生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

メタエンジニアリングのちから(第1回)

2020年07月13日 15時40分12秒 | メタエンジニアリングのすすめ
はじめに

 エンジニアリングには強い力がある。20世紀最大の哲学者といわれるマルチン・ハイデガーは、原爆製造の事実を目の当たりにして、俄かに技術論の講演を各地で始めた。その内容と趣旨は、次のようなものだった。人間は、地球上にあるもののすべてを掘り出し、かき集め、自分たちに役立つモノを作ろうとする。その行動は、何者にも止めることはできない強力な力によるもので、これからの人類を支配してゆく。

 この「何者にも止めることはできない強力な力」というのは、全生物の中で,ヒト科だけが持っている能力で、「よりよく生きようとする」本能なのだから、いかんともしがたい。ハイデガーは哲学者として、そのことを言いたかったのだと思う。
 その証拠に、現代はイノベーション時代といえるほど、イノベーションがもてはやされている。その一つ一つが、人類の文明をどのように変えてゆくのか、分からないままに、とにかく進み続けてゆく。そのエンジニアリングに、接頭語の「メタ」が付くと、どうなるのだろうか。それが本書の狙いとなっている。「メタ」は、一般的には、一つ上の次元を示している。エンジニアリングの一つ上の次元は何であろうか。
 
 「メタ」に関する具体例を二つ挙げて、理解を深めていただこうと思う。一つは古代ギリシャ、もう一つは現代の企業の話になる。
 古代ギリシャのアリストテレスは、万学の祖と云われている。彼は、ありとあらゆる自然を詳しく研究した。彼の全集には、動物、植物、人間、自然現象、社会現象など、ありとあらゆるものが取り上げられている。それは「自然学」、英語ではPhysicsと命名されている。彼の死後、それらのおおもとを追求しようとした部分が改めて纏められた。当時の命名は「自然学の後から来るものども」というのだが、英語ではMetaphysicsと呼ばれている。日本語では形而上学なのだが、この日本語は、分かりにくい。
 
 現代の企業の話では、このような著書が発行されている。菊澤研宗著「ダイナミック・ケイパビリティの経営学―成功する日本企業には共通の本質がある」朝日新聞出版[2019] 
 内容は、企業が一皮むけるためには、「ダイナミック・ケイパビリティ」が必要で、通常業務の「オーディナリー・ケイパビリティ」とは、一つ上の次元で考えて行動しなければならない、というものだが、そこから引用する。
 『人間の言語機能には、「叙述する機能」と「論証する機能」があるという。叙述機能とは現実世界を説明したり、記述したり、まさに実在を叙述する言語の役割のことである。これに対して、論証機能とは、現実世界に関する記述や叙述や説明が正しいのかどうかを論証する言語の役割のことである。これら2つの言語機能には階層があり、明らかにより低次の機能は叙述機能であり、より高次の機能が論証機能となる。そして、現実を叙述する言語を「対象言語」と呼び、現実の実在世界と対象言語との関係(真偽)について論証するより高次の言語を「メタ言語」と呼ぶ。その関係は、対象言語(叙述機能)がメタ言語(論証機能)によって柔軟な形で制御されるという関係にある。』(pp.232)
 ここで、「現実を叙述する機能」を通常のエンジニアリングと考えると、「論証する機能」は、まさにメタエンジニアリングにそうとうすることになる。つまり、この「現実世界に関する記述や叙述や説明が正しいのかどうかを論証する言語の役割のこと」が、まさに、エンジニアリングとメタエンジニアリングの関係を表していると思う。マルチン・ハイデガーが云うところの暴走するエンジニアリングに対して、一つ上の次元で正しいかどうかの論証を加えることが、メタエンジニアリングの第一義と思われるのです。

 このシリーズ「メタエンジニアリングのちから」の構成は、つぎのように考えている。
 第1章では、人類の文明史の中では、常にエンジニアリングが次の文明への導きをしたことを中心に、人類社会における歴史的なエンジニアリングの力を説明する。
 第2章では、その結果が現在なのだが、現代の多くの解決困難な問題は、過去のエンジニアリングが創りだしたことを述べる。
 第3章では、それらを解決してゆくのが、メタエンジニアリングのちからでることを説明する。
 第4章では、それらの力が何故メタエンジニアリングに備わっているのか、その中身を解明してゆく。
 第5章では、色々な場でのメタエンジニアリングの実践について述べる。
 最後に、この著作を始めるにあたっては、8年間に及ぶ日本経済大学大学院メタエンジニアリング研究所と、その後に開設されたメタエンジニアリング研究所における研究成果を多く取り入れた。研究所の仲間諸君に謝意を表します。
                                      その場考学研究所 勝又一郎


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