羽生結弦選手の演技動画で、ジャンプを見分ける! の 「その2」 です。
基本的な知識、ジャンプの詳細やスロー動画は、「その1」 のページ → http://blog.goo.ne.jp/hananinarouyo/c/217fb2b0feccfe085fb5870b5c98705d を見て、ご確認下さい。
まず、ちょっとしたおさらいです。
その1でもご紹介した、こちらの動画をどうぞ。
最初に、ジュニア時代の SP「ミッション・インポッシブル」を使ってみます。
ぜひとも、ポイントを押さえて、ジャンプを見分けるという、「ミッション(=mission)」(=使命、特別任務) を、
「インポッシブル」(Impossible)=不可能! なんて言わずに、「ポッシブル」(=Possible)=可能!へと、変えてみて頂きたいと思います!(笑)
名付けて、「あなたも出来る! 「ジャンプの見分け」 ミッション・ポッシブル!」
2009年ジュニア・グランプリ・ファイナルの時の、公式練習動画を拝借致します。
一つ目 :最初のジャンプは、前向きに跳びあがりましたので、 アクセル です。 つまり、3回転アクセル。(=トリプル・アクセル)
二つ目 :次のジャンプは、コンビネーション・ジャンプです。
後ろ向きから跳びあがろうとしていて、(=アクセル以外の全てのジャンプ) 、
跳ぶ前に、左足が前に出て、右足が後ろになり、右足のトウをついています。この形になるのは、フリップとルッツです。
跳ぶ直前の形が、後ろ向きに真っ直ぐに長く滑走して、左肩を深く落として、外側にエッジを傾けて跳んでいますので、ルッツです。
3回転ルッツ。
着氷と同時に直ちに次のジャンプに跳びあがる、「後続ジャンプ」は、基本的には、トーループとループの2つしかできません。
ここでは、後ろに足を引いてトウをついていますので、トーループだとすぐに解ります。
(ループだと、片足が後ろにいかずに、両足が前方で交差してすぐに跳びあがる形になります。)
2回転トーループです。
つまり、このジャンプは、3回転ルッツ + 2回転トーループ のコンビネーション・ジャンプだったことになります。
三つ目 : これが一番難しいです。
右足のトウをついて跳んでいますので、フリップかルッツだとわかります。
直前の形は、左回転(反時計回り)にターンをしてから直ちに跳んでいるので、
内側に傾いたインサイド・エッジから跳ぼうとしていると思われ、基本的には、3回転フリップで、羽生選手はその予定で跳んでいます。
しかし、もし外側に傾いてしまい、アウトサイドエッジで跳んでしまった、と認定されると、それは本当は「ルッツ」だということになります。
「フリップを跳ぼうとしていたのに、うっかり ルッツみたいになっちゃった」とか、
その逆の、「ルッツを跳ぼうとしたけど、フリップみたいになっちゃった」
ということが、ルッツとフリップの間ではよくあります。 選手の得意・不得意によっては、そのパターンは異なります。
これらを「エッジ・エラー」(edge error)または、「ロング・エッジ」(wrong edge)と呼びます。
どちらも同じことで、エッジの使い方を間違えた場合です。
正しく跳んだ場合と比べれば、見た目、ジャンプは成功していても、評価は下がってしまいます。
(このシーズンの羽生選手は、このフリップでエッジ・エラーをとられることがありました。)
さて、次は、いわゆるフリーでの長いプログラムを使って、ジャンプの全てを確認していきたいと思います。
まずは、2012年世界選手権で銅メダル獲得時のフリー「ロミオとジュリエット(旧)」の、それも、直前の公式練習の動画を使って、見てみたいと思います。(動画主様、拝借致します。)
この動画は、目の前で撮影されているため、至近距離で羽生選手の演技・跳ぶ姿が見られ、また、練習着で色が真っ黒なので、動きがとても見やすいです。 ただし、フェンスで見えなくなったりもありますが、近くで見ている感覚で、ご覧になって見て下さい。
① 最初のジャンプは、4回転トーループ。左足でトウをついて鮮やかに跳びあがります。
② 2つめのジャンプは、羽生選手得意の、3回転アクセル。前向きに跳びあがるのを確認して下さい。
③ 3つ目に跳んでいるジャンプが、今回、特に確認したい、3回転フリップ。
先にくるくると左回り(反時計回り)に氷上で回転してから、左足はやや内向きに倒れ、右足のつま先(トウ)をついて、直前のターンと同じ回転方向へ、軽く跳んでいきます。
左足で後ろ向き(バック)で滑っている時、インサイドエッジを使うと、足首は内側に倒れ、左回り(反時計回り)の緩やかな孤を描きます。
そのまま同じ回転方向へポンと跳んでいるので、フリップだと解ります。
(ルッツと比べると、フリップのほうが左肩が上がっており、跳ぶ直前にルッツほどには大げざに構える様子がなく、跳んでいく。)
④ その後少し休んだ羽生選手が、次に挑戦するジャンプが、3回転ルッツ+2回転トーループ(両手あげジャンプ)の連続ですが、残念ながら近すぎてフェンスのせいで足元はあまりよく映っていませんが、カメラは斜め後ろから映してくれています。
羽生選手は、この跳ぶ直前の姿勢の時、左肩が下がっていて、左側に(画面だと手前側に、)身体全体が斜めに傾いています。
ですから、足元が見えなくても、左足のアウトサイドエッジに乗った状態だと解ります。
そこから、後ろに大きく引き下げた右足のトウをつく、「ドン」という大きい音が聞こえます。 そして跳んでいますから、「ルッツ」だと解ります。
後続の2回転トーループでは、左足が後ろへと下がり、トウをついてから跳んでいることを確認して下さい。
(羽生選手はこの時、両手を上にあげることで見た目を美しくし、難易度の高くしています。)
⑤ その後は3回転アクセル+3回転トーループで、最初のアクセルが、前向きにスタートして跳びあがるのを確認して下さい。
(しかし、ここの後続ジャンプの3回転トーループで、動画の羽生選手は転倒してしまいます。)
⑥ その後が、3回転ルッツからの3連続ジャンプの予定でしたが、練習ではパスしていて、跳んでいません。
⑦ そのさらに後に単独で跳んでいるのが、3回転ループです。
トウ(つま先)はつかずに、ひざを大きく曲げて、腰が据わったような姿勢で、左足が右足よりも前に出て両足を交差させてから跳びあがります。
後ろ側の、右足のアウトサイドエッジ踏切で跳びあがるのが、ループです。
跳んでいくときの足が少し「輪」のような形に見えるかと思います。
⑧ 最後に跳ぶのが、3回転サルコウです。 ハの字に脚が一瞬開くのを確認して下さい。 左足が内側に倒れています。 (=左足インサイド・エッジ)
エッジで跳んでいます。
では、実際の試合の動画で、もう一度ご確認下さい。 2012年世界選手権フリー「ロミオとジュリエット」 スペイン語解説です。(翻訳なし)
こちらでは、上の練習動画では確認できなかった、4番目と6番目のジャンプである、「3回転ルッツ + 2回転トーループ(両手上げ)」と、 「3回転ルッツ + 2回転トーループ + 2回転トーループ」 の、ルッツからのコンビネーション・ジャンプをよく注意して見てみてください。
1.4回転トーループ
2.3回転アクセル
3.3回転フリップ
4.3回転ルッツ + 2回転トーループ(両手上げ)
5.3回転アクセル + 3回転トーループ
6.3回転ルッツ + 2回転トーループ + 2回転トーループ
7.3回転ループ
8.3回転サルコウ
次に、今シーズンの羽生選手のフリーのプログラム「オペラ座の怪人」を見てみます。
フリーのプログラムはジャンプ数が多いので、先に、頭の中に何のジャンプを跳ぶのかを、頭に入れてから、確認していくつもりで見てみてください。
羽生選手は、全日本選手権、グランプリ・ファイナル、世界選手権では、次のような構成で跳んできました。
「オペラ座の怪人」
前半 ① 4回転サルコウ (4S)
② 4回転トーループ (4T)
③ 3回転フリップ (3F)
後半 ④ 3回転ルッツ(3Lz) + 2回転トーループ (2T)
⑤ 3回転アクセル(3A) + 3回転トーループ (3T)
⑥ 3回転アクセル (3A) + 1回転ループ(かつてのハーフループ)(1Lo) + 3回転サルコウ (3S)
⑦ 3回転ループ (3Lo)
⑧ 3回転ルッツ (3Lz)
基礎点としては、6番目に跳ぶジャンプである、「3回転アクセル+1回転ループ+3回転サルコウ」からの3連続ジャンプが一番高くて、(後半だからさらに1.1倍の点がつく)、次が5番目の「3回転アクセル+3回転トーループ」のジャンプ(同じく1.1倍)が、最難関のアクセルからスタートしていて難しいために、その得点が非常に高くなっています。
次いで、最初に跳ぶ4回転サルコウ、そして、2番目に跳ぶ4回転トーループ、の順番です。
普通は、4回転のほうが3回転アクセルよりも難しいので、単独で跳ぶなら、4回転のほうが難易度も高く得点も上ですが、
現在(2015年時点)の採点制度では、3回転半(トリプル・アクセル)からの連続ジャンプを跳ぶと、4回転単独ジャンプよりも、より高い得点になります。
アクセル以外のジャンプの中では一番難しいジャンプである、「ルッツ」。
そのルッツからのコンビネーション・ジャンプである、4番目のジャンプは、比較的高得点になります。
羽生選手がジャンプを大量に後半に入れているのは、疲れてくる後半のほうが、より成功率が低くなるし、精神的プレッシャーも高まるので、その分難易度が上がり、得点が高くなるため、あえてそのようにしています。
6番目のジャンプを、見てみて下さい。
⑥ 3回転アクセル (3A) + 1回転ループ(かつてのハーフループ)(1Lo) + 3回転サルコウ (3S)
この、「間に1回転ループ(かつてのハーフループ)」が入るジャンプが難しいのは、その分そこで勢いが落ち、助走なしジャンプと同じような感覚になり、その後のジャンプがより跳びにくく難易度が上がるから、という理由と、もう一つは、普通の連続ジャンプではつけられない後続ジャンプ(サルコウ、フリップ)をつけることが出来るからです。
普通の連続ジャンプ(コンビネーション・ジャンプ)は、後ろにトーループか、ループしかつけられません。
ジャンプの着氷は、右足外側(アウトサイド)エッジになるのですが、そのままで再び踏み切れるジャンプが、この二つだけだからです。
間に「1回転ループ」(シングル・ループ、かつて、ハーフループと呼ばれたもの)を入れる、このようなコンビネーションジャンプは、
最初のジャンプで右足後ろ向きのアウトサイド(外側)エッジで着氷した足を、左足後ろ向きのインサイド(内側)エッジで踏み切る体勢に足を変えることが出来るので、左足インサイド・エッジ踏切でスタートする「サルコウ」か「フリップ」ジャンプを、その後ろに続けてつけることが出来ます。
基礎点も、それぞれのジャンプ3つ分が加算されてくるので、単独ジャンプと比べると、非常に高くなっています。
今では大勢の上位選手たちがこの、間に「1回転ループ」を入れる、3連続のコンビネーション・ジャンプを跳んできますが、
羽生選手は、この難しい3連続ジャンプの最初のジャンプに、難易度が高くて苦手な人が多い、3回転アクセル(トリプルアクセル)を跳びますので、
他の選手たちの3連続ジャンプよりさらに難易度が高く、得点も非常に高いものになっています。
(単独4回転ジャンプよりも、現在は基礎点はこちらの方が高い。)
今の採点制度だと、トリプルアクセルから始まる、この3連続ジャンプだけで、羽生選手は普通の3回転ジャンプの2~3倍、あるいは、一つのコンビネーション・スピンの4倍程度にあたるほどの高得点を獲得できます。(2014年時点での話)
羽生選手の演技で、実際の各ジャンプを確認して見て下さい。 ↓
これは、冒頭の4回転サルコウを成功した、2014年グランプリ・ファイナルの時のものです。(最後のルッツだけが失敗。)
前半 ① 4回転サルコウ (4S)
② 4回転トーループ (4T)
③ 3回転フリップ (3F)
後半 ④ 3回転ルッツ(3Lz) + 2回転トーループ (2T) (後半に入ったここから先のジャンプは、得点が1.1倍になる。 ↓ )
⑤ 3回転アクセル(3A) + 3回転トーループ (3T)
⑥ 3回転アクセル (3A) + 1回転ループ(かつてのハーフループ)(1Lo) + 3回転サルコウ (3S)
⑦ 3回転ループ (3Lo)
⑧ 3回転ルッツ (3Lz)
そして最後に、世界選手権2015の演技を見てみます。
冒頭の4回転サルコウは、回転が抜けて2回転サルコウになってしまい、現在の採点制度では、得点がかなり低くなってしまいます。
しかし、得点を抜きにしてみれば、転倒よりもは見た目も美しく、演技の流れも止まらないため、演技全体の印象としてのダメージは少ないと私は思います。
二つ目の4回転トーループは、転倒してしまいますけど、跳ぶ瞬間の踏み切りの「トーループの形」は、この映像だとよく解ります。
その後のジャンプは、全て成功です。
途中で入る、後続ジャンプの両手上げ2回転トーループが、とてもキレイに見えました。
上のグランプリ・ファイナルでは失敗してしまった、最後の3回転ルッツ が成功していますので、跳びあがる直前の流れと形を、よく確認して見て下さい。
やはり、ラストがビシッと決まると、ちょっとカッコイイですね。(笑)
いかがでしたでしょうか。
楽しく見ながら、覚えられるといいですね。
羽生選手、無理なく 頑張れ!!