・「あの年であの化粧」と指さす人は、
自分の美意識の幅がいかにせまいかを、
告白するようなものである。
私はパッと派手なのが好きだから、
大屋夫人のピンクの化粧も、
原色のお洋服、
あざやかなドレスも好き、
よく似合っていられると思う。
「シックなスーツ姿」なんてものはけとばして、
けばけばしいドレッシーなドレスをお召しいただき、
世界せましと闊歩なさったらいい。
肝の小さい陰口好きの、
言うことと気持ちのうらはらな人種が多く住む日本には、
住みにくいだろうなあと思わせる人が、
よくいるものだが、たぶん大屋夫人も、
その内のお一人なのではあるまいか。
そのせいであろう、
ご本人は大衆の指弾など、
蚊にさされたほども気にとめていらっしゃらぬらしく、
ワーストドレッサーと知らされ、
「ほんま?
ウチ信じられへんわ。
三宅一生さんも山本寛斎さんも、
ものすごうほめてくれはったし。
ジバンシーは驚きのまなこで、
『あなたは私の競争相手だ』
と絶叫しはったんよ」
とうそぶいていられるのがおかしかった。
ただちょっとここでいっておきたいのは、
大阪女が派手好き、ギンギン好きだといっても、
それでもってみな行動家、
ファイトに富む実力家、
目立ちたがり、
出しゃばり、
というものではないのだ。
谷崎潤一郎さんの「細雪」に、
雪子という女が出てくるが、
まさにあれなど大阪女の一つの典型で、
外見は内気で人見知り、
引っ込み思案、
従順でつつましく陰気にさえ見えながら、
内心は派手好き、
パッとしたギンギラギン好き、
豪壮で雄大、絢爛豪華というようなのが好き、という、
「一見しねくね、陰気風の、内実は派手好き」
というのもいる。
だから大阪女の土台はみな派手好きであっても、
その発見方法はさまざまで、
ここのところが他県人の誤解のまとになる。
「えげつない」格好をしていたら、
性質も行動力も「えげつない」と決めつけ、
理由なく軽侮・敬遠するという図式が出来上がっているが、
こと大阪女に関する限りその認識は的外れで、
内気でじょうじょうたるお嬢さんが、
意外にギンギラ好みという伝統があるのだ。
八代亜紀さんのドレスとお化粧にも、
文句が集中しているようであるが、
私からみると、好き嫌いは別にして、
あれでこそ八代さんの個性というものであろう。
テレビでみる八代さんは、
なぜかかげのある水商売の女、
というイメージがただよい、
それがまたぴったり、歌の巧さにマッチしている。
そういう味を舞台で出せる人というのは少ない。
特殊な個性である。
芳村真理さんや黒柳徹子さんのおしゃれは、
見ていてもたのしくて、
日本女性に自信がもてるというところのもの。
森昌子さんや美空ひばりさんの「あかぬけなさ」も、
いかにもその人の個性が出ていて、
却って好感がもてる。
もしも、森さんやひばりさんが「シック」になり、
小森和子さんや大屋政子さんが「お年にふさわしい」服を着、
佐藤陽子さんが「カチッとしたスーツ」などを着たら、
全くこの世の中、面白みもたのしみもなくなってしまう。
アドバイスするデザイナーが、
またやたらと「シックなスーツ」や、
「カチッとしたスーツ」をおすすめするが、
スーツというもの、
かいもく似合わない女は意外と多いものである。
(次回へ)