生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

メタエンジニアリングのすすめ(6)第5話 メタエンジニアリングの主機能

2013年09月17日 08時33分03秒 | メタエンジニアリングのすすめ
第5話 メタエンジニアリングの主機能

 日本工学アカデミーが2009年11月に出した提言によれば、
「社会課題と科学技術の上位概念から社会と技術の根本的な関係を根源的に捉え直す広義のエンジニアリング」を『根本的エンジニアリング(英語では、上位概念であることを強調して Meta Engineering と表現)』と名付ける、である。従ってその主機能は、「俯瞰的視点からの潜在的社会課題の発掘と科学技術の結合あるいは収束を根源的に捉え直す」との命題に答えるための広義のエンジニアリングの実践ということになる。

 この主機能に沿って様々な機能を列挙してみよう。「科学技術の上位概念」とは何であろうか。「俯瞰的視点」とは、「潜在的社会課題の発掘と科学技術の結合」とは、「科学技術の収束」とはなにかなどの中味を推測するところから始めてみる。

・「科学技術の上位概念」とは、

 科学技術という4文字熟語は、日本語独特の表現のように思う。科学と技術の連続性を強調するためだろうか。だとするならば、その目的は人の役に立つ技術の創造であろう。すると社会科学と人文科学は、科学技術の上位概念とも考えることができる。特に、ことエンジニア(ここでは、工学者と技術者の総称)にとっては、その成果が活かされる場であるとして、上位概念にあたる場合が多いように思う。また、その中にあって、特に社会学、生理学、比較文明論などは上位概念として捉えるべきであろう。更にその上位概念としては、哲学と形而上学が挙げられる。特に、哲学は今後エンジニアがイノベーションなど全世界の文明に影響を及ぼす可能性を秘めた新たなもの・ことを考える場合には、もっとも重要な上位概念にあたると考えられる。

(蛇足)
科学技術という熟語に関しては、その記述に関して様々な意見が見受けられる。科学と技術とか、科学・技術とかがその例となっている。私は、現代日本におけるイノベーションの停滞の一つの原因が、この熟語の定義の曖昧さにあると考える。つまり、科学の範疇に留まって、技術の実践に至っていないものまでも科学技術と表現をすることが多いようである。
福島原発の事故原因やその後の処理についても、科学、科学者といった言葉が頻繁に登場する。しかし、現実の問題を引き起こしたのも、これからの事後処理を行うのも技術の力が圧倒的な重要度を占めるはずである。科学なのか、技術なのか、実践の最後まで責任を持つ科学技術なのかを明確にする必要性を強く感じている。

・「俯瞰的視点」とは、
 
科学も技術も複雑化が進む中で、もの・ことを纏める為には必然的に俯瞰的な視点が必要になってきた。しかし、世の中の諸事情は単に俯瞰的では済まされなくなった。最大の理由は変化のスピードだと考える。俯瞰的な見方から出発しても、そこに留まる限りに置いて、これからの変化のスピードとグローバル競争には勝つことができない。俯瞰的の次のステップが重要になる。それが、融合・統合といった形になる。
俯瞰的視点については、科学技術振興機構の研究開発戦略センターが2010年に発行した「研究開発戦略の方法論」のなかで詳しく述べられている。具体的には、「領域俯瞰図」として一章を設けて説明されている。しかし、その章でも述べられているように、これは全てを包含する俯瞰図ではなく、JSTが目下研究対象としている学問分野であるやに見受けられる。メタエンジニアリングを語る場合には、前出の上位概念を含むさらに広範囲の俯瞰であるべきであろう。


・「潜在的社会課題の発掘と科学技術の結合」とは、

昨今の世の中の繁忙の中で、潜在的社会課題の発掘はさして難しいことではない。そのことは、専門分野の常識に拘らずに、俯瞰的な視点に立てば、おのずととめどもなく現れてくる。問題は、課題の選択方法と科学技術の結合にある。この場合の科学は自然科学だけではない。社会科学も人文科学も同じ土俵にあると考えるべきであろう。この意味は、次に示されるMECIサイクルの①と②のプロセスが全てを表している。

・「科学技術の収束」とは 
かつての社会は、新たな機能を付加されたこと・ものの技術の収束を限られた専門分野の中で判断をしてきたと思う。メタエンジニアリングにおける収束は、あくまでも俯瞰的な視点での収束であるべきと考える。
これも、MECIサイクル図の③のプロセスで示されている。つまり、次のステップである「社会価値の創出と実装」に連続して進まなければ、その価値は認められない。


・メタエンジニアリングの諸機能(順不同)

(1)個々の科学技術分野の追究及び融合、あるいは社会価値の創出
(2)地球社会において解決すべき課題の発見
(3)より的確な次の社会価値創出へとつながるプロセスを、動的かつスパイラルに推進してゆく
(4)科学技術分野を超えた上位概念の追究及び融合、その結果としてのより正しい社会価値の創出
(5)社会と技術の根本的な関係の現状を根源的に捉え直す
(6)様々な公害の発生や地球環境の劣化、更には文明の衰退を防止する

 それでは、これらの機能を充分に果たすために必要不可欠な準備とはどのようなものであろうか。順不同で列挙する。

(1)エンジニア自身のより高度な責任感の認識
(2)エンジニア自身の認識過程における、社会学、生理学、比較文明論などの上位概念の導入
(3)思考過程の最終段階における、哲学(将来にわたって普遍的に正しいと云えるのかどうか)に基づく推敲
(4)異文化への理解と自らの文化に対する より合理的な判断

以上の議論は、やや抽象的であるというご批判は甘んじて受けなければならない。抽象的な事柄をはっきりと認識したうえで戦略を練り、具体的な戦術を展開してゆかなければならない。
その場考学半老人 妄言