昔、遠い漢の国の王武帝が、白い鹿にまたがり 5匹のコウモリを従えて 男鹿にやってきた。
やがて5匹のコウモリは、5匹の鬼に変わった。
眉間、逆頬(さかづら)眼光、首人(しゅじん) 押領(おうりょう)の五色の鬼がそれである。
初めの2匹が両親で、武帝に仕えて間もなく死んだが 残る三匹が里へ出てきては 暴れまわり
村人たちを困らせるようになった。 遠い国から渡ってきて 父も母も死んでしまった寂しさが
鬼たちを荒々しく 狂わせてしまった。兄弟3匹で男鹿島をゆさゆさ揺らし、地割れするほどに暴れた。
里に出てくるようになると 田畑を荒らすばかりでなく 娘までさらっていくようになった。
村人は鬼たちを「ナマハゲ」と呼んで恐れた。
「なんとしたらええべか」「さあ 何とすべ」 いく日も、いく日も人々たちは考えた。
村人の一人は一人がやっと言い出した。「ナマハゲたちの暴れたい心は おらも分かるような気がする。
だども、こんなにひどく暴れられては たまったもんでねぇ。そこでだ。ナマハゲとおら達とで
かけをしては?」 「ほう、かけって何たごどするなだ」
「あの山のてっぺんまで 千段の石段を築かせるのだ。たった一晩で。それが出来たら好きなことして
暴れてもええ。毎年一人づつ娘をやってもええ。 出来なかったら 永久にここを追われるのだ。
このあたりには、ちょうどええ具合の石も無いし、ずっと向こうの寒風山から運んでくるしかねえべ。
まさか、一晩で千段の石段は作れねえと思う」
それは、いい考えだというので、さっそくナマハゲたちに言うと 三匹は喜んだ。
今までは、神様の目を盗んで、こそこそやっていたが、今度は大っぴらにできる。
どうしても、かけに勝たなければいけない。早速取り掛かった。
なにしろ鬼の事だ。寒風山までひとっとび。大石をかかえてきては、どすん、どすんと築き上げていく。
そのものすごい勢いで、村人たちがあれよ、あれよと驚いている間に、999段まで出来てしまった。
ところで、ここに一匹の天邪鬼がいた。天邪鬼はへそまがりで、普段は嫌がらせや、
弱いものいじめばかりしている。
鬼の仲間なのに 鬼たちは相手にしなかった。だから、力の強いナマハゲたちを
いつかやっつけてやろうとねらっていた。
天邪鬼は、この夜の事を木の蔭から にたにた笑いながら見ていた。
千段出来かかった石段を見て 一つの計略を思いついたからである。昔は目覚まし時計など無かったから
ニワトリの叫び声で 目を覚ましたものだ。だからこの時の約束も ニワトリの鳴く夜明けまでと
言うことになっていた。ナマハゲが千個目の石をかついで 寒風山から飛んで帰ってきたとき
どこからともなく 大きな声で「コケッコッコー」と ニワトリの鳴き声がした。
鬼たちは、がっかりした。がっかりして怒り出した。怒り狂ったナマハゲは 山にかけあがり
てっぺんの杉の大木を引き抜くと 真っ逆さまに突き立てた。しかし、約束は約束。
今までの元気はどこえやら。がっくり肩を落としてどこへともなく去って行った。
村人たちは、大喜び。はらはらしていたのに ニワトリの一声で、ナマハゲたちはいなくなってしまった。
こんなめでたいことはない。「だども不思議だ。まだ こんなに暗いのに、なしてニワトリ鳴いたべか。
誰か真似したものいねぇか」
大騒ぎしたけれども、かけには勝ったのだ。 けれども、いなくなってみると、なんだか
懐かしいナマハゲたちだった。
そこで、村人たちは、1年に一度 1月15日に ナマハゲのお面を付けて 「泣ぐ子はえねが」と
家々を回って歩くようになったという。
999段の石段や、逆さ杉は 門前の五社堂の近くに今もある。
五社堂👆 読んで字のごとくお社が五つあり 最強のパワースポット
鬼が築いたといわれる999段の石段👆
文中 1月15日とありますが、昔はこの日にちだったようです。
現在は 各町内ごとに 大みそかの夜 ナマハゲの扮装をして家々を回って歩くそうです。
真山神社では、2022年2月11日(金)から13日(日)の3日間「なまはげ柴灯まつり」が開催されました。
秋田の昔話より
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