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花日和 Hana-biyori

ハン・ガン「すべての、白いものたちの」(感想)

ハン・ガン「すべての、白いものたちの」斎藤真理子 訳(河出書房新社)

はからずも韓国の民主主義を揺るがす事件の最中に読むことになるとは。

ノーベル文学賞を受賞したことで読書会の課題本になったので読みました。本来は、その功績が称えられた光州事件を描いた『少年が来る』を読むべきとも聞きました。ただ、ボリュームと価格などの負荷を考えて今回はこちらが課題本になりました。

***

さいしょは、フォトエッセイのような、詩集のような、静謐な雰囲気でセンスのいい言葉と写真を並べた芸術的な本という印象を持った。

けれど、生まれてから2時間しか生きられなかったという姉の話がでてくると、印象は一変する。母親が22歳のときに初めて生んだ女の子。夫の仕事の関係で電話もない地方の家に住み、突然の破水にたった一人で出産し、「しなないで おねがい」と祈るように呼びかけた。7ヶ月の早産で生まれた赤ん坊は餅菓子を蒸す前のような真っ白な肌で、呼びかけに黒い瞳を向けたという。かなり印象的な描写だった。

書き手は子供時代に母親から繰り返しこの話を聞いたというから、彼女の深いところに生まれてすぐに死んだ姉の存在が染み込んでいることがよく分かる。

2章では、その姉にこの世を、この世の美しいものを見せてあげたいという思いだろうか、自分がしていることのようでいて「彼女は」という書き方で見たものや思い、情景が記述されている。解釈が難しい文章だけれど、無理があるかというとそうでもないのが不思議な文体だった。

ただ、仕事で疲れて腫れぼったい脳みそで読むには緻密で繊細すぎる。感受性を研ぎ澄まして向きあうべきところ、ぼーっとして汲むべきものを取りこぼしているような気がしていた。美しい繊細な描写も、すぐに忘れてしまいそうと思って。

しかし、最後まで読んでから、またはじめに戻って冒頭の「白いもの」である単語の羅列を見ると、不思議な感覚があった。

おくるみ、うぶぎ、しお、ゆき、こおり、つき、こめ、なみ、はくもくれん、しろいとり、しろくわらう、はくし、しろいいぬ、はくはつ、寿衣

最初に読んだときはただの言葉だったものたちが、すべて読んだあとは、これらのワードを目にしただけでそれにまつわる物語と場面が映像となって立ち上がってくるのだ。


著者は「少年が来る」執筆の負担から、その後になにか心を休めるために書くことが必要だったという。それが本書だったわけだが、自分の中から痛みが染み出るように書かれた本のように感じた。

すべての、白いものたちの :ハン・ガン,斎藤 真理子|河出書房新社

すべての、白いものたちの アジア初のブッカー国際賞作家による奇蹟の傑作が文庫化。おくるみ、産着、雪、骨、灰、白く笑う、米と飯……。朝鮮半島とワルシャワの街をつなぐ65...

河出書房新社




 
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