私の子供の頃のトイレは殆どが汲み取り式であった。
小学校の頃、友達が「トイレには、おばけがいるんだ」と深刻な顔をして言っていた。
その、おばけは子供がしゃがんでいると壺の中から手を出して、中に引きずり込むのだそうだ。
そうすると、その子供は、どうわめいても外に出られず、一生を壺の中で過ごさなければならないというのであった。
「平気、平気」と友達には言いながらも、私も怖くて仕方がなかった。
入る前に何かいないかと壺の中を覗きこんで、落ちそうになったことなど、一度や二度ではない。
あの暗い壺の中には絶対に何かいそうな雰囲気が漂っていたのは事実である。
そんなトイレを使ったことのない強者の彼女が緊張してしまうのも無理はない。
女性にとって排便はデリケートな作業だから精神的な部分が影響する。
きっと彼女がトイレのドアを開けて、ぽっかり空いた穴を見て、ぎょっとしたとたん、肛門もきゅっと閉じたのに違いない。
別荘に滞在している間、彼女は事あるごとに「あぁ、出ない」とつぶやいては、お腹をさすっていたらしい。
出ないから今ひとつ、食欲もわかず、重苦しい感じがするという。
「気にしなくていいからさ、思い切ってやっちゃえば?」
「そう思ってるんですけど、肛門が開かないんです」
彼女は辛そうに言った。
そして余りに我慢出来なくなったので別荘の持ち主に
水洗トイレのある場所まで連れて行ってくれと頼んだ。
彼はあきれ顔で、「何だ、それくらいのことで便秘になってどうする」と言ったものの、一応、女性が辛い思いをしているということもあり、一同がドライブに行くついでに、彼女の求める水洗トイレを探すことになった。
ところが、その地域一帯は、まだ下水が完備しておらず、喫茶店に行っても汲み取り式なのである。
「ここなら大丈夫そうね」
外観がお洒落な喫茶店のトイレに、にこにこ笑いながら入っていった彼女が、暗い顔で戻ってきたのを何度も皆は目撃している。
湖へボートに乗りに行こうと山道を下っている時に彼女は便意を催し、「確か山の上の茶店の奥にトイレがあったよ」と誰かが教えると、彼女は無言で駆け出して行った。
いくら肛門が開かなくても、体内からの力が勝れば、おのずと門は開くはずである。
皆が心配していると彼女は「わーーーん」と半泣きで戻ってきた。
「今までで一番ひどかった・・・。」
そこも、もちろん汲み取り式だったのだが、恐ろしいことに壺の中身が円錐型に堆積し、先っぽのとんがり部分が、便器すれすれの高さにまで及んでいたというのだ。
「だから言っただろ?このへんは、みんな便所はそうなんだ。どうしてそんなことを気にするんだ」女性のデリケートな気持ちが理解できない男性陣は、半分、呆れていた。
つづく
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