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11月3日、陶芸家の寺田康雄氏の講演会を聴講した。題材は「志野と織部」だったが、大学の教授もされているので話が面白く、時間はあっと言う間に過ぎていく。
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「私は好き勝手に生きてきた。立派な人間ではない。」と前置きして、話は始まった。
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愛知県瀬戸市の代々続く窯元に生まれ、多摩美術大学の彫刻科を卒業、家業の傍ら大学の講師を歴任している。
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中京大学の学舎の壁を陶壁にしたいと理事長が提案し、変わった陶芸家はいないかと探した時に白羽の矢が立ったらしい。
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理事長と意気投合し、可愛がられたようだ。桃山時代の大窯を復元したのを切っ掛けに、各地で窯を発掘、復元し、自らも窯を造り作品を焼く訳だが、窯を造る方が楽しいらしい。
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古田織部の茶碗はなぜ歪んでいるのかと言うと、織部が出征した時に本宅ではなく妾宅から出たのを妻が見つけ、嫉妬のあまりに作品(乾いていない)を投げた。織部が帰ってきて歪んだそれをみて、「これは良い形をしている。」となったらしい。焼き餅も焼き物には必要だった訳だ。
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織部の茶碗は、普通は黒焼きだそうだ。黒漆の色を出すには、焼けてある器を鉄の引き出しで掴み、水に入れて一気に冷やす。割れないのかと心配したら、セラミックはロケットの外側に使われているんだよと言う事だった。ゆっくりと冷やすと灰色になるらしい。
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デザインして「絵織部」と呼ぶ。緑色が出ているのが織部と言うわけではない。
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赤色も青色も釉薬は同じだが、灰と銅の変化で青色(緑)が生まれる。灰の掛かり具合で、色に変化が出るのだそうだ。この灰も、何の木の灰かで少々違って来る。わらや籾殻でも違うそうだ。
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志野焼は灰をかけない。作品を覆って、穴釜で焼いた方が良い。登り窯だと空気の流れが出来て、灰が掛かる可能性が多くなる。
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自分で様々な事を実験しながら、新しい物を作ってきたが、実は北大路魯山人などはすでにやってきた事だった。
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窯で焼いた作品は、全て家に持って帰る。そして選り分けして半分を捨てる。次の窯の物も全て持って帰って前の物と合わせ、また半分を捨てる。そうして作品を絞っていくのだそうだ。
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自分の作品は、意図的にするよりも、偶然が大きく作用する。ドイツ式の窯は、計算尽くで作品を作れる。それはつまらない。
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作品の善し悪しに薪が大きく作用する。ウズベキスタンは、薪でなく炭で焼くが、この炭はあまり生木に籾殻を掛けて焼くので、良い炭ではない。英国では、薪の代わりに石炭で焼く。この石炭は火力も強く良いのだが、火持ちも良くなかなか消えない。来年は英国に窯を造りに出かけるそうだ。
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ああ、本物と色が違って見える。この壺が一番好きだった。2次会でウズベキスタンの話が出たので、先生に「あの壺の青はウズベキスタンの青ではありませんか。」と尋ねたら、そうだと答えられた。やっぱりそうだった。
実は今回、講演を聴くにあたり、私は会場からの質問者のさくら組だった。建築と陶芸のコラボや織部の瓦の質問と一緒に、徳島の大塚美術館の陶板はアリかナシかを尋ねたら、ナシだそうだ。意地悪な質問だったが、私もナシだと思う。