第6話 メタエンジニアリングによる文化の文明化のプロセスの確立(その7)
文明の衝突
「文明の衝突」という言葉はあまりにも有名で、著書の紹介では省いたのだが、改めて二人の著書を紹介したい。人類発生以来の文明にまで思考を広げると、状況は正反対の結果を導く可能性もある。同じ「文明の衝突」という言葉を使った、欧米流と日本流の思考の展開を比較した。
1.サミュエル・ハンチントン著「文明の衝突」集英社1998.6(KMB1008)
20世紀から21世紀に向かって、巨大イデオロギーの対立から次の文明のあり方について解説をした伝説的な名著。初出は、1993.7の「フォーリン・アフェアーズ」誌だったが、反響が大きく、1996.11に「The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order」の題名で出版された。「文明の衝突」とは、衝撃的で名訳なのだが、ClashとかRemakingとは、ニュアンスが異なり、特に原題の「Remaking」の意図が伝わってこない。
ここでは、日本文明に関する事柄に注目するが、日本自身にもかなり問題があることが分かってくる。
・日本語への序文
第一に、この五年の多くの事態の推移から裏付けられることは、世界政治における文化・文明的なアプローチが妥当かつ有用だということである。(中略)第二の重要な進展は、異なった文明に属するグループのあいだの衝突を阻止し、封じ込める必要性に対する認識が高まっていることである。
日本が明らかに前世紀に近代化を遂げた一方で、日本の文明と文化は西欧のそれとは異なったままである。日本は近代化されたが、西欧にはならなかった。(中略)日本がユニークなのは、日本国と日本文明が合致しているからである。そのことによって日本は孤立しており、世界のいかなる他国とも文化的に密接につながりをもたない。(中略)日本は、現在アメリカとイギリス、フランスとドイツ、ロシアとギリシャ、中国とシンガポールの間に存在するような、緊密な文化的パートナーシップを結べないのである。そのために、日本は他国との関係は文化的な紐帯ではなく、安全保障および経済的な利害によって形成されることになる。(1998.5)
・西欧の力:支配と衰退
第一に、進行がゆっくりしていること。(地位を築くまでに400年、衰退にはおなじ時間)
第二に、衰退は直線的に起こるものではない。(その過程は極めて不規則、止まったり逆行)
第三に、力とは、個人あるいは集団が他の個人あるいは集団の行動を変えさせる能力のことである。(行動は、誘導、威圧、説得のいずれかによって帰ることができるが、その為には力を行使する国が、経済、軍事、制度、人口動態、政治、科学技術、社会などの面で必要な力をそなえていなければならない)
・西欧の再生はなすか?
第一に、西欧文明はそれだけで一類をなす新種で、これまでに存在した他の全ての文明と比較のしようがないほど異なっているだろうか?
第二に、それが世界的に拡大することは、他の全ての文明が発展する可能性をなくすおそれ(あるいは望み)があるのだろうか?
多くの西欧人の気持ちとしては、当然、イエスと答えたいところである。そして、おそらくそれも正しいかもしれない。だが、過去に他の文明の人たちが同じような考えをいだき、その答えは誤っていた。
経済や人口統計よりもずっと重要な意味をもつものは、西欧における道徳心の低下、文化的な自殺行為、政治的な不統一である。
・来るべき時代の文明間の戦争を避けるには、第一に・・(中略)そして第三に普遍主義を放棄して文明の多様性を受け入れ、そのうえであらゆる文化に見出される人間の「普遍的な性質」、つまり共通性を追求してゆくことが必要。(中略)世界中の人々が同時に同じ映像を見ても、それぞれの文明の価値観によって異なる解釈をする。
2.崎谷 満、「DNAでたどる日本人10万年の旅」昭和堂(2008.1) KMB401
ミトコンドリアDNAとY染色体の亜型の詳細解析とビックデータのおかげで、人類がアフリカで進化するたびに全世界に拡散していった歴史が、急速に明らかになり始めた。アダムと、第2のアダムというモデルの存在などは、すでに広く認知されたと言っても過言ではなさそうに思う。この著者は、その先鞭を開いた京都大学の研究室で博士課程を修了した方で、まさにその正当派といえよう。
文化と文明の観点からのこの著書は、日本文化と日本文明を考える上での基本的な大著とも云えるのではないだろうか。それは、P82に表された「表2-2」に集約されている。
ここ著書に示される人類10万年の歴史から見ると、文明の衝突が日本国内でも既に始まっていることが分かってくる。
・日本列島では維持できた高いDNA多様性
日本列島へは、後期旧石器時代にC3系統、O系統のヒトの集団(移動性狩猟文化)が、新石器時代にはD2系統(縄文文化)、C1系統(貝文文化)およびN系統のヒト集団が、金属器以降にはO2b系統・O2a系統のヒト集団(長江文明)、またその他、O3系統(O3e系統は黄河文明と関連)、O1系統(オーストロシア系)などの集団が渡ってきて、現在までもその集団を維持している。このように日本列島は非常にDNA多型性が高い地域である。それもかなり遠隔なヒト集団が現在も共存している世界的に珍しい地域である。
(世界の他の地域では、民族移動の度に虐殺や追放・逃走が起こり、先住民族がその地に留まることは少なかった。日本に全ての先住民族が集団として残った理由は後に述べられている。)
日本列島には東アジアの古い歴史に関わる貴重な人びとが今でもそのDNAを保存することができたこと、時代ごとに東アジアの変動を表すヒト集団の避難場所として古いものから新しいものまで重層したヒト集団の複雑な構造を示していることなどの点で、日本列島は貴重な地域であるものと考えることができる。
・日本列島におけるDNA多様性維持の諸条件
第一に、この日本列島は気候が温暖で降雨量が多く、暖温帯林および冷温帯林の豊かな植物相を提供している。
第二に、日本列島周囲には暖流や寒流などによるプランクトンの豊かな海があり、新石器時代に導入されて漁労技術により、・・・
第三に、このような豊かな環境要因が、低い人口密度であれば、大きな争いがなくても人びとが安定的に生存を可能にした・・・
第四に、金属器時代(弥生時代)以降になり、ユーラシア東部の混乱により難民化した人びとが日本列島に渡ってきたが、最近の研究では少数の人々が数次にわたり少しずつ移動したことが推定されている。
・日本列島における多様性維持の意義、支配の原理から共生の原理へ
この100年ほどの短い間にこの日本列島では言語的文化的多様性が急激に失われてきた。その同化の圧力は、国内では東京文化圏に基礎をもつ中央集権的国家による支配、また国際的には世界的ヘゲモニーを持つ欧米の文明圏による支配、という2重構造になっている。このような特定の文化圏による世界的な支配の原理、およびそれに内包される同化の原理は、世界各地でさまざまな文明圏・文化圏のあつれきを生じさせている。このような原理が勢いを増している21世紀は「文明の衝突」の世紀として特徴づけられる。(「 」は追加した)
3.崎谷 満「DNAが解き明かす日本人の系譜」勉誠出版(2005.8) KMB405
前出の3年前に発行された著書。Y染色体の亜型分類表とミトコンドリアDNAの亜型分類表により、人類発生以来のヒト集団の移動の歴史が全世界に亘ってほぼ全て系統的に説明がされている。
・A系統、B系統
人類発祥の地アフリカには、Y染色体亜型の中では最も古い系統であるA系統とB系統がいずれもみられる。そしてA系統とB系統は他の地域では見られないため、アフリカに留まった集団だと考えられる。これに対してアフリカを出て全世界に広がっていったグループ(出アフリカグループ)は、C系統、DE系統、FR系統の3大系統に分類できる。
・ミトコンドリアDNAの亜型の最近共通祖先年代の推定値の表
(表の一部を紹介すると)
A亜型 32,300年前 標準偏差は7,600年
C亜型 28,300年前 標準偏差は5,500年
L2亜型 91,100年前 標準偏差は11,800年
(今後のデータで標準偏差が縮小されると、人類の世界への広がり方の推定と、旧約聖書の話や歴史的な事実との合致などが明らかになってゆくと思う。それにより、最も古い人類の文化がどのように世界各地に残されているかと云った、文化に対する世界観が変わってくると考えられる。例えば、日本の神社の建築様式が中国奥地の民家と似ていることは知られているが、同じ亜型の民族であることが期待できる。日本各地の神社や伝説や祭りなどが、アフリカから日本列島に至るまでの道筋に見つかり、それがDNAで関連付けられれば、新たな国際関係と文化の結合が期待される。)
文明の衝突
「文明の衝突」という言葉はあまりにも有名で、著書の紹介では省いたのだが、改めて二人の著書を紹介したい。人類発生以来の文明にまで思考を広げると、状況は正反対の結果を導く可能性もある。同じ「文明の衝突」という言葉を使った、欧米流と日本流の思考の展開を比較した。
1.サミュエル・ハンチントン著「文明の衝突」集英社1998.6(KMB1008)
20世紀から21世紀に向かって、巨大イデオロギーの対立から次の文明のあり方について解説をした伝説的な名著。初出は、1993.7の「フォーリン・アフェアーズ」誌だったが、反響が大きく、1996.11に「The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order」の題名で出版された。「文明の衝突」とは、衝撃的で名訳なのだが、ClashとかRemakingとは、ニュアンスが異なり、特に原題の「Remaking」の意図が伝わってこない。
ここでは、日本文明に関する事柄に注目するが、日本自身にもかなり問題があることが分かってくる。
・日本語への序文
第一に、この五年の多くの事態の推移から裏付けられることは、世界政治における文化・文明的なアプローチが妥当かつ有用だということである。(中略)第二の重要な進展は、異なった文明に属するグループのあいだの衝突を阻止し、封じ込める必要性に対する認識が高まっていることである。
日本が明らかに前世紀に近代化を遂げた一方で、日本の文明と文化は西欧のそれとは異なったままである。日本は近代化されたが、西欧にはならなかった。(中略)日本がユニークなのは、日本国と日本文明が合致しているからである。そのことによって日本は孤立しており、世界のいかなる他国とも文化的に密接につながりをもたない。(中略)日本は、現在アメリカとイギリス、フランスとドイツ、ロシアとギリシャ、中国とシンガポールの間に存在するような、緊密な文化的パートナーシップを結べないのである。そのために、日本は他国との関係は文化的な紐帯ではなく、安全保障および経済的な利害によって形成されることになる。(1998.5)
・西欧の力:支配と衰退
第一に、進行がゆっくりしていること。(地位を築くまでに400年、衰退にはおなじ時間)
第二に、衰退は直線的に起こるものではない。(その過程は極めて不規則、止まったり逆行)
第三に、力とは、個人あるいは集団が他の個人あるいは集団の行動を変えさせる能力のことである。(行動は、誘導、威圧、説得のいずれかによって帰ることができるが、その為には力を行使する国が、経済、軍事、制度、人口動態、政治、科学技術、社会などの面で必要な力をそなえていなければならない)
・西欧の再生はなすか?
第一に、西欧文明はそれだけで一類をなす新種で、これまでに存在した他の全ての文明と比較のしようがないほど異なっているだろうか?
第二に、それが世界的に拡大することは、他の全ての文明が発展する可能性をなくすおそれ(あるいは望み)があるのだろうか?
多くの西欧人の気持ちとしては、当然、イエスと答えたいところである。そして、おそらくそれも正しいかもしれない。だが、過去に他の文明の人たちが同じような考えをいだき、その答えは誤っていた。
経済や人口統計よりもずっと重要な意味をもつものは、西欧における道徳心の低下、文化的な自殺行為、政治的な不統一である。
・来るべき時代の文明間の戦争を避けるには、第一に・・(中略)そして第三に普遍主義を放棄して文明の多様性を受け入れ、そのうえであらゆる文化に見出される人間の「普遍的な性質」、つまり共通性を追求してゆくことが必要。(中略)世界中の人々が同時に同じ映像を見ても、それぞれの文明の価値観によって異なる解釈をする。
2.崎谷 満、「DNAでたどる日本人10万年の旅」昭和堂(2008.1) KMB401
ミトコンドリアDNAとY染色体の亜型の詳細解析とビックデータのおかげで、人類がアフリカで進化するたびに全世界に拡散していった歴史が、急速に明らかになり始めた。アダムと、第2のアダムというモデルの存在などは、すでに広く認知されたと言っても過言ではなさそうに思う。この著者は、その先鞭を開いた京都大学の研究室で博士課程を修了した方で、まさにその正当派といえよう。
文化と文明の観点からのこの著書は、日本文化と日本文明を考える上での基本的な大著とも云えるのではないだろうか。それは、P82に表された「表2-2」に集約されている。
ここ著書に示される人類10万年の歴史から見ると、文明の衝突が日本国内でも既に始まっていることが分かってくる。
・日本列島では維持できた高いDNA多様性
日本列島へは、後期旧石器時代にC3系統、O系統のヒトの集団(移動性狩猟文化)が、新石器時代にはD2系統(縄文文化)、C1系統(貝文文化)およびN系統のヒト集団が、金属器以降にはO2b系統・O2a系統のヒト集団(長江文明)、またその他、O3系統(O3e系統は黄河文明と関連)、O1系統(オーストロシア系)などの集団が渡ってきて、現在までもその集団を維持している。このように日本列島は非常にDNA多型性が高い地域である。それもかなり遠隔なヒト集団が現在も共存している世界的に珍しい地域である。
(世界の他の地域では、民族移動の度に虐殺や追放・逃走が起こり、先住民族がその地に留まることは少なかった。日本に全ての先住民族が集団として残った理由は後に述べられている。)
日本列島には東アジアの古い歴史に関わる貴重な人びとが今でもそのDNAを保存することができたこと、時代ごとに東アジアの変動を表すヒト集団の避難場所として古いものから新しいものまで重層したヒト集団の複雑な構造を示していることなどの点で、日本列島は貴重な地域であるものと考えることができる。
・日本列島におけるDNA多様性維持の諸条件
第一に、この日本列島は気候が温暖で降雨量が多く、暖温帯林および冷温帯林の豊かな植物相を提供している。
第二に、日本列島周囲には暖流や寒流などによるプランクトンの豊かな海があり、新石器時代に導入されて漁労技術により、・・・
第三に、このような豊かな環境要因が、低い人口密度であれば、大きな争いがなくても人びとが安定的に生存を可能にした・・・
第四に、金属器時代(弥生時代)以降になり、ユーラシア東部の混乱により難民化した人びとが日本列島に渡ってきたが、最近の研究では少数の人々が数次にわたり少しずつ移動したことが推定されている。
・日本列島における多様性維持の意義、支配の原理から共生の原理へ
この100年ほどの短い間にこの日本列島では言語的文化的多様性が急激に失われてきた。その同化の圧力は、国内では東京文化圏に基礎をもつ中央集権的国家による支配、また国際的には世界的ヘゲモニーを持つ欧米の文明圏による支配、という2重構造になっている。このような特定の文化圏による世界的な支配の原理、およびそれに内包される同化の原理は、世界各地でさまざまな文明圏・文化圏のあつれきを生じさせている。このような原理が勢いを増している21世紀は「文明の衝突」の世紀として特徴づけられる。(「 」は追加した)
3.崎谷 満「DNAが解き明かす日本人の系譜」勉誠出版(2005.8) KMB405
前出の3年前に発行された著書。Y染色体の亜型分類表とミトコンドリアDNAの亜型分類表により、人類発生以来のヒト集団の移動の歴史が全世界に亘ってほぼ全て系統的に説明がされている。
・A系統、B系統
人類発祥の地アフリカには、Y染色体亜型の中では最も古い系統であるA系統とB系統がいずれもみられる。そしてA系統とB系統は他の地域では見られないため、アフリカに留まった集団だと考えられる。これに対してアフリカを出て全世界に広がっていったグループ(出アフリカグループ)は、C系統、DE系統、FR系統の3大系統に分類できる。
・ミトコンドリアDNAの亜型の最近共通祖先年代の推定値の表
(表の一部を紹介すると)
A亜型 32,300年前 標準偏差は7,600年
C亜型 28,300年前 標準偏差は5,500年
L2亜型 91,100年前 標準偏差は11,800年
(今後のデータで標準偏差が縮小されると、人類の世界への広がり方の推定と、旧約聖書の話や歴史的な事実との合致などが明らかになってゆくと思う。それにより、最も古い人類の文化がどのように世界各地に残されているかと云った、文化に対する世界観が変わってくると考えられる。例えば、日本の神社の建築様式が中国奥地の民家と似ていることは知られているが、同じ亜型の民族であることが期待できる。日本各地の神社や伝説や祭りなどが、アフリカから日本列島に至るまでの道筋に見つかり、それがDNAで関連付けられれば、新たな国際関係と文化の結合が期待される。)
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