はぐれの雑記帳

極めて個人的な日めくり雑記帳・ボケ防止用ブログです

歌集 色褪せた自画像 第二章 悲しい在り方 (2)

2016年05月15日 | 短歌
つまり  92.11-93.3「芸術と自由」173



0287 無為に過ごす日はながく手も足も韻律の影に脅えている

0288 骸骨と化す骨の形状、五本の指が薄い皮膚をこえて確かめている

0289 人を殺めた手ではないけれど手を洗うときのこの汚れはなんだろう

0290 石鹸の泡たてて洗いおとす手の汚れすなわち自らを汚した多くのこと

0291 手のひらの襞一つ一つに汚れた思い刻まれてその襞はさらに深くなる

0292 所詮朝に鳴く鴉の惚けた鳴き声のように生きているにすぎない



0293 いやそうではなくて、僕のめざめの悪さを嘲り笑う鴉はおおらかな自然である

0294 きっと流れているはず耳すまし心のうちを静かにめぐる水音をきく

0295 大地をもちあげる霜柱はきっときっちりとした自己主張をもっているに違いない

0296 凡夫という我および君に萌えいずる若草の芽の覚束無い確かさ
                 
0297 皇海山のこんもりとした頂きの鈍重とはかなり悲しい在り方ではないか

(皇海山は栃木県と群馬県の県界尾根深くにある2144mの山)






母恋記  93.2


0298 信じうることなどありようもなくいま言葉すらも韻律の奴隷ですか

0299 海ほうずきの音はさびしすぎる みもしらぬ生みの母というひびきにもにて

0300 はかない春の雪がふり いまもこだわりつづける《私》のはじまりがある

0301 赤子を手放した女はむかしの女、泣いたかもしれない泣かなかったかもしれない




0302 いまとなっては悲しい物語にもならない、むかしむかしの男と女のばかな話だ

0303 この世への出生証明など求めることもない ただ燦々と陽をうける

0304 見も知らぬ母がいて見も知らぬ父がいれば見もしらぬ故郷を想う

0305 淡い春の雪のふりつもるともなく溶けてゆくあなたへの憎しみがある







恋 歌  93.3-9「芸術と自由」172



0306 直の信念をもてあましたままたそがれの地に立つ歌の墓標

0307 見上げれば恋い焦がれるあなたとの間によこたわる天の川です

0308 あなたの後ろ姿にさようならを言えば白鳥座から星が流れた

0309 君を愛撫する雲がぽっかりと浮かんで一万年がすぎていく






0310 壊して済むもの済まぬものその壁に囲まれて二人が座るベンチ

0311 のけぞる刹那首を絞めれば一生俺の女になるかもしれぬ

0312 愛を悲しみとか喜びという彩りに変える太陽の放つ光です

0313 道を曲がるとカラタチの花はこちらをむいて少し笑った少女の影だった







ホモ・アマノジャク  92.11-93.4


0314 埒もなく逆立ちする天平の情断ち切って立つか一行の歌は

0315 ハムレットに出会った、目深に被った帽子、靴は汚れたままだ
     
0316 頬骨の尖りは誰よりもあなたを愛していると脳に囁くのです
   
0317 自らの属性を明らかにすれば我が種属こそホモ・アマノジャクという

0318 一日を生きることに縛られて凡夫凡庸としていまだ浅い春である

0319 もはや誰だって甘い顔はしていない桜の蕾に冷たい雨がふる



0320 金縁眼鏡の中から青年が見据えているのは明るい暗やみの街である

0321 桜の花が咲き、こんなに暖かいのに蓑虫は枯れ木にぶらさがったまま

0322 無為に過ごす日々の重なりにのうぜん桂の花が惚けながら枯れていく

0323 それゆえただ生かされているのみとすれば猫の青い目はすねている