ。市場の下落は、FRBが利上げの判断に向けて準備をしているときに起こったが、利上げは来月に行われるというのが大方の予測だった。FRBは資産価格を対象にすべきではないが、市場の激しい変動が利上げ先送り派の立場を強めている。
中国の再調整と世界的な超低金利からの脱却は常に繊細な取り組みになると言われていたが、実際にそうなりつつある。そうした全面的な調整を行う際には不安になるものだが、実体経済への影響がない限り、さらなる市場変動がもたらす恩恵もある。
これは、投資はリスクを伴うもので、人々の資産を守るのは中央銀行の仕事ではないということを再認識させるものだ。先進国は最近忘れてしまっているかもしれないが、中国の国民が学びつつあるように、これも正常なことなのだ。
(2015年8月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
(c) The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150827&ng=DGKKZO91016040X20C15A8EA1000
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO91016040X20C15A8EA1000/
中国発の市場動揺に警戒怠るな
2015/8/27付日本経済新聞 朝刊
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世界的に株価の乱高下が続いている。直接のきっかけは、人民元の切り下げによって中国経済の不透明感が強まったことだ。そこへ米国の利上げ観測を背景とした新興国からの資金流出も懸念材料として加わり、株式などリスクの高い資産への投資が世界的に手控えられた。
日経平均株価が2万円を下回るなど、日本市場も不安定な動きが続く。中国人民銀行(中央銀行)の追加金融緩和の決定を受け、株価はとりあえず反発したものの、世界的な市場動揺への警戒を怠るわけにはいかない。
説明力問われる習政権
市場関係者が懸念するのは、中国の経済運営への信頼が揺らいでいることだ。人民銀が政策金利を引き下げたのはほぼ2カ月ぶり、預金準備率を下げるのはおよそ4カ月ぶりだが、経済実態を映す指標の動きなどを踏まえると、特に準備率の引き下げは後手に回った印象が否めない。
中国の経済統計については、実態を映していないとの指摘が少なくない。年率7%前後という政府の成長目標に縛られ、機動的な金融政策が難しくなっているのではないか。習近平国家主席をはじめ共産党政権の指導部は、計画経済の名残というべき成長目標に過度にこだわるべきではない。
中国へのもう一つの懸念は、共産党政権の市場との意思疎通が円滑ではない点だ。
人民銀が今月11日、人民元の米ドルとの交換レートの目安である「基準値」の算出方法を変更して事実上の切り下げに踏み切った。人民元は米ドルにほぼ連動していたので、算出方法の変更が「市場化」に向けた改革の一環だ、とする人民銀の説明にはうなずける面もあった。
しかし、説明はウェブサイトや国営メディアを通じた一方的なもので、記者会見などを通じた丁寧な説明はなかった。このため、中国の実体経済への不安が募る結果となった。
共産党政権は市場の反応に注意深くなる必要がある。とりわけ、中国経済と世界経済の関係の深まりを踏まえ、海外市場への目配りが欠かせない。
一方で日本を含む世界は、中国市場の動向や共産党政権の一挙手一投足に過度に振り回されないようにする、懐の深い向き合い方を求められる。主要国の緊密な情報交換も欠かせない。
日本にとって悩ましいのは、投資家のリスク回避の傾向が強まると、安全資産とされる円が買われて高くなることだ。そうなると日本企業にとっては輸出が伸び悩んだり、円建ての収益が下振れしたりするリスクがある。株価の下落は、個人投資家の資産の目減りを通じて消費を下押しする「逆資産効果」を生む可能性もある。
ただ、日本経済の先行きを過度に悲観する必要はない。
4~6月期の実質経済成長率はマイナスに陥ったものの、景気回復の基調は崩れていない。企業収益は過去最高水準にある。
金融市場の混乱があったからといって、一時的なカンフル剤のような景気対策を打つことが政府の役割ではない。大事なことは、安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の第3の矢である成長戦略を加速することだ。
日本は成長戦略加速を
岩盤規制の改革や、環太平洋経済連携協定(TPP)をはじめとする通商交渉を遅滞なく進め、日本経済の潜在成長率を引き上げる環境を整えるべきだ。少子高齢化という逆風を跳ね返す構造改革を断行しなければ、頻繁に成長率がマイナスに沈む脆弱な体質を抜本的に改善できない。
日本企業もグローバル化をさらに進めるとともに、収益力を高めるための成長戦略を着実に進めなくてはならない。
この点で心強いのは、企業が攻めの姿勢を崩していないことだ。例えば、日本勢による海外へのM&A(合併・買収)額は過去最高の水準に達している。国際的な再編に打って出ることにより成長を目指す戦略は、中長期の投資資金を引きつけ、市場の評価を高めることにつながる。
中国発の市場動揺を受け、市場では米連邦準備理事会(FRB)が利上げの時期を、予想された9月から遅らせるとみる向きがある。しかし、他国の政策に期待をつなぐ前に、日本の政府と企業はなすべきことをなすべきだ。
世界の株式市場は、コンピューターによる自動売買の影響が強まり、株価が極端な動きを示す傾向が強まった。短期の相場変動に惑わされず改革を進めたい。