日本には建築士と言う制度がある。建物を設計出来る資格である。この制度が他国とはちょっと違い、特に欧米で言う建築家とは異なる。建築家は芸術家でデザイナーで都市計画や環境なども一緒にプロデュースする。(日本にも建築家協会はあるが、厳密に言うと建築家は国で定められた資格ではない。)日本にあるのは建築士と言う独特な資格があるだけである。
建築士制度が出来たのは戦後で、戦争で失われた住宅や建物を再建する為、法律に則った仕事をする人の数の必要に攻められ、早急に法律化された。日本の建築の歴史から見れば、築城以外は棟梁と呼ばれる大工がいて、設計も図面を引くのも見積も自ら工事も監督や監理まで、全て出来るのが普通だった。この為、設計だけを担当する建築家は必要とせず、実践力を伴う棟梁からの延長上の建築士が出来たのである。
高度成長も終わり、世の中が平和になると、建物の需要も落ちてくる。その為に政府は、戦後から過剰に増えた建築士や建築業者を減らそうと動き出した。(最近の弁護士の数の増加を見ると、政府が企てた事が必ずしも成功しているとは言えないのだが。) 建築士の試験は年々難しくなり、合格者の数は減るばかりである。それに引き換え、特に設計事務所に所属する建築士の仕事は、むやみに増えた。これでもかと言うほど提出する書類は増え、また事務所への国や県の管理も厳しくなって行ったのである。
実は、この管理の厳しさが、無免許の建築士をあぶり出す事にも成功した。建築の確認業務で書類を提出する際に、免許証の写しや実際に登録された本人かを、データベースで検出する仕組みが出来たからである。さて、前置きはこの位にして・・。ええ~前置きが長すぎる!
設計事務所を開設して30年は過ぎた。同じ免許証で確認申請を出すことを繰り返して、何の問題も生じなかった。ところが、今回山形市の某所に提出し、私の免許の番号を照合したら、本人と認められないと来た。なんだって!
要するにこうだ。私の名前は旧字で書かれている。幼稚園までは旧字で通したが、小学校に上がると「この字は使われていないので。」とかなんとか言われて、略字に換えられていた。高校も略字で、2級建築士もたしか略字の登録だったと思う。私の1級建築士の名前も、データベースでは略字になっていて、それではじかれた。結局は本人だと判ったのだが、図面やら書類やらを全て略字に訂正する始末になった。これは面倒だと、免許証の変更を考えねばと思った。
事務所に帰って、免許証を確かめたら、戸籍通りの旧字になっていた。つまり、データベースを入力する際に間違えられたのだろう。建築士会にその由を伝え、免許証のコピーを送った。データベースを訂正するので、運転免許証の写しを送って欲しいとの事だったが。私が存在を否定された事に関して、ちゃんと詫びを入れてくるだろうか。自分達のミスは、しら~っとごまかすのか、少し待ってみようと思う。