十文字から増田は近い。以前、ネットで見た増田町の街並みが綺麗だったのと、2年ほど前の女性建築士の東北ブロック大会の見学コースにもなっていたのに、参加出来ずに気になっていた町だった。時間が無いけど、行ってみた。
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入れない。丁度お祭りがあるようで、通行止めになっていた。
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町営の駐車場を探すのも時間がかかり、やっとメインストリートに出る。ここで店の人にパンフレットを貰い、何のお祭りかを聞いてみた。
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月山神社のお祭りだそうだ。これには驚く。
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外から眺めるだけ。
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ここは、くらしっくロード。
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今まで各地で見てきた町屋は平入りだったが、ここは酒田と同じく妻入りでホッとする。かなりの豪雪地帯だ。
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公開中の山吉商店に入ってみる。
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昔は、この土間は叩きだった。
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夏らしい葦戸が立ててある。
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店主に案内して頂く。「仏間の上に神棚がある地域。」なのだそうだ。酒田も同じで、出羽三山信仰がある場所は、こんな造りになっている。
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中央の掛け軸は、秋田の佐竹藩のお殿様の絵だそうだ。
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台所
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人造石研ぎ出しの流し台が懐かしい。昔はこの流し台の上で調理も洗いも行っていた。
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ここの柱が1本、特別に太かったが、豪雪で雪の力で横に押され、今までの柱が折れたので取り替えたとか。
内井戸がある。左の戸は湯殿に続く。湯殿は可愛いタイル貼りだったのが、柱が折れて壁も崩れ、現在はユニットバスが入っているとか。
天井が極めて高い。ここは豪雪地なので、冬に雪が降り積もり、高窓からしか日が差し込まないからだそうだ。降った雪と屋根から落ちた雪が積み上げ算に増え、家の横は10m弱にもなると言う。
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立派な内蔵があった。装飾が素晴らしい。正面の黒の漆喰は研ぎ出しと言うか、手で擦って艶を出したものらしい。扉の中央には白い漆喰で桔梗が細工されており、それも表面が艶々した研ぎ出しだった。漆喰にばかり目が行くが、この扉押さえの木の組子(上部は麻の葉模様)も、勿体ない使われ方だ。
この踏み台の石も、これだけ長尺なものを割りもせずによく運べたと思う。冬に馬そりで運んだのではないかと言われている。
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これは蔵の入り口脇の土間下にあった味噌瓶。これは食べる為の味噌ではなく、火災時に閉じた扉の隙間に塗って延焼を防ぐ大事な味噌だ。酒田大火の時にも味噌で蔵を守った話は聞いている。先人の知恵である。
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この蔵は、物を納めるのではなく、蔵座敷として用いられたそうだ。家族の冠婚葬祭にも用いられた。贅を尽くした蔵である。
内蔵は、外側に一重、別の建物で覆われている。その建物の柱の長さは10mで、途中に梁が渡され、人間一人が歩けるキャットウォークが掛けられている。そこにはハシゴを使って登るそうだが、火事が近づいてきたら、その床から蔵の戸を閉めて味噌を塗るのだそうだ。
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銀杏装飾。この蔵を造った棟梁は、その後体調を崩されたようで、最後の作品になったと言われている。残念なことに、この蔵の補修をする腕を持った職人がいない。
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照明器具の傘も時代を映している。ただ、これは昭和の時代に出来た最後の蔵だそうだ。
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下の白い部分は、刀の刃を表しているとか。
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踏み台の石も細工されている。
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裏庭に出た。敷地は間口6間奥行き55間と、酒田では大店扱いだが、店主はそんなに大きいとは感じていないらしい。
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脇に流れる堰で、昔は洗い物をしたらしい。
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肥料噌蔵に入れて頂く。ここはかつて専売塩の倉庫にも使われていたそうだ。大梁の掛け方が豪快だ。これは重量が重くなるだけだろうと思うのだが。
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店主の祖父の代では、商売もうまくいったようで、あのような内蔵座敷も建て、庭の奥には迎賓館とも言うべき2階建ての建物があった。なかなか良い造りになっている。それに繋げて洋風の建物もあり、昔は蓄音機をならしたりピアノを弾いたりと、ハイカラなことが行われていたそうだ。
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御店主曰く、とにかく冬は寒いそうだ。それに屋根の雪も限界が来ると、年に何回かの雪下ろしをしなければならない。柱の長さが10mと言えば、普通の住宅の3階分である。大変だろうなと思う。ここは、雪の横手市だった。
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妻側から飛び出た、大梁の大きさが半端ではない。木口は銅板で巻かれている。
妻側の軒の出と、桁雪側の軒の出が随分と違っている。これも雪国だからだろう。
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駆け足で見学を終え、帰途に着いた。増田町にいた滞在時間は40分程度だったろう。今度はもっとゆっくりと訪れてみたい。
この日はお祭りに続いて花火大会も行われるそうで、「泊まって行けば良いのに」と言われても・・・・。(秋田県でも、9月の増田の花火大会は有名らしい。それにせっかく当日だったのに、月山神社の神宿の中を見てくるべきだったと、とても後悔している。数歩歩けば良いのに、気が回らなかった。)
「よくきでけだんし」どんな風に喋るのだろう。
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帰りの国道7号線、飛島がくっきりと見えた。
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