私が「フィルム撮り」のTVドラマにこだわるのは、例え小さな画面で観る短編~中編サイズの作品であろうが、1本の「映画」として楽しみたいっていう、根強い願望があるからなんですね。
かつてTVドラマが「テレビ映画」と呼ばれてたのは、映画畑の創り手達がフィールドをテレビの世界に移しても、あくまで映画を撮るつもりで取り組んでたから……だろうと私は思ってます。
だからフィルムで撮られる刑事物や時代劇は、大抵において1話完結の構成でした。1本1本のエピソードが独立した映画だったワケです。
現在は全ての連続ドラマがVTRで製作され、1クール分=12本前後が1つのストーリーになるよう構成されてます。テレビ映画が良くも悪くも進化を遂げて、映画とは全く形式の異なるメディアに変貌したワケです。
それを否定するつもりは全く無いんだけど、多感な少年期を「テレビ映画」漬けで育った私としては、やっぱり寂しさを感じずにはいられません。
まぁ私の願望はともかく、まだフィルム撮りのドラマが主流だった頃、人一倍テレビで「映画」を創る事にこだわった映画スター兼映画監督がおられました。
あまりにこだわり過ぎて常識の枠から外れてしまい、その番組は1クールで打ち切りの憂き目に遭ったものの、ようやく最近になって再評価の声が高まり、今や「伝説の刑事ドラマ」として語り継がれる存在となりました。語るのはごく一部のマニアだけかも知れませんがw
それが1980年の10月から12月、日本テレビ系列で『大都会』シリーズや『探偵物語』など数多くの傑作を生んだ火曜夜9時伝統のアクション・ドラマ枠にて放映された『警視ーK』全13話です。
勝プロダクション製作で主演は勝新太郎さん。のみならず大部分のエピソードをご自身で監督される熱の入れようで、脚本も全て監修されてたみたいです。
いや、脚本はあって無いようなもので、勝新さんは従来の刑事ドラマのわざとらしさを嫌い、リアリズムを追求する為にあえて台詞を書き込まず、役者さん全員にアドリブ芝居を要求されたんだそうです。
だから会話が噛み合わなかったり、辻褄も合わないし、展開が飛んじゃってストーリー自体が繋がらないw 脚本上で犯人とされてた人物に、なりゆきでアリバイが出来てしまい、慌てて別の犯人をキャスティングしたりとかw、現場は色々と大変だったみたいです。
また「現実の人間はTVドラマみたいにくっきりハッキリ言葉を発しないだろう」って事で、俳優さん達にくっきりハッキリ喋らせなかった結果、台詞がよく聞き取れず視聴者からクレームが殺到したんだとか。
更に、セット撮影を避けてほとんどがロケ撮影、しかも照明を使わず自然光にこだわった為、画面が薄暗かったりもする。
日本においては絵空事の銃撃戦やカーチェイスも一切なし。そこまでリアリティにこだわった割に、犯人逮捕の際には投げ銭ならぬ「投げ手錠」というw、チョー現実離れした荒技を使っちゃうお茶目さがあったりもする。
主人公=賀津警視のキャラクターも、存在自体が妙に威圧的だし、刑事部屋で花札してたりなんかしてヒロイックな刑事像には程遠く、そもそも「警視」がなぜ所轄署でヒラ刑事達と一緒に捜査してるのかが分かんないw
プライベート描写も独特で、キャンピングカーで愛娘(勝新さんの実娘=奥村真粧美)と二人暮らしなんだけど、父娘の会話がやけにセクシャルな空気を醸し出してるんですよね。(ちなみに別れた元妻を演じるのは中村玉緒さんw)
……とまぁ、まるで自主製作映画のノリで、何から何まで勝新カラーに染まりまくった『警視ーK』は、ゴールデンタイムのTVドラマとしてあまりに斬新すぎて、大半の視聴者はその狙いが理解出来ずにソッポを向き、初回は14%あった視聴率も1ケタ台まで急降下(最終回は4.4%)。
私は当時、夜9時以降のテレビ視聴が許されてなかったゆえ『警視ーK』は最近になるまで観た事がありませんでした。もし当時観たとしても、やっぱり大半の人と同じようにソッポを向いてたと思います。
でも、今観るとメチャクチャよく解るんですよね、勝新さんがこのドラマでやりたかった事が。要するに、TVドラマという枠(あるいは刑事物というジャンル)にとらわれない、あくまで「勝新太郎の映画」を創ろうとされてたんだと思います。
俺がやるからには、絶対ありきたりの刑事ドラマにはしたくない。それが観たけりゃ『太陽にほえろ!』とかを観てくれりゃいい。これはあくまで、勝新太郎が創る中編映画なんだ……
そういうとてもクリエイティブな志で創られてるのが、画面からヒシヒシ伝わって来るんです。ストーリーはやっぱりよく解んないけどw、勝新さんの情熱だけは痛いほどよく解ります。
当初2クール以上の予定が1クールの放映で終わっちゃったのは、視聴率の低迷やクレームの殺到もありつつ、勝新さんが妥協を許さず何度も撮り直したりする内に、予算もスケジュールも大幅にオーバーしちゃった事も原因らしいです。
その挙げ句に勝プロダクションが倒産ですよ。ワガママを通した勝新さんの自業自得とも言えるけど、あの方はただ純粋に「良い作品」を創ろうとされただけなんですよね。それしか頭に無い、正真正銘のクリエーター。だから経営者には向いてなかったw
今、これだけの志と覚悟を持ってドラマを創ってるディレクターやプロデューサーが、一体どれ程の数いるでしょうか? あの当時でも、なかなか稀有な存在だったかも知れません。
だからって『警視ーK』が刑事ドラマとして傑作かと言えば、私はどちらかと言えば珍作だと思うしw、やっぱ『太陽にほえろ!』を観てる方が落ち着きます。
それでも、勝新太郎の映画愛と飽くなき情熱(役名の賀津はガッツのもじり)が目一杯詰まった、この伝説のドラマは一見の価値ありです。CSの映画チャンネルでたまに放映されてますので、もし興味があれば、是非!
しかし、勝新太郎の場合は自分の信念に基づいて作品を作り、結果、会社を倒産させてしまった。
石原裕次郎もその10年程前に映画がこけて石原プロ倒産の危機に陥った。
彼らに比べるとNHKという大資本に守られて脚本を書いて、たかがネットの炎上ぐらいで覚悟だなんだっていうのはチャンチャラ可笑しいと言わざるを得ませんよ。
ただ1つ言えることは、ネットに罵詈雑言を書き込むような、匿名の連中の言う事なんか気にしてドラマを作って欲しくないって事ですね。最近のテレビはあまりにも視聴者に媚びすぎてますから。
のぞき見してるようなドキュメンタリータッチのフイルム撮影、セリフはボソボソ何を言ってるのかわからない。
斬新過ぎて印象にはすごく残ってます
あの世界観で投げ手錠なんかしてたんですね、記憶にないです!
見てみたいです!
完全に玄人向けの作品で、映像業界におられる方は観ておくべきかも?