現代俳句選抄

ご恵贈頂いた書誌から、五島高資が感銘した俳句などを紹介しています。

越智友亮・句集『ふつうの未来』左右社

2024-02-11 | 俳句

雪もよい湯気のにおいのからだかな  越智友亮

気を抜くと雨粒こぼす春の空  同

噴水の水やわらかく水に消ゆ  同

駆け足や宇宙は秋の空の上  同

金木犀両手で握手して別る  同

数学をやめ台風を待っている  同

河童忌の鉄のにおいの掌よ  同

稲咲いて朝をくださる光かな  同

革ジャンの鈍きひかりやうまごやし  同

白玉や今が過ぎては今が来て  同

相槌うって君は話さずオリオン座  同

川幅に橋おさまらず枯葎  同


加藤哲也・句集『最終列車』角川書店

2024-01-31 | 俳句

わだつみの道の遠のく秋入日  加藤哲也

顔見世を出て風となる一と日かな  同

宵闇に紛れ込みたる夏館  同

新涼やロダンの肘のあたりより  同

大人にもこどもにも降る木の実かな  同

蠟梅や知覚過敏を憂ひつつ  同

菜の花や月光菩薩立ち上がり  同

 

 


蜂谷一人 著・句集『四神』朔出版

2024-01-25 | 俳句

ぶらんこの裏まで見せて跳びにけり  蜂谷一人

心太突いて夜空を滴らす  同

龍骨のかたちに日本南吹く  同

林檎むくまあるくほどけゆく時間  同

もう土へかへる桜でありしもの  同

蒼き灯の底を聖夜の魚となる  同

蛤の舌夕暮に触れてをり  同

馬跳びの最後冬夕焼と遭ふ  同

ひぐらしや波の広がる心字池  同

空蟬を残して声となりにけり  同

昼点いて白熱灯や虚子忌なる  同


佐藤文香・アメリカ句集『こゑは消えるのに』港の人

2024-01-18 | 俳句

噛みてなほ七面鳥の皮の照り  佐藤文香

ぬかるみのあかるみを踏み友なりけり  同

にはとりのはぐれて一羽春の中  同

夏霧を鳥おりてきて馬となる  同

終の住処鉄扉に薔薇を這はせあり  同

こゑで逢ふ真夏やこゑは消えるのに  同

音楽のあをく膨らむ熱帯夜  同

 


「オルガン」35号

2024-01-14 | 俳句

事切れてまだ虫籠のなかにいる  福田若之

手に木の葉てんごくにも俳句はあるよ  宮﨑凜々香

木犀の届いてゐたる自動ドア  宮本佳代乃

心地よく浮かぶ月かたむき沈む  田島健一

星あかり豆腐の壁にゆきあたる  鴇田智哉

 


髙野公一 著『芭蕉の天地「おくのほそ道」のその奥』朔出版

2024-01-14 | 評論

髙野公一先生よりご著書を頂きました。お手紙では、拙著『芭蕉百句』への温かいご批評を賜り、重ねて心よりお礼申し上げます。先生は「芭蕉の天地」で、ドナルド・キーン賞優秀賞を受賞された碩学にして恐縮至極に存じます。いずれにしましても、現代にあって、芭蕉の俳諧精神を探求する者同士として心強い思いがしました。深謝まで。


俳句雑誌「ハンザキ」2024年1月号

2024-01-14 | 俳句

冬の蝶まばゆき方へ飛びゆけり  橋本石火

鳶の輪の崩れて小春日和かな  同

父の空母の空あるなづな粥  同


ユプシロン第6号

2024-01-14 | 俳句

卒業の丘からのぞむガスタンク  小林かんな

来た路を金魚とともに引き返す  同

にんじんの太くて書架にトルストイ  同

大人になってからの友達梅三分  仲田陽子

ピーマンの中へ本音を詰めておく  同

白鳥の遺伝子をもち自由なる  同

灰色の象の背に乗る朧月  中田美子

フラスコに残る触媒昼の月  同

黄落のあちらこちらに庭師立つ  同

少しづつ空気を吐いて百合の花  岡田由季

数へ日の母はさつさと助手席に  同

初旅の関東平野のびてゆく  同

 

 

 

 


中原道夫・句集『九竅』エデュプレス

2023-11-03 | 俳句

ここのつの竅の明け暮れ年つまる  中原道夫

鶏卵の冬日を両手囲ひなる  同

納豆の糸切る顔も回しけり  同

古墳には松の傾く日永かな  同

断崖に柵なく夏の終はりたる  同

深山にて蝶より人に会はざりし  同

みどりなす那須塩原を次で降り  同

天辺にまだ上のある曼珠沙華  同

 


杉山久子・句集『栞』朔出版

2023-09-20 | 俳句

しやぼん玉息もろともにかがやくよ  杉山久子
魚の眼みなこちら向く寒さかな  同
三日月を栞としたるこの世かな  同
聖樹の灯人待つ人を照らしをり  同
ミサイルが来る風呂吹に箸の穴  同


黒田杏子・句集『八月』角川書店

2023-08-29 | 俳句
 ご夫君の黒田勝雄様よりご恵贈頂きました。生前のご厚情を思い出しては目頭が熱くなります。心より深くお礼申し上げます。
 
兜太待つ秩父往還まむし谷  黒田杏子
ゆく年のどの星となく慕はしく  同
春雷の那須野をわたりくるこだま  同
兜太詩語銀河しづかに溯り  同
音立てて天に到れる花篝  同
日が昇る枕元まで青田波  同
一ツ火のおほむらさきのいろの闇  同
 
 
 
 

仲 寒蟬・句集『全山落葉』ふらんす堂

2023-08-07 | 俳句

海底に沈む神殿月日貝  仲 寒蟬

がまの穂と答ふがまの穂かと問はれ  同

向日葵はおのが後ろの闇知らず  同

朝顔育て宇宙飛行士志望  同

名を付けてすぐに忘れて熱帯魚  同

峰雲の中に峰ある昏さかな  同

稲びかり猫の喧嘩に割つて入る  同

核弾頭ほどの筍いただきぬ  同

木枯に顔を置き忘れて来たり  同

鯉幟降ろせば太陽のにほひ  同

螢火や水音のして水見えず  同

凍滝の芯に月まで行く梯子  同

額の字を誰もが読めぬ敗戦日  同

瓢箪にくびれ作りし神を信ず  同


岡田由季・句集『中くらゐの町』ふらんす堂

2023-06-07 | 俳句
一〇〇〇トンの水槽の前西行忌  岡田由季
自宅から土筆の範囲にて暮らす  同
虚空よりあらはれて雉ずつとゐる  同
県庁と噴水おなじ古さかな  同
祇園会の路地人を吐く人を吸ふ  同


小川軽舟・句集『無辺』ふらんす堂

2023-05-17 | 俳句
面あげ耳澄ますなり花の谷  小川軽舟
夜が昼にのしかかるなり真葛谷  同
たつぷりと見し初夢の覚めて無し  同
光源は太陽一つ初景色  同
見つけたり鳶かも知れぬ鷹ひとつ  同


恩田侑布子・句集『はだかむし』角川書店

2022-11-27 | 俳句
蕾んではひらく空あり夏つばめ  恩田侑布子
宙ゆらぐ前に帰らん夏の闇  同
山茶花や天の眞名井へ散りやまず  同
生れたての雲かづきては瀧めぐり  同
蝙蝠にしはくちやの夜の始まりぬ  同
月光をすべり落ちさう湯舟ごと  同
凧糸をひく張りつめし空を引く  同
富士山頂色なき風の鳥居かな  同