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『太陽にほえろ!』にとってドック(神田正輝)の登場が革命的だったのは、その型破りなキャラクターだけじゃなくて、使用拳銃「S&W・M59」に因るところも大きかったと思います。
刑事ドラマのレギュラー刑事がオートマチック拳銃を使うのは、珍しくはあるけど初めての事ではありません。神田さんご自身、直前まで出演されてた杉サマの『大捜査線』ではコルト・ガバメントを使われてました。
『太陽』出演が発表された時の番宣写真でも、神田さんが構えてたのはガバメントのように見えました。(M59のオールブラック・モデルだったかも知れません)
ところが第415話『ドクター刑事登場!』でドックと一緒に初登場したのは、S&W・M59のハーフシルバー・モデルだったんです。上半分(スライド)は普通の黒(ガンブルー)なんだけど、下半分(フレーム)だけステンレス・シルバーという、要するにツートンカラーの拳銃。このチョイスは本当に素晴らしい!
同じ拳銃でも、黒(ガンブルー)一色だと地味な感じに見えるし、逆にシルバー一色だと派手って言うか、刑事が持つには軽薄に見える。その中間を行くツートンカラーっていうのは、今やそれ以外に考えられないほどドック刑事のキャラにマッチしてるんですよね。
装弾数15発(ガバメントの2倍!)というM59のポテンシャルがまた、「誠実」「努力」「熱血」といった『太陽にほえろ!』のイメージを覆し、ライトな感覚で合理的な捜査をして見せるドックにピッタリでした。
さらに、銃を逆さまにして背中に忍ばせる、特注品のコンパクトなヒップ・ホルスター(モノクロ写真参照)も印象深くて、後に「ドック・ホルスター」みたいな名称で模造品が出回る事になります。
このM59もハイパトやローマンと同様MGC社から発売されたモデルガンだけど、その組み立てキットのパッケージには「太陽にほえろのドック刑事が使っている」って書かれたシールが貼られてて、それに釣られて私も買いましたよw
それくらい、ドック刑事と言えばM59、M59と言えばドック刑事って、キャラクターとプロップ(劇用銃)が完全に一体化してました。ダーティハリーと44マグナム、大門団長とレミントンのショットガン、みたいなもんです。
だから、日本の刑事ドラマでは他に(私の知る限り)M59を使う刑事さんは1人も現れなかったですね。ハーフシルバーのオートマチックを使ったのも、ドックが唯一無二の存在でした。あまりにドック専用のイメージが強かったからだろうと思います。
『ドクター刑事登場!』では早速、このM59が大活躍しました。追い詰められた犯人が人質を取って、銃を捨てるよう刑事達に命令するんですね。仕方なく他の刑事達は銃を放り投げ、ドックも「分かった、俺の負けだ」とか言いながら、マガジン(弾倉)を抜いて投げ捨てる。
それで犯人が油断した一瞬のスキを突いて、ドックは腰の位置から1発で犯人の右腕を撃ち抜くワケです。そのクールさがまた、軽妙なキャラクターとのギャップで超カッコイイ! 初登場ドック&M59の、本当に見事な「つかみ」でした。
その次のシーンでドック自ら解説してくれますが、オートマチック拳銃は最初にスライドを引くと、1発目の弾丸が薬室に送り込まれます。マガジンを抜いても、その1発だけはいつでも発射可能なワケなんです。
ただし犯人が持ってる銃もオートマチックでしたから、まんまとその手に引っかかるのは不自然なんだけど、まぁ興奮状態だったしマヌケな奴なんだって事にしておきましょうw
ドックは医者の息子でボンボン育ち。中退した医大の在学中に海外旅行を繰り返し、現地の射撃場で遊びながら射撃の腕を磨いたという、けっこう危険な男である事もw、この回で明かされました。
ドックが銃を構える時の、大きく首を傾げた独特な姿勢は、アメリカ仕込みの正式な射撃スタイルなんだそうです。そういうのって日本人には似合わないんだけど、ドックにはちゃんと設定の裏付けがあったんで、違和感は無かったように思います。
第442話『引金に指はかけない』はスニーカー(山下真司)が主役の回ですが、クライマックスの銃撃戦でM59の連射と、そのスライドが後退して空薬莢が排除される「ブローバック」をハッキリ捉えたショットが非常に印象的でした。
それまで日本のTVドラマで使われて来たオートマチック拳銃は、ほとんどが電気発火式で撃ってもスライドは固定されたままでした。銃に興味が無ければ本当にどーでもいい事なんだけどw、ガンマニアにとってはブローバックが見られるだけで画期的だったんです。
話の内容も実にハードで、非番のスニーカーが立ち寄った銀行に、銃で武装した3人組が強盗に押し入ります。スニーカーは、その内の2人は拳銃の引金に指をかけない、つまり暴発を防ぐ構え方をしてるのに対して、ライフルを持った男(片桐竜次)だけが撃つ気満々である事に気づきます。
案の定、現金の強奪に成功したというのに、ライフル男は無抵抗の行員をわざわざ射殺して逃走。さらに後日、金を独り占めする為に仲間を車ではね、さらに車をバックさせて二度牽きで殺すという冷血ぶり。
もう1人の仲間もナイフでメッタ刺しにして殺した上、奪った拳銃で通りがかりの犬まで射殺してしまう異常さに、刑事達は戦慄を覚えます。
ライフル男は、なぜ犬まで殺したのか? 相手が子犬でも吠えられると異様な怖がり方をしていたという目撃情報もあり、やがてその理由がRHマイナスAB型という、非常に特殊な血液型にある事が判明します。
つまり、輸血が必要になるような怪我を負った時に、彼の場合は血液がすぐに調達されない可能性が高い。だから犬に噛まれただけでも生命を落とす危険性があり、異様な怖がり方をするワケです。
そんなハンデを背負わされた運命を呪う彼は、自分の身を守る為なら人も犬も殺す権利が、自分にはあるんだっていう被害妄想を抱くようになった。要するにガイキチで、もはや情やモラルが通用する相手じゃない。
検問の警官を射殺したライフル男は、逃走しながら通りがかりの老人を狙い撃ちします。追っ手の注意を逸らさせ、そのスキに自分が逃げ延びる。その為なら何の恨みもない老人を平気で撃てる、まさにマッドな悪魔野郎、その名は片桐竜次!
そんな狂犬がライフルを抱えて、昼下がりの新興住宅街を駆け回るという悪夢のような光景。刑事達はただ犯人を追うだけじゃなくて、通りがかった市民全員をガイキチの凶弾から守らなきゃいけないから、そりゃもう大変です。
スニーカーとドック、さらにゴリさん(竜 雷太)とロッキー(木之元 亮)も加わっての、実にスリリングな大追跡、そして超ハードな銃撃戦が展開されます。
公園に追い詰められたライフル男の視線の先には、無邪気に遊ぶ子供達の姿が! もはやガードする余裕も無く、スニーカーは捨て身でライフル男に突進して行きます。
この時、カメラは援護射撃するドックの姿を右側から捉えるんですよね。ブローバックして排除された空薬莢が、画面に向かって飛んで来るナイスなアングルです。
しかも、撃ってるドック越しにスニーカー、ロッキー、ゴリさんが駆け抜ける姿まで捉えた素晴らしいショットで、私は何回観ても鳥肌が立っちゃいます。
ドックらの援護により、ライフル男の間近まで辿り着いたスニーカーは、お互いの銃口がぶつかり合うほどの至近距離で、銃を向け合います。
「撃つなら撃て。お前が撃てば俺も撃つ! 俺は死なんかも知れん。すぐに輸血が出来るからな。しかしお前は確実に死ぬぞ!」
過剰な自己防衛本能こそが、冷血なライフル男の唯一の弱点。スニーカーはそこを突いたワケです。その気迫に圧されて、ついに男は観念するのでした。
さすがにスニーカーも怖かったのか、銃を構えたまま固まってるんだけど、その指が引金にかかってない事にゴリさんが気づきます。
「殺したくなかったんです」
スニーカーのそんな姿を見て、ゴリさんがすごい嬉しそうな顔をするんですよね。銃を構えても、引金に指はかけない。その精神は、拳銃を持ってるのに弾丸はこめないゴリさんと、全く同じだからだろうと思います。
この時にスニーカーが使ってたのは、コルト・パイソン357マグナムの4インチ。ロッキーはかつてジーパン(松田優作)が愛用したS&Wミリタリーポリスらしき6インチのリボルバーを使ってました。
長らくコルトMkーIIIシリーズ(ローマンorトルーパー)で統一されてた七曲署の拳銃も、ドック&M59の登場を契機にバラエティー豊かな機種が使われるようになりました。
このエピソードで不思議だったのは、あんなに激しい銃撃戦の中で、なぜかゴリさん1人だけ、ずっと拳銃を抜かなかった事です。いくら銃は使いたくないキャラとは言え、あの状況で丸腰なのは不自然です。
たぶん小道具さんがゴリさんのトルーパーだけ忘れちゃったのか(もし故障だとしても持たせる位は出来た筈だし)、あるいはこのシーン、実は別の刑事が出る予定がキャンセルになった場合も考えられます。
沖雅也さんが体調を崩されるちょっと前のエピソードなんで、もしかするとシナリオではスコッチが参加する予定だったのかも?
第531話『マグナム・44』は、ゴリさんが殉職してしばらく経った頃に製作されたエピソードです。ドックが若手リーダーのポジションのみならず、GUNマスターとしての役目もゴリさんから受け継いだ事を示す、ハードアクション編の第1弾。
44マグナムことM29を使った殺人事件が発生、犯人はなんと、壁の向こうにいる相手を狙って射殺した事が判明します。つまり、相手が見えなくても足音だけで狙撃出来るスキルを持った、プロの殺し屋。
しかしドックは敵を甘く見てました。M29は6連発のリボルバー拳銃で、弾込めに時間がかかる。こっちは15連発のオートマチックで、マガジンを入れ替えれば一瞬で弾込め完了だから有利な筈なんです。
ところが最初の対決で、敵がほとんど時間をかけずに7発目を撃ち込んで来たもんだから、意表を突かれたドックは44マグナムの威力に圧倒され、身体が震えて撃ち返せなくなっちゃう。
敵はどうやら、リボルバーの弾込めをワンタッチ操作で済ませる「スピードローダー」を使ったらしく、ドックはそんな事も予測出来なかった自分自身に失望し、かつてない敗北感を味わいます。
敵に匹敵するパワーとスキルを身につけないと、到底勝ち目はない。それを悟ったドックは、スペシャル仕様のコルト45オートマチックを調達します。
それがコルト・ナショナルマッチで、言わばガバメントのロングバージョン。45口径で確かにハイパワーな拳銃だけど、44マグナムに匹敵するだけの威力があるのかどうか、私には判りません。
その辺のリアリティは置いといて、強い反動でコントロールが容易じゃないナショナルマッチを使いこなすべく、ドックは秘密特訓を重ねます。
今回は後輩ボギー(世良公則)が相棒になって、ドックの特訓に協力します。壁の向こうでボギーがバケツを放り投げ、その音だけを頼りにドックが撃つ。何度も、何度も、徐々に標的を小さくして行きながら。
このナショナルマッチの発砲シーンが、実に迫力あるブローバックを見せてくれるんですよね。何しろ大口径ですから、スライドの後退や排莢がM59よりも鮮明に目視出来るワケです。
あの当時で、これだけのブローバックを映像に収めたTVドラマは無かったのでしょう、このエピソードは「月刊GUN」で特集記事が組まれるほど、ガンマニアの間で話題になってました。
神田さんもノリノリで演じておられるのが画面から伝わって来るし、一緒にいた世良さんが後に『ベイシティ刑事』でナショナルマッチ(同じくシルバーモデル)を愛用される事になるのも、多分この時の撮影が原点なんじゃないでしょうか?
それはともかく、ナショナルマッチを使いこなすようになったドックは、殺し屋の正体を見破ります。当初は、妹をハンターの誤射で殺された金髪美女=ナンシーが、復讐の為に殺し屋を雇ったと推理されてたのですが……
コツさえつかめば、腕力がそんなに無くてもハイパワー拳銃は扱える。身を持ってそれを知ったドックは、ナンシー自身が犯人である事を確信し、最後の対決に臨むのでした。
ブローバック云々は抜きにしても、シンプルな対決ドラマとして実に見応えある1編でした。ドックはこれ以降、M59とナショナルマッチの2丁拳銃でやって行くのかと思いきや、結局1回限りの出番だったのは残念でした。
だけどドックのハードアクション編はシリーズ化され、異常なガンマニアの挑戦を受ける第624話『決闘』(敵はワイルド7の小野進也さん)や、渡哲也さんが代理ボスを務める時期に製作された第709話『タイムリミット・午前6時』でも、M59が大活躍するガンアクションが見られます。
後者では「オートマグ」まで登場してました。44マグナム弾が撃てるオートマチック拳銃だけど、その時代にはブルース刑事(又野誠治)も普通に44マグナムを使ってましたからw、特にクローズアップされる事なく終わりましたね。
……まぁしかし、なんてマニアックな記事なんでしょうw ドン引きされてるかも知れないけど、これっぽっちも気にせずにw、まだまだ続けて行きます。
男の子、特に刑事ドラマが好きな男子はみんな銃が好きだろうと私は思ってましたからw、全く興味が無い男性も沢山おられることを知った時は結構カルチャーショックでした。
ほんと、嗜好は人それぞれ、千差万別ですよね。
大きめの店はどんどん潰れて、アメ横でも老舗の個人商店だけ残ってる感じですね。寂しくなっちゃいました。
もし、面白い記事になりそうなアイデアが他に浮かんだら、その時は頑張って書かせて頂きます!
プログを拝見させていただきました。
私もドック刑事のオートマチック拳銃のトリックには感心したのですが、後に月刊GUN誌で実銃のM59の特集があり、その中でS&Wのオートマチック拳銃にはマガジンセフティという安全装置があり、マガジンを抜くとトリガーは引けないということを知りました。
あのトリックは、MGCのモデルガンだからできたのであり、実銃であれば、不可能だったということです。
当の神田正輝氏が、このことを知り得たのがどうか気になります。
神田さんがどこまで銃に詳しいか分かりませんが、たぶん御存知なかったんじゃないでしょうか? 日本人のほとんどは知らないと思います。つくづく平和な国ですよね。
M59のトリックが実銃では出来ないということを知って、とてもショックでした。
マルシン工業からシングルマガジンのM39のモデルガンが発売されましたが、マガジンセフティは再現されていました。
このことがきっかけだと思いますが、リアリティに欠ける日本の刑事ドラマにあきて、海外(特にアメリカ)の映画やドラマにシフトするようになりました。