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(今朝は雨、写真は昨日の霧の朝)
・こんな朝帰りを、
夕霧はしたことがない。
三條の自邸へ帰ったらまた、
妻の雲井雁に怪しまれる、
と思って六條院の、
東の御殿へ帰った。
ここは花散里の住居で、
母親代わりの彼女は、
夕霧の着るものもそろえていた。
夕霧は宮に手紙を書いたが、
宮はご覧にもならない。
宮は侮辱されたように、
腹を立てていらっしゃる。
母宮が何もご存じないのが辛く、
かといって自分からは、
恥ずかしくて言えず、
悩んでいられた。
この宮は、
母宮とたいそう仲のよい、
母子でいらした。
女房たちは、
返事をすることをすすめる。
夕霧の手紙は、
やさしいものだったけれど、
女房たちは遠慮して見ることも、
できない。
宮と夕霧のあいだに、
あの夜、
どんなことがあったのか、
誰にも本当のことはわからない。
そのころ、
母君の御息所の病床では、
加持をしている阿闍梨が、
いろんな話のついでに、
「そういえば、
夕霧大将の君は、
いつごろからこちらに、
お通いになっておられますか」
と聞いた。
「そんなことはございません。
夕霧の君は、
亡き柏木大納言の、
親友でいらしてお見舞い下さる、
のでございます」
御息所は答えられた。
「いやあ、
私にまでお隠しになることは、
ないではございませんか。
今朝、
後夜のお勤行に参りましたとき、
男の方が出て来られました。
霧が深くて、
見分けられませんでしたが、
法師たちが口々に、
『夕霧大将殿が帰られる』
と申しておりました。
しかし、
このご縁はいかがなものでしょう。
夕霧大将殿のご本妻のご威勢が、
強いですから、
お子さまも七、八人おありに、
なるはず。
ここの姫君でも、
ご本妻をしのぐことは、
お出来になれますまい。
私はこのご縁に、
賛成できません」
とずけずけと言い放つ。
「おかしな話です。
そんな事実はございません。
夕霧大将の君は、
私を見舞って下さったのです。
あの方はたいそう真面目な方で、
そんなそぶりはお見せに、
なりません」
御息所はおっしゃりつつ、
しかし、
思い当たられるふしも、
ないとはいえない。
律師が立ったあと、
近しい女房を呼ばれた。
「昨夜の話を聞きました。
どういうことだったのです?
まさか宮とのあいだに・・・」
女房は、
ご病気の御息所に心配を、
かけるのがおいたわしかった。
「いえ、別に何も。
ただ夕霧大将の君が、
お心のうちを、
宮さまに直々にお話なすった、
というだけで、
間の障子も閉めてございました」
「でも、夕霧大将の君が、
帰られるお姿を、
口さがない人々が、
見てしまいました。
世間にはよくない噂が、
立つでしょう。
たとえ潔白であったとしても、
誰が信じますか?
宮さまをここへ、
お呼びしておくれ」
御息所は、
ほろほろと涙を流して、
お泣きになる。
宮は母御息所が、
お呼びになるままに、
(お母さまは、
どう思われるかしら?
まわりの人々も、
夕霧大将とわたくしとの間に、
何かあったように、
思っているに違いない)
そう思われると、
いつものお癖で、
のぼせてしまわれ、
臥しておしまいになる。
「御息所には、
障子はしっかり閉めて、
ございました、
と申し上げてました。
もしお問いになりましたら、
宮さまも同じように、
お答えなさいませ」
と女房はいう。
潔白だったけれど、
かりにも皇女の身分で、
男にそばまで来て、
言い寄られるような、
隙を見せてしまったと、
とり返しのつかぬように、
嘆かれる。
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(次回へ)