病室の中で、妹が言った。
「あのね、家に帰った夢を見た。」
ただし、その家は現在の家ではない。
子供の頃、上台町(現町名日吉町)に住んでいた。元々住宅だったが、父の仕事(建築業)が住宅を侵食して仕事場が広がった。
ただし、その家は現在の家ではない。
子供の頃、上台町(現町名日吉町)に住んでいた。元々住宅だったが、父の仕事(建築業)が住宅を侵食して仕事場が広がった。
それでも仕事場が狭いと、もっと広い所へと現在の場所へ移る。
台町の家は、祖父と父母と叔母と我々姉妹と父の弟子達がひしめきあって暮らしていた。
妹はその頃の家に戻っていた。
大人達は苦労もあったろうが、我々姉妹には何の苦労も無く、大人達取り分け父母が大きな慈愛で守ってくれていた「最も幸せな時代」だったのである。
近くにある寺院や神社で、暗くなるまで近所の子供達と遊びほうけていた所に「ご飯だよ~~。」と母親が呼びに来てくれる。
一番幸せな時代に、妹は戻っていたと言うわけだ。
「それは良かったね。」と言う反面、妹の記憶の欠落が痴呆の方に進むのではと危惧もしている。入院時のことは覚えていないそうだ。
「おじいちゃんもお父ちゃんも母ちゃんも皆んなもいたよ。」でも、そこには夫も自分の子供達もいなかった。
現在の家に帰ってくれば、苦労だけが残っている。そんな所に誰が帰ってきたいものか。