竜神会の追撃から何とか逃れた小池(藤 竜也)と茜(石野陽子)は、倉庫らしき場所に身を潜めます。
「寒くないか?」
「あったかいワケないでしょう? なんで私がこんな目に遭わなきゃなんないのよ! もう帰る」
「おい、どこ行くんだ? なに考えてんだ、お前は! いま出たら確実に殺されるぞ!」
「殺されるのはそっちでしょ? 私には関係ないわよ!」
「向こうもそう考えてくれるか? デカと一緒に逃げ出したんだキミは」
「ふざけないでよね? それはそっちが無理やり……」
「分かりました。とにかくそう膨れるな。公判まであと12時間とちょっとだ。仲良くしてくれよ、優等生」
反抗的な年頃とは言え、ここまで茜を苛立たせるものは何なのか? そもそも、なぜ彼女は自ら狂言誘拐を提案したのか? 父親の鷲尾は、茜の為にヤクザから足を洗うべく、命懸けの証言を決意したと言うのに……
「だから、それがタルいって言ってんじゃないよ!」
「ええ?」
「あいつ……怖いんだ、私のことが。まるでガラスの置物に触れるようにしか、私のこと扱えやしないんだ。天下の竜神会のナンバー2がだよ? 笑っちゃうわよ」
どうやら茜は、娘とどう接すれば良いのか分からない父の不器用さに苛立ってるみたいです。
「アンパンやったって、ユージみたいな族の子とつき合ったって、学校で優等生してりゃ文句の1つも言えやしないんだよ。情けないっていうか、トロいっていうか……」
私には女心なんかサッパリ解りませんけど、思春期になって親の欠点ばかり目について反抗したくなる気持ちは、自分にも経験があるんでよく解ります。特に父親に対しては格好良さを求めちゃいますからね。
ところでアンパンって何の事でしたっけ?w たぶんシンナーの事だと思うんだけど、なんでアンパンって呼ばれるようになったんでしょう? 別にどーでもいいけどw
「ヤッチャンならヤッチャンらしく最後まできっちりヤッチャンすりゃいいじゃないよ! それを今さら、足を洗う? 私の為に? 冗談じゃないわよ。虎のシマわね、洗ったって一生落ちやしないんだから!」
言いたいだけ言った挙げ句に煙草を吸おうとする茜ですが、小池に取り上げられ、捨てられちゃいます。
「何すんのよ!」
「俺は親父と違うぞ。ガキにやる煙草は無い。そう言ってるんだ」
ヤクザってのは煙草やシンナーじゃ済まないレベルの悪事を働いてる人種ですから、娘を叱る資格なんか無い。鷲尾はそれを自覚してるからこそ、茜に何も言えなかったのかも知れません。
そんな風に育てられた茜ですから、モラルを説いても通じるワケがなく、小池を誘惑したりトイレに行くフリをしたり等、オンナの武器を利用してまんまと倉庫から脱出しちゃいます。
そこにタイミング良くやって来たスケルトンズの車に茜は拾われますが、追ってきた小池が走る車にしがみつき、命懸けで食い下がります。茜を彼らに渡したらお終いだっていう、刑事のカンが働いたのでしょう。
ところで港町署捜査課の「別動班」には、小池&星野(世良公則)コンビの他にも実は刑事がいますw
ベテランの班長=山崎警部補(いかりや長介)は、ちゃんとした捜査課の桜井課長(神山 繁)からいつも厄介事を押しつけられ、部下たちの暴走にも手を焼かされる哀しい中間管理職。今回も捜査課は茜のボディーガードを別動班に押しつけ、拉致された責任も全て別動班にあるとして知らん顔。
山崎班長は小池の行方を心配しながら、証言を拒む鷲尾の説得にも当たらなければなりません。だけど茜の行方も分からず絶望的な状況で、何度目かの辞表を用意する羽目になっちゃいます。
そしてもう1人、行動派の紅一点=河合あゆみ(石川秀美)は、行方をくらませた竜神会組長の愛人に接近し、その潜伏先を探ろうとします。
あゆみのキャラクターは遊撃班(日テレの『大追跡』)の紅一点=結城刑事(長谷直美)を彷彿させます。タイミング的に『あぶない刑事』と比較されがちな『ベイシティ刑事』だけど、実際は『大追跡』を意識してたんじゃないでしょうか。
それはさておき、星野は銃声を耳にした市民の通報を受けて港を捜索し、海に沈んだ小池の愛銃「ジョン」を発見します。普通は絶対見つからないと思いますがw
「どういうこと、ユージ? 私まで? ユージ!」
再び小池を監禁し、リンチしたスケルトンズのリーダー格=ユージは、止めに入った茜にまで暴力を振るい、銃口を向けるのでした。
小 池「ようやく本性を現した。それだけの事だ」
ユージ「お前のオヤジに知られさえしなきゃな、お前を死体にしてもいい。そう言われてんだよ、俺たちは」
茜 「ユージ……」
小 池「茜。お前がコイツを利用したように、コイツもお前を利用したんだ」
ユージ達の狙いは、恐らく竜神会のバッジ。所詮、いくら格好つけようが暴走族なんてその程度。まさにクズの掃き溜めです。
鷲尾が証言台に立つ公判まで、残り3時間。茜を無事に帰さなければ鷲尾は口をつぐみ、竜神会を叩き潰すことが出来なくなってしまいます。
「ヤツらは俺が引き付ける。その間に逃げろ。分かったな?」
「けど……」
「いいな!」
小池は自分を犠牲にしてでも茜を逃がそうと奮闘しますが、恋人にまで裏切られた茜には生きる気力が乏しく、すぐに座り込んでしまいます。
「もうダメ、これ以上走ったら死んじゃうよ!」
「いいから立て!」
「もう放っといてよ! 余計なお世話だって言ってんだよ! あんた行きたきゃ1人でどうぞ。私は此処を動かないよ」
そんな茜に、小池は容赦なくビンタを浴びせます。
「何すんだよっ!?」
「自分で点けた火を消さないで済むと思ったら大間違いだぞ、おい!」
この時、茜は小池に「父親」を感じたかも知れません。本当はずっと、こうして親身になって叱って欲しかった。
「いいか、聞け。オヤジさんが例え証言を止めたって、組織がある限りいつかはオヤジさんぶっ殺されるんだ! こりゃ間違いないぞ、おい!」
茜は、決して父親が憎いワケじゃない。好きだからこそ叱って欲しいし、格好良い男でいて欲しかった。
「な? ただ、それを止めさせる方法がたった1つある。竜神会をぶっ潰せばいいじゃないか? な、茜。その鍵を握ってるのはお前なんだぞ。解るか?」
「…………」
「お前は逃げろ。逃げて何処かでクルマ拾って、そのまま裁判所へぶっ飛ばせ! いいな? こら、聞いてるのか!?」
「……誰が、誰がそんな所へ行くもんか! ジョーダン飛ばさないでよね!」
「馬鹿野郎!」
「なによ!?」
「……分かった。茜、何でもいいからお前、逃げろ。お前は死ぬな! こんなオジサンと一緒に野垂れ死にじゃ格好悪いだろ、おい。違うか? さぁ逃げろ。逃げるんだ!」
茜を強引に走らせた小池は、スケルトンズの銃撃を全て自分に向けさせるべく、彼らの前に突っ込んで行きます。
一方、茜は…………
トボトボと歩く茜を、通りすがりの暴走族が取り囲みます。恐らく顔見知りであり、彼女はそのままクズどもと遊びに行ってしまうのか?
そうとも知らず、丸腰の小池はスケルトンズに追い詰められ、更に駆けつけた竜神会にも挟み撃ちにされちゃいます。もはや絶体絶命!
と、そこに鳴り響く「マギー」の銃声! 走る覆面車から星野&あゆみがヤクザどもを撃ちまくります。あゆみが突き止めた潜伏先から、組長を尾行して此処に辿り着いたワケですね。
「パパ!」
そう叫んで星野は「ジョン」を放り投げ、小池に託します。パパってのはつまり、ジョン本来の持ち主が小池である事を示した呼び方なのでしょう。
ジョンを空中でキャッチした小池は、そのままジャンピングシュート! まさに水を得た魚で、あっという間に悪党どもをやっつけるのでした。
「星野、あゆみ、ありがと」
「まったく。あんな所にジョン置き去りにして、風邪でも引いたらどうするんですか」
「そうよ、可哀想よ、もう」
「ごめんね」
そう言って小池は、鉄の塊であるジョンにキスしますw こうして銃器にまでキャラクターを与えたドラマは他にもあれど、この『ベイシティ刑事』ほどそれが自然に見えちゃう作品は無かったように思います。やっぱり、心底から好きな人達が創ってるからでしょう。
さて、急いで裁判所に駆けつけた小池&星野を、山崎班長がハラハラしながら出迎えます。
「鷲尾の娘はっ!?」
「まだ来てませんか?」
「おい、冗談じゃないぞお前、なんてこったよ! もうすぐ始まんだよ公判が、公判がよぅ!」
「まったく、コウさんらしくないよ。あんなノラネコ信用するなんてさ。どうせね、今頃その辺でぷらぷら遊んでんだ」
と、其処に派手なバイクの排気音が鳴り響き、暴走族がやって来ます。
「ヤッホー♪ 鷲尾茜、ただいま到着!」
まぁ、とっくに皆さん察しておられた事でしょうw
「茜!?」
今まさに裁判所に入ろうとしてた鷲尾が、護送の警官たちを振り切って(あかんがな!w)茜の前まで駆け寄ると、手錠をされたままの両手でビンタを浴びせます(痛すぎるがな!w)。
しかし茜はドMなのか、嬉しそうに微笑みを返すのでした。そんな我が子をしっかり抱きしめると、鷲尾は意を決したように裁判所入口へと戻って行きます。
「鷲尾!」
さんざん説得を無視されて来た山崎班長が不安そうに声を掛けると、鷲尾は振り切り、力強く言うのでした。
「心配するなよ、山崎さん。話してやるよ。洗いざらいぶちまけてやる。この落とし前は、必ずつけてやるよ」
実際にやってる事はちっとも格好良くないんだけどw、茜の眼には最高にカッコいい晴れ姿に映った事でしょう。
それにしても、暴力団を1つ壊滅させちゃうような証言って、一体どんな内容なのか、具体的には一切触れてない脚本が凄すぎますw
「班長。またもや無駄になって良かったですね、これ」
そう言って山崎の懐から星野が取り上げたのは、もはや恒例になりつつある「班長の辞表」です。
「なに言ってんだ、お前。そんな事はな、ハナから分かってたんだ。わしゃあ部下を信じとるからな」
「あら? とても信じられてるとは思えませんよね」
「なんか言ったか?」
そんなやり取りを横で聞いてる小池に、茜は初めてチャーミングな笑顔を見せると、何も言わずに去って行きます。
更正を誓ったとは言えヤクザだった父親を持つ茜の人生は、前途多難かも知れません。例え竜神会が壊滅したとしても、報復の脅威が消え去る事は無いでしょう。
そんな事を想ってか、独りで公園の噴水を見つめる小池に、後ろからやって来た星野とあゆみが声を掛けます。
星 野「コウさん。しつこいようですけどね、本当にあのコとは何も無かったのかな?」
小 池「ああ?」
星 野「いやいやいや、歳の差なんて関係ないですから。なんせ人は、なんせ男と女よ?」
小 池「あのなぁ、自分とすぐ一緒くたにすんなよ。俺だってわきまえてる所はちゃんとわきまえてるんだよ」
あゆみ「ハードボイルドだもんね。ね? ハードボイルドでしょ?」
小 池「そうだよ、当然だよ俺は」
あゆみ「なんたって一説によると、ハードボイルドって、やせ我慢って訳すらしいもんねえ?」
星 野「やせ我慢? そう? カラダに悪いわねえ~!」
からかう2人を、うるせーコノヤローとか言いながら追いかけ、楽しそうにじゃれ合う姿でジ・エンドっていうパターンも、そう言えば最近は滅多に見られませんねw
♪暗がりで酔いつぶれたヤツと~トゲの無い薔薇のような男と女~
エンディングテーマは世良さんが唄う『HEART IS GOLD』。もしかすると知らない読者さんもおられるかも知れないので書いておきますが、世良公則さんはかつて「ツイスト」っていうバンドで一世を風靡されたロック・ミュージシャンです。
藤竜也さんはつい最近も北野武監督の映画に主演されるなど、ベテラン俳優としてバリバリ活躍中で、石川秀美さんは後に「しぶガキ隊」薬丸裕英くんと結婚、いかりや長介さんは黒澤映画や『踊る大捜査線』等で活躍後、鬼籍に入られました。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます