つぶや句

夢追いおっさんの近況および思うことを気まぐれに。

ジ…………

2010-07-06 04:01:04 | 絵・まんが
二週間の展示期間中、平日は仕事で行けないので、せめて休日だけでも居ようと「茶房じゅん」
に(土・日)は一日詰めている。この日も友人・知人が来てくれた。

今回の展示で面白いと思ったのは、みなさん夫婦のカップルで、来てくれたことである。
実は以前の展示や個展ではシングルで来ることが多かったのだが、今回は見事にカップリング
ばかりである。大変ありがたいことなのだが、シングルで詰めているわたしは、土曜日から
見せつけられっぱなしで、少々妬けているのだ。「誰かわたしに愛をくださーい!」。

そんな中に、やはりカップルが一組店に入ってきた。わたしは知らない人である。
お互いが白髪混じりで、年齢は50代後半か、おそらく夫婦であろう。旦那様はかなり
痩せていて、体調を崩しているのか、杖をついてヨロヨロと歩いている。奥様は少し
ふっくら体型で、これまたゆったりとした動きで、中央テーブルの椅子に腰を下ろした。
二人のリズムは見事にゆったりと会っていた。

奥様は、やおらタバコを取り出すと、ストレートパイプに刺し入れ、プカリプカリと
吸い出した。「ゲ…タバコ」これで奥様の印象はダウンである。わたしはそそくさと
本を取り出し、読み始めた。しばらくしてまたあの夫婦を見やると、奥様は、な何と
わたしの展示作品をポストカードにしたハガキを数枚手にしているではないか。(あこぎにも
200円という値を付けているのだ)すぐにさっきの印象ダウンは解除された。(笑)

しかし、これからがすごいのだ。奥様はじっくりとハガキを見つめ、裏返し、横にし、斜めから
のぞき、本当にしげしげとながめるのである。やがてまたタバコをプカリプカリ…。
すると今度は旦那様が立ち上がった。ヨロヨロと杖をつきつつ展示の絵に向かった。そして
ピタリと止まると、ジ……………と見つめたまま動かないのだ。どのくらいの時間かわからな
かったが、長く感じたのは確かである。やがてまたヨロヨロと移動し、次の絵をジ…………。

わたしは次第に緊張してきた。こんなにジックリ見られたという記憶がない。奥様はというと、
今度は同時に展示してある陶器の皿を持ってきて、テーブルに置いたり、持ち上げたり、
裏・横・斜めと、またしげしげと眺めていたのだ。

一方の旦那様が一巡りするころには、読んでいた本の文面はまったく頭に入らなくなっていた。
わたしの素知らぬ風は、そのままだったが、全神経は旦那様を追っていたのである。

やがてヨロヨロとテーブルに着くと、わたしの神経もホッと一息ついた。それにしてもこんなに
ジックリ作品を見られたことがあるだろうか。それも隅々まで見ているのだ。

しばらくして、また旦那様がヨロヨロと立ち上がると、トイレへと向かったのだ。ここで
わたしはまた緊張が高まった。というのは、トイレの横に枯れた薔薇を描いた絵が掛けて
あったのだ。「怖い」「不気味~」と身内らに言われた一番新しい作品である。
この作品はトイレに立たなければまず見ないであろうというとこに飾ったので、ほんの
数人しか見ていない。果たして旦那様はどのようなリアクションをするのか、全神経を注いだ。
旦那様は絵に気付き、例によってジ……………と眺めたのだった。

やがてトイレから出てきた彼は、ママに向かって「いやあ………」と何やら言ったが
よく聞き取れなかったのだ。奥様は手にしたポストカードは全て買い上げてくれ、吟味していた
陶器の皿も買い上げた。奥様が会計をしているとき、旦那様は出入り口に掛けてあった絵を
再びジ…………と眺めていた。そして見終わると、そのままゆっくりと顔をこちらに向けた。
素知らぬ顔で、本を読むふりをしているわたしを、ジ……………………。





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