日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (11)

2024年10月30日 05時37分12秒 | Weblog

 珠子は、腹這いになり興味深々と雑誌を読んでいた大助に忍び足で近寄ると
 「大ちゃん、何の本を読んでいるの?」
と優しく聞くと、大助は慌てて雑誌を腹の下に隠して顔を上げもせず
 「姉ちゃん、勉強の邪魔をしないでくれよ」
と不機嫌に返事をするばかりで、珠子の求めも無視して、腹の下に隠した雑誌を出そうとせず必死に隠し、何度尋ねてもなしのつぶてで嫌がるので、彼女は益々不審感を抱き業を煮やして実力行使で、大助の背中にスカート姿のまま馬乗りになり何とか雑誌を取りだそうとしたが、大助の頑強な抵抗で取りだせず、二人は遂に取組合になり、一度は大助の背中の反動で足を広げたまま仰向けにかえされたが、再度、本気になって襲いかかり、やっとの思いで雑誌を取り上げて見れば、若い女性の水着姿のグラビア集で
 「大助!何が勉強だね。こんな下らない雑誌ばかり見ているから、何時も成績が上がらず、母さんを悲しまさせているんだ」
 「もう~、あんたには、ほとほと呆れてしまったわ」
と言って雑誌を破りそうになったので、大助は慌てて
 「姉ちゃん、それ友達から借りた本で破らないでくれよ」
と、ふて腐れながら抗議すると、彼女も
 「あんたの友達は不良ばかりだはネ」
と叱りながら、雑誌を丸めて大助の頭をポンと二・三度叩き
 「今度、また、こんな雑誌を借りてきたら姉ちゃんは、もう今後、あんたの言うことを聞いてやらないからネ」
と言いながら返してやった。

 タマコは、大ちゃんが叱られている様子を見てビックリしていたが、一度は取組合の最中に、珠子姉ちゃんが大助の頭を拳骨で叩こうとしたとき、大ちゃんが頭をすくめたので空振りになり、その手がタマコが抱いている猫のタマの顔に当たり、驚いた猫のタマがギャァ~と鳴いて逃げ出し、また、仰向けにされた珠子のスカートの中から覗いた白いパンテイを見て
 「珠子姉ちゃんも、わたしと同じ白のパンテイーなのネ」「同じでよかったヮ」
と、見ていた光景を素直に言い出したので、珠子も一瞬恥ずかしくなり顔を赤くして服装をなおした。

 理恵子は、二階からその戯れを見ていて、幾ら兄弟でも自分には経験のない光景であり、心配になり庭に下りて行くと、珠子が大助に厳しい口調で
 「わたしの言うことを聞いてくれなければ、夏休みに理恵子さんの田舎に連れて行かないわよ。それでもいいの?」
と言うと、大助は、毎年夏休みに家族揃って、理恵子さんの田舎に行き、川遊びや魚採りを楽しみにしているので、これは大変だと考えて仕方なく
 「大体、用事ってなんだい?」
と渋々と姉に聞くと、珠子は
 「あのネェ~、理恵子さんが靴を修理したいんだけど、わたしや、理恵子さんがミツワ靴店に持って行っても、あそこの頑固お爺さんは断るでしょう」
 「そこで、大ちゃんからタマコちゃんに頼んで欲しいのよ、理恵子さんのためにお願いだわ」
と用件を説明すると、大助は、こと理恵子さんのことなら夏休みのこともあるし、何とかしなければと機嫌を直し、驚いて芝生にしゃがんだままのタマコに笑いながら話掛けた。

 大助は、タマコに向かい
  「お前、俺の何処がいいんだ」「手紙は、まだ、つかないぜ、本当に書いたのか?」
と聞くと、彼女は
  「ワカ~ン ナ~イ。。。」「だけど、スキナンヤネェ~」
と、顔を少し紅潮させて俯き加減に、照れ隠しに関西便交じりで答え
  「この言い方、TV見ていて覚えたの。面白いでしょう」
と言うので、大助は
  「お前、大阪弁つかうんだナァ~」「そう~、言われると、やっぱりお前は可愛いゎ」
と答えると、彼女も嬉しそうにニッコリと笑みをこぼしたので、すかさず大助が靴の修理のことを話すと、彼女は
  「お爺さんに、大ちゃんに頼まれたと言ってもいいの」「叱られても、ワタシ知らないわヨ」
と言いながら頼みを引き受けてくれた。
 珠子が早速紙袋に入れた靴を持って来ると、タマコは大助の顔を眩しそうに見ながら機嫌よく受け取ってくれた。
 大助にしてみれば、やっと商談が成立した安心感から彼女に愛想笑いをなげかけて髪を何度も優しく撫でてやった。

 理恵子と珠子は、目的が適いホットして、二人で「タマコちゃん有難う」と言うと、大助は
  「今日は、とんだ厄日だ!」
  「タマが三匹揃うと、碌な事はないャ」「城家の惨酷物語第一章か!」
と呟くと、珠子とタマコちゃんが口を揃えて
  「私達、猫とはちがうヮ」
と、またもや、文句を言ったので、大助は再び芝生に横たわり
  「もう~疲れた」「早くどいてくれ」
と姉に言いつつ、タマコちゃんがくれたビスケットを二人で仲良く食べながら、手紙のことを話しあっていた。

 理恵子は、部屋に戻ると珠子に対し
  「貴女達、兄弟が羨ましいわ」「わたしにわ、望んでも適わぬことだけど・・」
と、溜め息混じりに言うと、珠子は理恵子の立場を思いやり
  「いい様な、煩わしい様な気がするときもあるわ」
  「大助が、近頃、色気ずいてきて、そのうえ勉強をおろそかにして遊びに夢中なり、一寸、心配の方が沢山あるわ・・」
と珠子なりに弟のことを心配していた。

 珠子は、話しついでと考えて
  「理恵子さん、織田君とゆう学生さんは、恋人なんでしょう?」
  「貴女が来てから一度も顔を見せないわネ。母さんも不思議がっていたわ」
と、以前から気になっていることを聞くと、理恵子は
  「時々、メールがあるけれども、彼はアルバイトが忙しくて、逢う時間がないのョ」
と返事をしていた。 珠子には、その姿が必死に寂しさを堪えている様に思えてならなかった。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 河のほとりで (10) | トップ | 河のほとりで (12) »

Weblog」カテゴリの最新記事