日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (18)

2024年11月21日 04時06分01秒 | Weblog

 地方より一月早い都会のお盆も近ずいて来た、残暑の夕食後。
 近所の鎮守様の祭礼に夕涼みかたがた、孝子小母さんに誘われて理恵子と珠子が連れ立って、孝子が仕立てた揃いの水玉模様の浴衣姿で桐下駄を履いて団扇を手にお詣りに出かけたが、大助は気がむかないのか浴衣を着るのを嫌がり半袖のYシャツに運動ズボンの普段着のまま三人の後ろにノコノコと足取りも重そうに付いて行った。
 大助は、後ろから見た姉達の浴衣姿も満更でないと、その漂う艶気に心を奪われ、彼女達の浴衣の下からチラチラと覗く下駄履きのかかとの清潔感に、時々、目を移しながら歩んで行くと、参道脇に露天を出していた八百屋の昭ちゃんと肉屋の健ちゃんが口を揃えて
 「大助ッ! お宮詣りか?」
 「普段、遊んでいるばかりいるので、来年の高校入試は、幾ら カミサマ でもシャジを投げてしまうんでないか」
と冷やかしの声をかけたので、彼は
 「ナニ言ってんだい!普段、仕事をサボッテいるツケで、今日位は売り上げを伸ばせよ」
と口答えして、前を行く二人の姉達を指さして
 「今晩は、キレイに見えるだろう」
 「姉ちゃんを嫁さんに欲しかったら カミサマ に頼んだあと、僕に言えよ」
と言ったところ、声が大き過ぎて前を行く珠子の耳に入り、彼女が振り向いて団扇で彼の頭を軽く叩いて
 「大ちゃん、余計なお世辞は言わないことョ」
と言って、健ちゃん達に微笑みながら会釈をした。
 鉢巻姿の昭ちゃん達二人は、呆然として、めったに見れない理恵子と珠子の浴衣姿に見とれていた。

 運が悪いとゆうか、偶然にも大助のうしろから、お爺さんに連れられて歩いて来たタマコがその様子を見ていて、浴衣の前を手で押さえ赤い鼻緒の下駄の音を響かせて大助に駆け寄って来るなり
  「大ちゃん! また、珠子姉さんに叱られたの?」 「マッタク ショウガナイ お兄ちゃんネ 」 
  「カミサマ の前で、ナニカ悪いことをしたの?」
と、睨みながら一人前に文句を言っていると、その傍で、町内で笑わないことで名の知れた靴屋のお爺さんが、ニヤッと笑い
  「大助君。キミ、タマコに英語で手紙を書いて出すなんて素晴らしいな。真面目に勉強しているんだなぁ。と、ワシも感心したわ」 
  「あの手紙は、タマコのこれからの人生にとって貴重な記念品になるので、婆さんも喜んで神棚に上げて、毎朝、拝んでいるわ」
  「お前にタマコを預けておけばワシも婆さんも安心だわ」
と、堅物で有名なお爺さんに思いがけないことを言われ、以前、仕方なくタマちゃんに催促されて書いた出鱈目な手紙がとんでもない波紋を広げていることに、切角のお詣りもとんだ ハプニング になってしまい、先程の元気も一瞬にして無くなってしまった。
 これを聞いた、健ちゃん達は手を叩き「ヨシッ! 大助よく、ヤッタッ!」と大声で歓声をあげていたが、珠子達はその声に誘われて振り向いて笑っていた。  
 理恵子は神前で、織田君との交際が誰にも邪魔されずに、また、彼の心が変わることなく、交際が今まで通り平穏に続きます様にと、ひたすら祈り、若し、織田君に体を許す様なことがあっても悔いはないと、自分の決意が永遠に偽りのない真実の愛であることを改めて誓った。 
 帰り道。 雲間に見え隠れする月を仰ぎ見て、亡き実母の秋子と養母の節子に、" 月よりの使者"となって自分の願いが適いますようにと心の中で祈った。


理恵子は、帰宅後、入浴して城家の家族達と談笑にふけっていたところ、電話のベルが鳴り珠子が出たが、慌てて
 「理恵ちゃん、織田君からョ、早く出てッ。早速神様のご利益だゎ」
と呼ぶので、今日当たり珍しいこともあるもんだと思いつつも、或いは急病かしらと一寸不安が心をよぎったが、不安と嬉しさが交差する気持ちで電話に出ると、彼は
  「どうしている。変わりはないか?」「 今日は、突然、選挙運動に狩り出されて、いや~暑かったわ」
  「昨晩、郷里の山上先生から久し振りに電話があり嬉しかったょ」「お前のことも心配していたぞ」
と、元気そうな太い声で話しかけてくるので、彼女は予想もしないときに電話してきたことに驚きと嬉しさが胸に湧いてきて、少し間をおいて心を沈め
  「今頃、電話してきて、ビックリ したヮ。君ときたらモウゥ~、自分勝手なのだから~」 「わたしが、何時も貴方のことを考えていることを、少しは判ってくれているの?」
と答えると、彼は、急に冷静な声に変わり、静かに
  「そんなことを言うなよ」 「僕だって、大学で授業中や、アルバイト先でも、結講、君のことを心配しているんだぜ」 
  「そんなことだから、君のお父さんから、君の様子を探るように電話をかけてくるんだよ」 
  「もう少し、大人になれよッ!」 「相変わらずだなッ」
と、呆れた様に返事を返すので、彼女も奈津子の忠告を想い出し、彼女特有の甘えた声で  
  「ネェ~ 逢いたいヮ」 「何時、逢ってくれるの?」 
  「この間、奈津子さんや江梨子さん達と逢ったが、彼女達はすっかり都会の色に染まり、自分の目的に向かい生活していることが、とっても羨ましかったヮ」 
   「なんだか、わたし一人ぼっち取り残されているようで、泣いてしまったヮ」 
   「こんな寂しい気持ちになるのは、貴方のせいョ。わたしの気持ち判ってくれる?」
と、愚痴を込めて、精一杯勇気を出して返事をすると、彼は
  「僕のせいにばかりするなョ」 「君も、もっと自分のために、どうすることがベターか考えてみろョ」
と答え
  「近いうちに、時間を都合してドライブに連れて行くから、また、その時、電話するよ」
と言って、一方的に電話を切ってしまった。  
 理恵子は、少しでも彼に心のうちを話しただけでも、気持ちが落ち着き、居間に戻ると機嫌よく、皆に、会話の内容を話した。 
 孝子小母さんと珠子さん、それに大助までもが口を揃えて「これが、神様のゴリヤク ネ」と言って喜んでくれた。冷やかされた理恵子は照れ隠しに「彼ったら本当に自分勝手なんで・・」と答えながらも、それまで心を掠めていたモヤモヤに光がさしたように嬉かった。 
 
 

  

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