むかし・あけぼの

田辺聖子さん訳の、
「むかし・あけぼの」
~小説枕草子~
(1986年初版)角川文庫

11、女どうし ③

2022年07月28日 08時10分22秒 | 田辺聖子・エッセー集










・たとえば、何かの機関を作って、
「老人のお守り何時間お願いします」とか、
「子供を預かって下さい、何時間」
「夕食何人分。予算はこれくらいで」
などと申し込むと、
応じられる人が申し出る、
というようなことは、実現しないだろうか。

パーティ出張料理という商売ができるくらいだから、
労力出張というのも考えられると思うものだ。

私がこんな夢を見るのも、
働く女たちが、それぞれ個別的に、
職場と家庭の維持に苦労し、
その苦労や知恵が、
ちっとも有機的に社会に発展してゆかないのが勿体ない、
と思うものである。

また家庭にいる妻たちの、
ありあまる活力やキャリアを埋没させておくのも勿体ない。

家事は特技であるから、
奉仕せずに報酬を求めればよいので、
そんな形で、女が女の応援ができないものだろうか。

私は身近の娘が、
いつまでも自分の家庭の中にだけ、
とじこもっていてほしくない、と願うあまりに、
こんなことを思っている。

おいしい料理の腕があるなら、
その愛情を分かちひろげてほしい。

自分の子をお守りするついでに、
よその子も。

家庭は夫と妻で支え合い協力して経営してゆくものであるが、
夫婦の力にあまることが現代では増えてゆく。

女どうしの助け合いが、
これから必要になるのではなかろうか。

働く女と専業主婦の輪がうまくかみあい、
お互いに補い合い、助け合うことができれば、
と私は夢みている。

それから、
独身で働いている女性たちの暮らしにも、
私は夢がある。

私は、女性は自立すべきだと思っていたから、
その身近の娘を、大学時代からアパートへ住ませた。

卒業して就職したときも、
その町のアパートで一人暮らしをさせた。

親元や保護者の家から通わせると、
炊事洗濯をつい人に頼るので、
まるで亭主関白のようになってしまう。

そんな暮らしを若い女がしていて、
ロクなことになるはずない。

世の親は若い娘を一人暮らしさせておくと、
監督不行き届きで危ない、と思うらしいが、
あれは、むしろ、親元においておくほうが危ない。

業務上横領の罪を犯して、
男に貢いでいたハイ・ミスの女たちは、
たいてい、親元にいた人たちである。

男と旅行してきても、
親は気づかないことが多い。

そんなわけで、
私はその娘に生活力をつけるべく、
ずっと一人暮らしをさせていたのだが、
何分にも、サラリー自体がひどく安い。

男女共学の大学で同じように四年間学んでいながら、
男子のサラリーと女子のサラリーとでは、
ずいぶん差がある。

二、三ヶ月たつと娘は音をあげて、
「どうしてもやっていけないから、
アパートの家賃だけでも援助してほしい」
といってきた。

その時、私はアメリカであるという、
ルームメイトを思い出し、
女の子二人で暮らすとか、
三、四人で暮らすとかの方法はとれないものか、
と考えた。

家賃だけではない、
生活費も光熱費も、折半したら、
うんと安くあがるのではあるまいか。

女の子は一人暮らしを楽しんでもよいし、
条件となりゆきで女どうしが住む、
ということを試みてもよいように思われる。

経済的な利点のほかに、
一人暮らしに疲れた女には、
とても大きな心のなぐさめになりそうな気がする。

もちろん、それも個人的事情により、
お互いが大人として成熟した個体でないと、
共同生活など出来ないだろうけど。

もしこれがうまくいけば、
身内と暮らすより、もっと快適な、
人間らしい家庭になるかもしれない。

女と女、女どうし。






          


(次回へ)

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 11、女どうし ② | トップ | 11、女どうし ④ »
最新の画像もっと見る

田辺聖子・エッセー集」カテゴリの最新記事