77歳の男性が8月、日本一周の自転車旅を「完走」した。平群町の元会社員河本(こうもと)雄治さん。定年後に乗り始めたロードバイクで足かけ12年、6回に分けて各地を走った。

 8月28日。ゴールの町中央公民館前に着くと、友人ら30人が手製の横断幕と花束で出迎えてくれた。「晴れがましいけど、大騒ぎしているのを見て照れてしまった」と河本さん。旅は延べ119日、走行距離は計9390キロに及んだ。

 兵庫県出身。化学会社で工場設計などに携わり、40年余り前に平群町に引っ越してきた。2002年、62歳で定年退職するとチャレンジ精神がうずき出した。シベリア鉄道で一人旅をし、アフリカ最高峰キリマンジャロにも登った。

 ログイン前の続き中学時代に父を交通事故で失ったため、車の運転はしない。代わりに65歳からロードバイクに乗り始め、次第に距離を延ばした。まず四国を一周。次はアメリカ合衆国をメキシコ湾岸から五大湖畔まで縦断する自転車ツアーに参加した。

 北海道をめぐり、次は自宅から山陽地方を経て九州を一周。この頃から日本一周を意識し始めた。13年には太平洋側を青森まで、昨年は青森から日本海沿いに福井まで走った。最後に残った福井から山陰地方経由で山口・下関までのルートを今年8月に走り終えた。

 走行中、励みになったのが、妻の富子さん(73)から届いた携帯メールだ。

 〈絶対頑張らないこと〉

 〈熱中症に気をつけて〉

 〈水分しっかり取って〉

 炎天下の上り坂や土砂降りの中で思い出し、むちゃはしなかった。

 最大のピンチは、ゴールまで数日に迫った鳥取で訪れた。宿を出発する朝、階段から転げ落ちて腰を強打した。起伏の多い道が続くが、痛みは治まらない。ここでは「頑張らない」はできなかった。「自転車で死ねるなら悔いはない」と開き直った。

 日本海側を一緒に走った友人の古坂(ふるさか)博一さん(66)は「病院に行くかときいたが断られた。決めたら最後まで貫く人なんです」。

 地元で「平群史蹟(しせき)を守る会」会長を務める河本さんは、旅先で三内丸山遺跡青森県)や荒神谷遺跡(島根県)などを訪ねた。九州では、カナダ人の若者が誕生日をささやかに祝ってくれた。東北では、中学生が自転車旅の話を興味深く聞いてくれた。

 これからも自転車旅は続けるつもりだ。沖縄やしまなみ海道も走ってみたい。そしてもう一つ、大きな目標を掲げた。

 「3年後は80歳。孫と一緒に富士山に登りたい。それも一合目からね」(筒井次郎)