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Emotion in Motion

本当に人生、何が起こるか分からないものです。
ふとしたことが転機となって、どう転ぶか、分からない。

その結果、自分の心に長年残ってきた、馴染みの音楽が、
それまでと全く違った意味を、帯びることもある。
良くも悪くも。

そう、自分はいずれにしても、
音楽によって慰められ、励まされながら、残りの人生を生きていく。
そのことを、改めて実感している次第です。

 

80年代洋楽が柱であるこのブログに、度々登場する、カーズ(The Cars)というバンド。
「洋楽ロックバンド合縁奇縁」で触れたように、自分にとって、ちょっと特別な存在だ。
高3の冬、寒い受験の時期に、深夜の MTV で「Tonight She Comes」の PV を見て、
「うわ、カッケー!」となり、カーズを明確に意識するようになった。
あの頃の空気感は、同曲の PV の原色のイメージと重なって、今も皮膚感覚に残っている。

そんなカーズは、リーダー兼ソングライターのリック(Ric Ocasek)が、楽曲作成など
ほとんど全てのインテリジェンスを担い、5人のメンバーを率いるバンドだった。
1984年のアルバム「Heartbeat City」で、キャリアの頂点を極める成功を収めた後、
カーズは一時休業状態に入り、リックは2作目のソロ「This Side of Paradise」を発表した。

1986年 「This Side of Paradise」



「This Side of Paradise」は、自分が初めて買った CD プレーヤーで 2枚目に聞いた CD ソフトであった点でも、思い出の残るアルバムだ(1枚目は、シングル「Tonight She Comes」と一緒に出たベスト盤「Greatest Hits」だった)。

今改めて聞くと、この「This Side of Paradise」というアルバム。
レコーディング(プロデュース)が非常に、緻密に丁寧に行われていると気付かされる。
具体的に言うと、Charlie Sexton の1985年の「Pictures for Pleasure」をここ最近ずっと聞いていたが、それと比べると、音の厚みや明瞭さが違うことがはっきり分かる。
ソニーの Bluetooth スピーカー SRS-XG500 から出てくる音が、まるで違うのだ。

「This Side of Paradise」の製作にあたってリックは、使用する機材のマニュアルを隅から隅まで熟読してからレコーディングに取りかかった、と当時の洋楽雑誌に書いてあった。
その徹底した完璧主義の成果が、表れているのだろうと思う。



母艦のカーズが「Heartbeat City」で大成功した後だったこともあり、
「This Side of Paradise」は、高い評価とともに受け入れられた。
リックの他のソロアルバムと比べても、商業的にも間違いなく成功した作品だった。

1曲目「Keep on Laughing」は、「Heartbeat City」を彷彿とさせるシンセのリフで幕が開く。
この、リック一流のトラップに、ニヤリとしたカーズファンは多かった筈だ。
2曲目「True to You」も、カーズ的なノリの売れ線チューンで、グイグイ攻めてくる。

一方で、リックが元来指向する「陰キャの魂の叫び」路線の曲も、しっかり収録されている。
9曲目「Hello Darkness」がその典型だが、ラストのタイトル曲「This Side of Paradise」の歌詞に至っては、「そこまで言いますかアナタ」と CD のライナーノーツの解説は呆れている(笑)

you're looking for another end
doing time
but you still can't turn away
you're looking for a real friend
any kind
that wants to play the games you play


人生に 背を向けて
人生の 刑期を務めながら
人生に 未練がある 君は
君の 人生ゲームに 
つきあってくれる 友人を
探している

そんな中、アルバム「This Side of Paradise」から出たシングルで、最も売れたのが、
Billboard チャート15位まで上昇した3曲目「Emotion in Motion」だった。
リックの作る曲にしては珍しく、歌詞も曲調もストレートなラブソングとなっている。
見て非常に分かりやすい PV も、プロモーション効果を発揮したと思う。

「君を離さないためなら、僕は何だってするよ」の "恋は盲目人" となったリックは、
禁断の果実を食べて息絶えた恋人を生き返らせる「魔法の薬」を探す旅に出る。
どこかの奥深い洞窟へ分け入り、モンスターと決闘し、ついにその小瓶を手に入れた。
生き返った恋人と永遠の愛を誓い合い、2人はいつまでも幸せに暮らした。

・・・・・・ という内容のストーリーを、リックが演じ切る PV となっている。
当時の洋楽雑誌 MUSIC LIFE のレビュー記事で、「リック君のぎこちない演技が ・・・・・」
と書かれていたのを覚えているが(笑)、リックの全編オカマチックな動きが微笑ましい。
「魔法の薬」を手に入れて、何はなくとも一目散に駆け寄って飲ませるのかと思ったら、
スキップみたいな足取りで曲の振り付けをしながら戻ってきたシーンが、一番笑える(笑)



しかし、ぎこちないがゆえに、どこか心を打たれるものを感じたのは、今でも覚えている。
それが「Emotion in Motion」の PV を最初に見た印象だった。

リックの盟友で、カーズ・サウンドのキーマンであるグレッグ(Greg Hawkes)が、
アルバムのレコーディングに参加し、「Emotion in Motion」でもいい仕事をしている。
グレッグの演奏するシンセのサポートと、間奏のソロが、曲を情感たっぷりに盛り上げる。
PV のハイライトは、モンスターの首が飛ぶ、洞窟での決闘シーン。
その印象が、グレッグの職人技によって、リスナーの耳に深く焼き付けられる。

あの華奢な細腕で、リックは愛する人を救うために、身命を投げ打って決闘に挑んだ。
男たるもの、長い人生で一度くらいは、そのような名誉に預かりたい、ものである。
誰に知られることはなくとも、自分自身の、心の中の誉として。



自分は出来る限りのことはやった。
命の瀬戸際で、助けを求めてきた。
救いの手を差し伸べた。
危険な情事を、聞かされた。
深く傷付いた。
あれは過ちだった、一緒にいきたい。
すべてを水に流し、受け入れた。

赤い字の紙が、判明すれば
肩代わりした。
連日連夜、戦争にいく覚悟で
仕事に向かい、身を削った。
このストーリーを、続けるために。

報われなかった。
モンスターとの決闘に、自分は敗れた。
出来る限りのことはやった。
その誉は、変わらない、自分の中で。



長い人生、本当に何があるか、分かりません。
今から彼此40年近く前、カーズファンになったのが縁となって、
リックのソロアルバム「This Side of Paradise」を、聞くところとなりました。

その中から出て、全米でヒットしたシングル「Emotion in Motion」は、
「ちょwww、そこはさっさと行って飲ましたらんとアカンやろwww」
と、PV を見た印象としては、笑える要素がありながらも、
切々とした感動的な曲調が、その後も長く、心の中に残ってきました。

そして今では、自分にとっての「誉」を呼び覚ましてくれる、
レクイエムとなっている、のであった。

Ric Ocasek - Emotion In Motion (Official Video)
https://www.youtube.com/watch?v=uVXy7AsjvL4
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