ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

父さん頑張れ 9

2020-06-12 15:36:27 | 父さん頑張れ(総つく)
紆余曲折あれど、総二郎がつくしと結婚し、正式に修平の父親となってから1ヶ月が経過した。
初めのうちは修平から「僕の大好きなお母さんを独り占めするオジサン」と警戒されていたものの、今では立派なお父さん子に成長し、総二郎もいたくご満悦の様子だ。
さて、そんな仲睦まじい牧野家に本日、来客がやって来るという。

「え~!?けんたろーとキャッチボールしたかったのに~」

「ゴメンね、修平。健太郎君とはいつでもキャッチボール出来るから、今日は我慢してくれる?」

「・・・わかった。じゃあ、がまんするから、おかーさんのハンバーグたべたい」

「えっ?」

「おかーさんがハンバーグつくってくれたら、がまんするよ、ぼく」

「分かったわ。じゃあ、今夜はハンバーグにするね。お父さんと一緒に作るから、楽しみにしててね」

「やった~!」

「おいっ!?俺も作るのかよ」

「当然です。ね?修平」

「うん!ぼく、おとーさんのハンバーグもすきだよ。だって、おかーさんがつくったハンバーグより大きいもん」

「だ、そうよ?お父さん」

「しゃーねーな。よし!じゃあ、修平の為に飛びきり美味いハンバーグ作ってやるよ」

そう言いながら総二郎は、満面の笑顔を浮かべ喜ぶ修平を肩車した。
その姿は、何処からどう見ても正真正銘の親子だ。
息子を可愛がる父親と、父親に懐く息子。
誰の目から見ても、疑いようのない姿だ。
そんな夫と息子を微笑ましく見つめていたつくしだったが、客人が来訪する時刻が迫ってきた事に気付き、慌ててお茶の準備を始めた。
すると、まるでタイミングを計ったかのように、来訪を告げるチャイムがリビングに響き渡った。

「えっ!?もう来たの?」

「予定より20分早ぇな」

「ひょっとして、宅配の人なんじゃない?」

「宅配?何か頼んだのか?」

「ううん。何も」

「ヲイ」

「もしかしたら、誰かがウチに何か贈ってくれたかもしれないじゃん。だから、取り敢えず出てくれる?修平は、お母さんと一緒にお茶の用意をしよう」

「へーへー」

「は~い」

総二郎に来訪者の応対を頼んだつくしは、修平と一緒におもてなしの準備を急いだ。
今日は3名の客人が来る予定なので、お茶やお茶菓子の用意をするにも時間がかかる。
お茶菓子は、余っていたお餅を使ってつくしお手製あられを作ったし、もう一品、貰ったパンの耳でラスクも作った。
それらを修平と一緒に、大皿に盛りつける。

「おかーさんのおかし、おいしいからすき」

「本当?嬉しいな」

「ぼく、あられもラスクもだいすき!」

「ありがとう、修平」

「・・・だから、たべてもいい?」

「いいわよ。但し、お客さんが来てからね」

「は~い」

母親にしっかり釘を刺された修平は、駄々をこねる事なく、お菓子が入った大皿を両手で持ち運んだ。
そして、あられとラスクの入った皿を運び終えた修平が母親のいる台所に戻った時、父親の声と一緒に、聞き慣れない男性の声が耳に届いた。

「時間厳守がビジネスマンのモットーとは言え、早すぎるだろ。こっちの都合も考えろよ」

「仕方ないじゃん。少しでも早く、牧野と牧野の子供に会いたかったんだから」

「おい。もう一人忘れてねぇか?」

「なに?もしかして、総二郎にも会いたかったんだ~って言ってもらいたかったの?やだよ、気持ち悪い。俺は、牧野と牧野の子供に会いたくて来ただけだよ。別に総二郎に用はない」

などという、辛辣な言葉が部屋中に響き渡った。
当然、つくしにはその口調と声音だけで、誰が来たのかすぐに分かる。
それは、言わずもがな、

「花沢類!」

「牧野!」

つくしの一番の理解者であった、花沢類だ。
互いが互いの一部だと自負するほどの間柄で、総二郎に対する想いとは、また違った意味での好意を抱いている。
それは決して、恋愛に結びつくような感情ではない。
と、あくまでつくし自身はそう思っている。
そんな類との再会は約7年振りとなり、何やら感慨深いものがある。
だから、思わず泣きそうになるのも致し方ない事で。
そう自身に弁解したつくしは、泣きそうになるのを必死で堪えながら、類に声をかけた。

「7年前、何も言わず急に姿を消してゴメンね?そして、今日は来てくれてありがとう。花沢類」

「あんたのゴメンとありがとうは、聞き飽きたって言ったろ?」

「・・・うん」

「とは言え、牧野からの『ゴメン』と『ありがとう』は、何度聞いてもいいね。懐かしいよ」

「花沢類・・・」

「おかえり、牧野。思ったより元気そうで安心した」

「ただいま、花沢類。花沢類も元気そうね」

「うん。牧野に会えたから余計に元気になった」

「ふふっ」

「7年前より綺麗になったね。素敵な大人の女性って感じ」

「あ、ありがとう。花沢類も、凄く素敵な大人の男性に成長したのね」

「ホント?俺って、牧野から見て素敵な男!?」

「うん。花沢類は、いつだって素敵だよ」

「ありがとう。牧野だって、昔も今もこれからも、ずっとずっと素敵な女だよ。俺の中では、牧野が断トツでイイ女だから」

「そんな大袈裟な。花沢類の周りには、綺麗で素敵な女性が沢山いるでしょ?」

「見掛けだけ綺麗にしてる女ならね」

「もう。そんな事言わないの」

「だって事実だし。内面も外面も綺麗なのは、牧野しかいないよ。牧野以上にイイ女はいない」

「花沢類・・・」

「・・・おい。俺達そっちのけで、なにピンクオーラを撒き散らしてんだ。いい加減にしろ」

今まで黙って事のなり行きを見守っていた総二郎であったが、遂に堪忍袋の緒が切れたようだ。
つくしと類の会話に割って入り、二人ならではの独特の空気感を、見事なまでに打破した。
しかし、そんな事でへこたれる類ではない。
自分を威嚇する総二郎を敢えて無視した類は、つくしの後ろに隠れている小さな男の子に視線を移し、その子の目線に合わせる為、床に膝をついて挨拶した。

「こんにちは。花沢類です。うるさくしちゃってゴメンね」

「・・・」

「修平、ご挨拶は?」

「あ、あの・・・まきのしゅーへいです。7さいです」

「修平君っていうんだ。いい名前だね」

「・・・」

「あれ?嫌われちゃったかな?俺」

「違うわよ。恥ずかしがってるだけ。ちょっとだけ人見知りしちゃうの」

人様との付き合いや接触をなるべく最小限に留めた結果、修平は若干人見知りするようになった。
それは、総二郎の血を引く修平の存在が、西門家に知られない様にする為だ。
人との関わりが増えれば増えるほど、修平の存在が知れ渡る。
となると、いつ何時(なんどき)、西門家の耳に届くか分からない。
そんな危険を回避する為、つくしは修平をあまり外に連れ回したりしなかったし、家にも人をほとんど呼ばなかった。
唯一容認していたのは、キャッチボール相手である幼馴染みの健太郎と、その両親だけだ。

英徳学園という特殊な学校で学生生活を送ったつくしには、人の善悪を見抜く能力が備わっている。
いくら善人面しても、親切ごかしな態度はすぐに分かるしメッキは剥がれる。
何故なら、中身が空っぽだから。心がないから。
だから、つくしは用心した。
大事な息子を守る為に。
だが、

「私のせいで、修平には窮屈な思いをさせちゃって・・・修平には何の罪もないのに。もっと色々な人と色々な場所で遊びたかっただろうに、私が制限しちゃったせいで、人見知りするようになって。私の都合で修平に不自由させて、本当にこの子に申し訳なくて・・・」

「そんな風に自分を責めるもんじゃないよ。そんなお母さん、修平君だって見たくないだろ。泣き言を口にするお母さんより、笑ってるお母さんの方が大好きなはずだから。だよな?修平君」

「うん!ぼく、ニコニコしてるおかーさん、だいすき!」

「修平・・・」

「俺も、ニコニコしてる牧野が大好きだよ。修平君と一緒だ。ね?修平君」

「うん!いっしょ!」

「だから、もう自分を責めないで。修平君も見たくないよね?元気のないお母さんの姿を」

「うん!みたくない。ぼく、イイ子にするからニコニコしててよ、おかーさん」

「修平っ・・・」

「悪いのは、ここまで牧野を追い詰めた総二郎の方なんだから。牧野が気に病む必要は全くないからね」

「花沢類ってば・・・ふふっ」

「笑ったね。やっぱり牧野には笑顔が似合う。ね?修平君」

「うん!」

「・・・おい。これじゃあ、どっちがコイツの旦那で修平の父親か分からねぇじゃねーか。」

「その役目、いつでも交代するから安心して」

「はあ!?」

「簡単には許さないから。覚悟しなよ?総二郎」

「類!」

牧野家の室内温度が、氷点下と沸点を目まぐるしく行き来していた。





コメントを投稿