夏目漱石「夢十夜」
第九夜
戦争(いくさ)
裸馬(はだかうま)
周囲(まわり)
暴(あ)れ廻(まわ)る
足軽(あしがる)
犇(ひしめ)き
追掛(おっか)けて
家(いえ)
森(しん)として
何処(どこ)か
床(とこ)
草鞋(わらじ)
穿(は)いて
頭巾(ずきん)
被(かぶ)って
雪洞(ぼんぼり)
灯(ひ)
闇(やみ)
射(さ)して、
生垣(いけがき)
檜(ひのき)
照(てら)した
御父様(おとうさま)
何日(いつ)
御帰(おかえ)り
何遍(なんべん)
四隣(あたり)
鮫鞘(さめざや)
脊中(せなか)
脊負(しょ)って
潜(くぐ)り
行(ゆ)く
草履(ぞうり)
土塀(つちべい)
下(くだ)って
坂(ざか)
降り尽(つく)す
銀杏(いちょう)
目標(めじるし)
田圃(たんぼ)
熊笹(くまざさ)
木立(こだち)
二十間(けん)
鼠色(ねずみいろ)
賽銭箱(さいせんばこ)
紐(ひも)
ぶら下(さが)って
傍(そば)
鳩(はと)
その外(ほか)
家中(かちゅう)
射抜(いぬ)いた
金的(きんてき)
偶(たま)
太刀(たち)
梢(こずえ)
何時(いつ)
梟(ふくろう)
冷飯草履(ひやめしぞうり)
已(や)む
先(ま)ず
直(すぐ)に
柏手(かしわで)
侍(さむらい)
是非(ぜひ)ない
願(がん)
一図(いちず)に
能(よ)く
音(おと)で
四辺(あたり)
真暗(まっくら)
旨(うま)く
泣き已(や)む
益烈(ますますはげ)しく
一通(ひととお)り
摺(ず)り卸(お)ろす
上(のぼ)って
好(い)い子
間(ま)、
御出(おいで)
頰(ほお)
擦(す)り附ける
欄干(らんかん)
括(くく)り附ける
徃(い)ったり来たり
御百度(おひゃくど)
暗闇(くらやみ)
丈(たけ)
這(は)い廻って
風(ふう)に
揉(も)んで
夜(よ)の目
浪士(ろうし)
悲(かなし)い
聞(きい)た