・柔道の山下さんに、
果敢にプロポーズして成功した、
お嬢さんのことが報道されると、
「いやぁ・・・あんなん、ありぃ?」
というお嬢さんが多い。
「キ~~ッ。もう、ほんまにぃ・・・」
というから、
どうしたのかと、
こっちはびっくりしてしまう。
「だってぇ・・・あんなん、して、
成功する可能性あるんやったら、
あたしかて、したらよかった!」
と地団駄踏んでる子やら、
「ウチのお母ちゃんとか、
親類のオバサンとか、
うるさいねんよ。
なんであんたも、頑張ってやってみいひんかったん?
なんていうから、口惜しくって。
山下さん、ウチもエエなあ、思ってたんやもん。
キ~~ッ!」
という子。
私はこの「キ~~ッ!」がわからない。
山下さんはいい男に違いなかろうが、
多分、この手のいい男は、きっと今の日本にも、
ふんだんにいるはず。
別に「キ~~ッ!」とならなくても、
まわりをさがせば、この位のはいっぱい、いるんだ。
「だって、だって、山下さんぐらい有名な人はいないもん」
ハハア、そういうこっちゃねんわ。
有名ならいいのだ。
「だって、だって、有名でいて、
エエ男なんて、少ないんだもん」
とお嬢さんはいうが、いや、わかった、
若い娘の「キ~~ッ!」は、
有名好きのさせるわざであったのだ。
有名好き症状がもしなければ、
あんなに山下さんで大騒ぎすることはないと思うのに。
山下さんから柔道を取ったら、
体格の立派な好青年、というところであろうが、
それならたくさんの無名の山下さんがいるはず。
無名の好青年たちに、果敢にアタックしたらよいのだ。
「いや、無名でも、一流大学出身、一流企業社員、というほうに、
女の子はキ~~ッ!となるのではありませんかな。
美青年で、親が金持ちで有力者で、家柄良うて、
と、こういうのへ、みな女の子はキ~~ッ!
と将棋倒しになる。それが怖い」
カモカのおっちゃんはいう。
「なんで怖いんです」
「一人に何十人がよってたかってキ~~ッ!となる。
そうなると、どうなるか」
「あぶれる女の子が出るでしょう」
「女の子があぶれるだけやない。
男の子もあぶれる」
おっちゃんはお湯割り焼酎を入れた安物コップを置き、
「この、学校も三流、四流どこの出身という・・・」
「ハイ、ハイ」
「親も貧乏、兄弟もロクなんおらん、
自分も無論貧しい、勤める所は安サラリーの中小企業、
ぶおとこで口下手、短足で音痴、なんて青年」
「凄いな」
「こんなのはどうしますか。
有名青年や一流青年に、女の子はザ~~ッと流れて、
三流四流の中小企業社員の青年には一人も当たれへん。
そうなると目も当てられぬ。
男は絶望して気ぃ狂いよんで」
「そういう人はお見合いなんか、して・・・」
「昔なら、ね。
戦前なら見合いで、ブスはブス同士、貧者は貧者同士、
うまいこと仲人の口利きで一緒になれた。
しかし今は、おなごはんが男、自分で選びよる。
それに今の見合いは、
書類選考でまず、条件の悪いのはねてしまう。
コンピューター見合いなんて、えげつないもんでっせ。
条件の悪い男の子は、あたまからはねられてしまう」
「それはかわいそうだなあ」
「農村のヨメ飢饉をいわれて久しいが、
いまやそれは、都会にも及んできましたな。
都会のヨメ飢饉は深刻ですぞ」
「ですけど、昔の仲人口や見合いとは別に、
すがすがしく、つつましい恋愛と結婚があるのやありません?
名もなく貧しく美しく、というような。
『キューポラのある街』を思い出すような、
吉永小百合さんと浜田光夫さん扮するところの純愛結婚、なんか」
「あんたはおめでたくできとる。
やっぱり夢見る夢子さんやな、
今や、貧しい乙女もブス乙女も、みな一様に、
有名青年、一流青年へ、ザ~~ッと流れる。
あぶれた無名青年、四流青年はどないせえ、ちゅうねん。
腹立つ」
「そうかなあ・・・
でも、男の魅力は、銘柄やランクづけにないこと、
女の子は知ってるはず。
短足だけどよ~く見ると丈夫そうとか・・・」
「今どき、よ~く見るようなヒマのあるおなごはんいてますか。
そんな根気もあらへん。おなごはんはみな忙しい。
でもって、男をチラと一べつするだけ。
そうして、あ、こんなんあかん、と思ってしまう。
自分のブスは棚にあげて。
小生は、オール無名四流青年のために泣かずにいられない。
平凡なる青年がヨメを獲得するのは、
年々、むつかしくなる」
「そのぐらいで、ちょうどいいかもしれない。
日本の男の人は、そういう場で鍛えられたほうがいいんです。
徒手空拳、舌一枚とまごころでヨメを獲得する才気を育てて頂きたい」
「それは理想論でしてなあ。
徳川時代このかた、米のめしと女は、
ついてまわると信じこんどった日本の男には、
辛い試練の時代ですわ」
おっちゃんはしんみりという。