北大路機関

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【映画講評】レッドストーム作戦発動(書籍1986)このフィクションは現ロシア軍ウクライナ侵攻の既視感

2022-05-04 18:11:41 | 映画
■ソ連軍西ドイツ侵攻が題材
 ゴールデンウィークも後半となりましたのでここでベルギービールでも傾けながら一つ読書と云うのは如何でしょう。

 レッドストーム作戦発動。今回は映画講評という題材ではありますが、実際は書籍の紹介です。1986年にトムクランシー氏とラリーボンド氏が共同執筆した小説なのですが、北大路機関を長く読まれている方ですと恐らく読まれた事のある方は、多いのではないでしょうか。そして、これも恐らくなのですが、今の報道を既視感を感じるのではないか、と。

 文春文庫から上下巻が1987年に発行されていまして、もう絶版なのですが文春文庫の青い背表紙の並ぶ外国作家の売り場でトムクランシーとラリーボンドといいますと、スティーブンキングの隣あたりにかなりの幅を占めている時代がありました、売られている期間も長かったものですから、古書店でもWebでも入手は比較的容易であるように思うのですが。

 ソ連軍が西ドイツに全面侵攻する小説です。そうした小説はいろいろ有るのは知っています、しかし何故戦争が始まるのかという部分に説得力を持たせる描写の作品となりますと、実は少なく、戦争に至る背景から実際に開戦するまでの準備まで、かなりの部分が割かれています、手に取ると上下巻なのですが共に500頁以上という読み応えがあるものです。

 ロシア軍がウクライナに侵攻している、現在進行形の戦争が続いている中なのですが、既視感といえる程に、小説の描写と現実の報道が重なっていまして、この描写は未だ無いな、とAFP通信やロイター通信などを見ていますと数日後にほぼ似た事象が現実のものとなっていまして、この現実味は何なのだ、と驚かされるよりも少々怖くなるという小説です。

 偽旗作戦、ソ連の主張ではドイツ人とされる人物がモスクワで爆弾テロを起こし、ソ連政府は西ドイツ政府への警察力を除く武装解除と西ドイツ国内のネオナチを放逐するよう要求し、要求の直後に全面軍事侵攻を開始します。二月にロシア軍がウクライナに主張した内容もネオナチの殲滅とウクライナの武装解除ですので、これも同じだなあ、と思った。

 ソ連軍は西ドイツへ軍事侵攻する際に、これは一読して頂くために内容は伏せますが、別の巨大な目的があり、その死活的利益を確保する為に敢えてNATOと戦端を開くというもの。その侵攻前には大規模な軍事演習を実施し、大量の戦車が遠く離れた目標に125mm滑腔砲弾を叩き込み土煙で標的が見えなくなる様子なども、何か今年報道で視た既視感で。

 それでも、驚いたのはロシア軍と政治将校やKGB軍との関係が、KGBは現在FSBに改組されていますが、ウクライナでの現実と同じ様に、占領地での反ロシアの疑いのある政治家の逮捕やネオナチ容疑者の無差別連行と殺人など、小説だからなあと祖父から聞いた満州での実体験は過去のものだろうと思っていますと、小説と現実報道が重なり驚くのです。

 ロシア軍はキエフ北部でダムを巡航ミサイル攻撃で破壊し、そのダムの結界により自分が渡ろうとしていた河川が氾濫し架橋部隊も流されたというAFP報道が先日ありましたが、実はこの様子も、作中にソ連軍はハノーバーに至るウェーバー川を渡河しようとした際に戦車連隊が大損害を受け、逆上した連隊長が渡る予定の橋梁を砲兵に破壊させる描写が。

 NATOの対戦車ミサイルにより戦車部隊が大損害を受ける描写や、通信能力不足から最前線視察を試みた上級指揮官の相次ぐ戦死、地対空ミサイルの過大評価によりNATOの低空飛行する対地攻撃機に全く手が出ないなど、NATOとソ連のフィクションですが、いまのロシア軍ウクライナ侵攻の現実を驚くほどに予見している、驚くべき小説となっています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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