最高おススメ演技、その19は、
五輪金メダリストになった翌シーズン(羽生選手・大学2年)のフリーだった、「オペラ座の怪人」です。
羽生選手は、中学生の頃に音楽の授業で「オペラ座の怪人」を見せられて、その音楽を聞いてから、
「いつかこれで滑りたい!とずっと願っていた」そうで、19歳から20歳へと、成人を迎えるこの五輪の翌シーズンに、ついにそれを実行に移します。
しかし、五輪・世界選手権直後からも、休みなく数え切れないほどのアイスショーをこなし、
あらゆる取材やら番組やらCMやらで驚異の多忙スケジュールをこなしたこのシーズンは、
グランプリ・シリーズの最初の中国杯の6分間練習で、中国の選手と激しく衝突するという氷上での大事故に見舞われ、
とんでもない試練からのスタートとなってしまいました。
中国杯、NHK杯、全日本選手権、そして世界選手権に至るまで、あらゆる試合で、「出場すら危ぶまれるような」状況がひたすら続く、大変に困難の連続のシーズンとなりました。
また、年末の全日本選手権後には、尿膜管遺残症で直ちに手術・入院となり、成人式を入院中に迎えた羽生選手。
あまりにも有名になりすぎて多忙を極め、休むこともなく無理をしてきた羽生選手に、神様は「強制休暇」を取らせたかったのかもしれません。
羽生選手にとっては、色々な意味で、決して忘れられないシーズンとなったことでしょう。
この演技のベストと私が思うのは、そんな激動のシーズンのラストに演じてくれた、「国別対抗戦」での演技です。
この日本語解説では、羽生選手が試合前に、今シーズンのあらゆる経験を、「自分にとっての宝物」と語ったことが明かされます。
ここにくるまでの羽生選手の、このシーズンでのあまりにも大変な、困難の連続だった日々を思い出すと、
この言葉を聞いただけでも、グッと込み上げてくるものがありますが、
この演技は本当に、羽生選手が、シーズン中に起きたすべての出来事、そこから得られた「宝」としての思いを詰めて、全身全霊で演じてくれたことが伝わってくる、そんな気迫とスピード感に溢れ、羽生ファントムの 切なさと強い思い、優しさと感謝までもが感じられる、素晴らしい演技でした。
技術的には、冒頭の4回転サルコウが非常に素晴らしく、流れもあってカッコ良かったです。
次の4回転トウループが3回転になり、その関係で後半の「3回転アクセル+3回転トウループ」を、後続ジャンプを「2回転トウループの両手上げ」に変更しています。 羽生選手の両手上げジャンプがとても好きな私は、この変更は逆にちょっと喜んじゃいました。
結果的には、多少のとっさの変更があったものの、流れが全く途切れることもなく、とても完成度の高い演技となりました。
後半からラストの方は、思わず鳥肌が立つような、そんな深い感動があります…
羽生選手はシーズン最初から、ファントムのその表側のイメージとは違った、「本当はピュアな面」をあえて表現したいのだとのことでした。
「僕なりのファントム」を追求した結果が、それだというのなら、そこには羽生選手らしさが一番出てくることでしょう。
ただのピュアを通り越して、猪突猛進となった大会もありましたけど、
複雑な性格設定で、解釈が多様で、様々なバージョンの存在するミュージカルの「オペラ座の怪人」のファントム役の中でも、あえてそういう側面をテーマにして強調したかったという羽生選手。
その人気の秘密は、そういうところにもあるのだろうと思わされたシーズンでもありました。
闇の世界で育ち、本当の愛を知らないファントムは、誘惑・洗脳・強制支配でクリスティーヌを得ようとしますが、間違ったやり方では、それは叶わないことに気付きます。
クリスティーヌの思いを知り、愛の片鱗を垣間見て、最後に身を引く決意をしたファントム。
その切なさなども、この演技では、よく表現出来ていたのではないかと…。
世界選手権で2位という非常に悔しい結果に終わり、演技にも思い残しをしていた羽生選手が、急遽国別対抗戦にまで出場することを決め、この演技に、シーズンすべての想いをぶつけ、昇華させ、やっと本来の羽生選手が戻ってきたかのような印象がありました。
二つ目の4回転トウループが3回転になるなどの変更もあり、技術的には羽生選手には多少、不本意な形で終わったとは思うのですが、
観ている側としては、賢明な対処だったし、よい判断だったと評価したい演技です。
演技の流れが途切れることなく、丁寧で、惹き込まれる演技になったと思います!
この演技終了後のインタビューで、演技中、最後、仮面を外してトラベリング・キャメルからコンビネーション・スピンに入る直前の時に、羽生選手が何か口を動かしていたそうなのですが、その時の羽生選手の答えによれば、なんと、『気持ちが入り込んでいて、クリスティーヌに向かって、「バイバイ…」と言っていた』のだそうです。
バ… バイバイ… …まあ、なんて現代的で、ある意味ドライで素直で若々しいファントムなのでしょうか…! (笑)
今後、5~10年ごとに、羽生選手にこの時の言葉について振り返ってどう思うか、是非聞いてみたいなと思った私です。(笑)
ミュージカルの「オペラ座の怪人」で、主役のファントム役をされるのは、ほとんどが50歳前後の方々が選ばれるらしいのですが、その理由が、ちょっとだけ分かったような気がしました。
ちなみに、本当のミュージカルで、「断腸の思いで」身を引く決意をし、本音を隠して苦しみ悶えながら、クリスティーヌに別れを告げるファントムのセリフは、搾り出すような声での、「Leave me alone…!」(…放っておいてくれ! または、一人にしてくれ!)なのでした。 (笑)
次にご紹介するのは、このシーズン中のベストスコアを記録した、グランプリ・ファイナルの時の演技です。
この2か月前の中国杯で、かなりの重傷を負った羽生選手は、思うように身体が動かない中で、本来の実力とは程遠い状態で、
グランプリシリーズの2大会を終えます。
特に殆ど練習できずに迎えたNHK杯では、現役五輪王者としては悔し涙を流したくなる、4位という結果を真摯に受け止めてみせた羽生選手。
しかし、「上位6人」のうちの、最後の一人枠としてギリギリで、なんと奇跡的に出場できることとなった、グランプリ・ファイナル。
屈辱的な結果だったNHK杯から、わずか1週間程度の練習でしたが、相当ハードな練習をこなして、
多くの人を予想を裏切る、驚異的な復活ぶりで、堂々の優勝を果たしてみせた時の演技です。
この直後から、尿膜管遺残症の痛みに今度は苦しめられることになり、既にこの演技の時には兆候があったようですが、
そんな様子は微塵も見せず、むしろ滑れる喜び一杯で滑り、怪我の後遺症も忘れる勢いで高難度ジャンプも次々と跳んでいく羽生選手からは、
ファントムの悲哀や切なさなんてどこへやら(笑)、ニコニコの笑顔で、
これはもう、「怪人」ではなくて「快人」とお呼びしたい状態になっております。
最後は思わず「勝利の喜びに沸く」ファントム…、
いや、そんなファントムはいないはずだから(笑)
見事なまでに「オペラ座の怪人」というタイトルを、「アッパレ座の超人」に書き換えた、羽生選手の超人的復活演技でした!
血がついて落ちなくなったという最初の衣装は使えなくなり、初めて、シーズン途中での衣装の完全なるデザイン変更が見られた点も、初めてのことでした。
最初の衣装も非常に個性的でしたが、NHK杯から使われたこの新・衣装は、今までどんな選手がやってきた「ファントム」とも全然違い、
それまでの羽生選手の衣装のイメージとも全く違う、斬新な印象のもので、
しかし同時に王者の風格と品格の漂う、目を見張るようなカッコ良さで、私はとても好きでした。
このシーズンから、フィギュアスケートは、それまで禁止されていた、「試合でのボーカル曲解禁」となり、そういった音楽の使用面でも、大きな変化と難しさが感じられたシーズンでした。
音楽の中で挿入されるボーカルや使われる歌詞の影響力というのは、良くも悪くも、深い意味でも、決して軽視すべきではないなと、私は個人的には強く感じられたシーズンとなりました。
最後に、脳震盪のリスクについて、私が記事でまとめたページをリンクしておきます。http://blog.goo.ne.jp/hananinarouyo/e/b21e63eb49ca022355fecc62a1be353b
さらに、2015-2016シーズンをもって、脳震盪のリスクから、引退を表明することとなった、ジョシュア・ファリス選手のインタビューとその思いを、
「たらのフィギュアスケート日記」のたらさんの翻訳で読めるページを、ご紹介しておきたいと思います。こちら→http://taranofsdiary.jugem.jp/?cid=48
羽生選手が今日も、フィギュアスケートを滑れる状態にあれますこと、そして、氷上の大事故であったにもかかわらず、無事に命が守られましたこと、
どちらも、決して「当たり前ではない」ことを改めて思いながら、心より感謝したいと思います。
羽生選手の心がこのシーズンの事故のトラウマから守られ、その未来に、大きな祝福と絶大な守りがありますように・・・!
常に、周囲の方々の良き理解と助けがありますように・・・!
フィギュアスケート界における、選手たちの安全が守られていきますように・・・!
羽生選手、無理しすぎず、清清しく、めげずに GO!GO! (笑)