■いま世界に迫る"三つの危機"
東京五輪2020に向け聖火リレーが日本全土を巡る中、世界にはCOVID-19やミャンマー軍政危機等が山積しています、中でも対応を誤れば世界危機に展開する懸案が、ある。
菅総理大臣は間もなく、政府専用機によりアメリカへ、バイデンアメリカ大統領との初の対面首脳会談へ向かいます。一月のバイデン政権成立以来、バイデン大統領は菅総理大臣はじめ各国の首脳と電話会談に臨んできましたが、対面での首脳会談は菅総理大臣との日米首脳会談が初めてとなります。しかし、大統領就任後初の会談は実務的となるでしょう。
ホワイトハウスで現地時間16日に行われる初の菅バイデン首脳会談は、自由で開かれたアジア太平洋、その実現と維持に向けた協力の在り方が協議される見通しであり、安全保障は台湾や尖閣の問題がありこれは明らかに覇権主義的な動きにより海洋閉塞化や周辺国領域占拠の行動を深めている中国へ日米間での対処方針への実務的な内容が含まれましょう。
菅バイデン首脳会談は、いわば1940年にイギリスのチャーチル首相とアメリカのルーズベルト大統領が戦艦プリンスオブウェールズ艦上において開いた太平洋会談に重なる印象です。一方で、バイデン政権は、トランプ政権時代の日本重視路線を更に強化した、イギリスやオーストラリアなどに並ぶ重要な同盟国という位置づけとしましたが、課題は多い。
バイデン政権、その外交は現在世界危機の入り口にあると言えるのかもしれません。アメリカ外交の歴史的な転換点、具体的には単なる回帰ですが、2021年はロシアのウクライナ東部介入危機、イランの核開発強化、台湾海峡危機、この三点が場合によっては海洋自由原則や基本的人権の尊重という国際公序を転換させかねない喫緊の課題となっています。
我が国南西にあたる台湾海峡の情勢は、周辺事態法整備に際しては中国への配慮から台湾海峡を周辺事態に含めるか否かの激論が交わされたものですが、あれから四半世紀、平和安全法制下、台湾海峡有事がとなれば明らかに我が国への重要影響事態です。2019年と2020年の習近平主席による武力統一の示唆以降、明らかに緊迫度を増してきたのですね。
台湾海峡危機はクリントン政権時代の1997年ミサイル危機から連綿と続く、それは同時に国共内戦以来継続する緊張の再燃にほかならないのですが、重大な課題です。そして特に、2020年より台湾海峡の中華民国防空識別圏内へ中国空軍機の侵入頻度が爆発的に増大しており、アメリカ防空識別圏へ飛来するロシア機の実に千倍に迫る規模となっています。
中国軍機の防空識別圏侵入は一日で25機が飛行することもあり、台湾の金門島へ明日中国の空中機動部隊が降着したとしても不思議ではない危機的状況となっています。そして1997年ミサイル危機に際し、アメリカは空母2隻を展開させ圧倒的海軍力で拡大を阻止しましたが、1997年と2021年では中国軍の空軍力海軍力はそれこそ飛躍的に成長しました。
台湾海峡、特に金門島のように中国大陸外縁の台湾領は現在の中国空軍戦力であれば海峡西部の絶対航空優勢を中長期的に確保し、そのまま地上部隊を侵攻させることは能力的に十分可能である一方、唯一、単なる侵略であれば国際社会の中国経済制裁口実とされる懸念などから回避している段階であり、台湾が田和挑発に乗るのを待っている段階といえる。
太平洋正面の海軍力については、依然としてアメリカ海軍の圧倒的な優位は普遍ですが、局地的に優勢を喪失するだけの戦力差には縮まっています、また中国軍のミサイル爆撃機や中距離弾道弾はアメリカの戦略拠点である在沖米軍基地や日本首都圏在日米軍基地、要衝グアムを射程に収めており、その数と質の向上も年々強化され、歯止めがかかりません。
イラン核開発は、もはや引き返せない危機に展開しています。こういいますのもオバマ政権時代に締結しトランプ政権時代にアメリカが離脱したイラン核合意は、前提としてイランに核兵器開発の意図は無いという大前提が存在しており、その上でその証左に合意を締結した背景がありました、要するに核は平和利用しかしない、と言う前提にて成立します。
ウラン濃縮を60%まで引き上げる、この発言がロウハニ政権から示され、そもそも原子力発電に代表される核の平和利用では10%の濃縮しか必要としません、これをイランはアメリカがトランプ政権時代に20%まで引き上げており、核兵器開発を最終的に目指す以外説明できないウラン濃縮に着手しており、イラン核合意の大本の前提が崩れてしまいました。
イランは1979年イラン革命においてイスラエル国家の消滅を国是とし、いまも堅持していることからイラン核開発は核合意も含めてイスラエルには反対の姿勢を示していますが、ウラン濃縮60%に進めるイランの施策、核兵器開発の決意という状況を突きつけられた現時点で、もとのイラン核合意にアメリカが無条件にて戻ることを非常に難しくしています。
遠心分離機の国外搬出や核関連技術者の中でも核兵器技術者の国外出国、アメリカはイランがウラン濃縮60%に着手した時点で、これを認める選択肢も現状維持のまま核合意に戻り核兵器開発を十数年単位で遅延させる妥協案は採り難くなりました、すると最低限、遠心分離機の国外搬出や核関連技術者の中でも核兵器技術者の国外出国が条件となりうる。
イラン核開発が進めば、イスラエルの諜報活動による妨害工作、それでも不十分となればイスラエルがイラクに対し実施した様なイラン核関連施設への限定攻撃、という次の緊張に展開しかねません。中東和平の枠組みさえも根本から破綻させかねない事態であり、バイデン政権として、静観による核開発黙認か軍事介入、様々な選択肢に悩まされるところ。
ウクライナ東部情勢についても緊迫の度合いを増しています。ウクライナ政府はウクライナ東部国境付近にロシア軍8万名が集結しているとして警戒を強めています。バイデン政権は4月9日、数週間以内に黒海へ海軍艦艇の派遣を示唆し、少なくともウクライナ東部紛争停戦合意破綻を海軍力により回避しようという姿勢を示しています。ここは謎が多い。
ロシア軍は前回のクリミア併合やドンバス自治州騒擾への関与等を経て、日欧米からの経済制裁を受け、その経済活動を大きく後退させた状況にあります、ここで停戦状態を破り軍事行動に出る事が在れば、更なる制裁の危惧があります。ロシアは例えばワクチン外交によりCOVID-19感染対策を盾に軍事行動を強行する事も出来そうですが、実際は難しい。
ウクライナ東部軍事介入、ワクチン外交により欧州等の黙認を得ようとしても、ロシア製COVID-19ワクチンは不活性化ワクチンであり、米欧の開発したmRNAワクチンと異なり変異ウィルスへ現段階で効果がありません、従って逆にファイザーワクチンやアストラゼネカワクチンを必要とする立場である事から、ワクチン外交の立場は真逆なのですよね。
ウクライナ東部の緊張、問題はしかしアメリカにとってより複雑です。ウクライナのゼレンスキー大統領は4月13日、東部戦線の最前線防衛陣地視察の様子をCNNに公開、恒常化しているロシアの脅威を合せ、ウクライナのNATO加盟への支持を国際社会に訴えました。これはウクライナには安心要素ですが、NATO全体には不確定要素となりえるもの。
北大西洋条約第五条には集団的自衛権行使が明示され、加盟国一国への武力攻撃をNATO全体への攻撃を視なす条文があります、するとウクライナでの戦端、勿論NATO加盟となればNATO理事会がウクライナ軍行動へ関与する事にもなるのですが、例えば2008年の北オセチア紛争のような攻められた側が挑発を行った場合でも、欧州大戦、となりえます。
ウクライナ東部問題の悩ましい点は、ロシアの兵力集中が一時的に引いた場合でも、クリミア併合とロシアと国境を接するウクライナ東部の緊張は、常に再燃の懸念があり、その限りにおいて、例えばクリミア返還でも行われぬ限り、ウクライナはNATO加盟を要請し続け、またロシア軍の僅かな動きが、その蓋然性をアメリカに突き付けてしまう現実です。
菅バイデン首脳会談。台湾海峡問題は当然議題に上るでしょうが、イラン核開発問題は対処を間違えれば広島長崎以来の核兵器実戦使用の緊張を高めるものとなりますし、ウクライナ東部の緊張も対処を誤ればロシア軍と米軍を含むNATO軍が衝突する欧州大戦への導火線となりかねません。会談はこうした意味で日米関係今後を示す重要な会談となります。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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東京五輪2020に向け聖火リレーが日本全土を巡る中、世界にはCOVID-19やミャンマー軍政危機等が山積しています、中でも対応を誤れば世界危機に展開する懸案が、ある。
菅総理大臣は間もなく、政府専用機によりアメリカへ、バイデンアメリカ大統領との初の対面首脳会談へ向かいます。一月のバイデン政権成立以来、バイデン大統領は菅総理大臣はじめ各国の首脳と電話会談に臨んできましたが、対面での首脳会談は菅総理大臣との日米首脳会談が初めてとなります。しかし、大統領就任後初の会談は実務的となるでしょう。
ホワイトハウスで現地時間16日に行われる初の菅バイデン首脳会談は、自由で開かれたアジア太平洋、その実現と維持に向けた協力の在り方が協議される見通しであり、安全保障は台湾や尖閣の問題がありこれは明らかに覇権主義的な動きにより海洋閉塞化や周辺国領域占拠の行動を深めている中国へ日米間での対処方針への実務的な内容が含まれましょう。
菅バイデン首脳会談は、いわば1940年にイギリスのチャーチル首相とアメリカのルーズベルト大統領が戦艦プリンスオブウェールズ艦上において開いた太平洋会談に重なる印象です。一方で、バイデン政権は、トランプ政権時代の日本重視路線を更に強化した、イギリスやオーストラリアなどに並ぶ重要な同盟国という位置づけとしましたが、課題は多い。
バイデン政権、その外交は現在世界危機の入り口にあると言えるのかもしれません。アメリカ外交の歴史的な転換点、具体的には単なる回帰ですが、2021年はロシアのウクライナ東部介入危機、イランの核開発強化、台湾海峡危機、この三点が場合によっては海洋自由原則や基本的人権の尊重という国際公序を転換させかねない喫緊の課題となっています。
我が国南西にあたる台湾海峡の情勢は、周辺事態法整備に際しては中国への配慮から台湾海峡を周辺事態に含めるか否かの激論が交わされたものですが、あれから四半世紀、平和安全法制下、台湾海峡有事がとなれば明らかに我が国への重要影響事態です。2019年と2020年の習近平主席による武力統一の示唆以降、明らかに緊迫度を増してきたのですね。
台湾海峡危機はクリントン政権時代の1997年ミサイル危機から連綿と続く、それは同時に国共内戦以来継続する緊張の再燃にほかならないのですが、重大な課題です。そして特に、2020年より台湾海峡の中華民国防空識別圏内へ中国空軍機の侵入頻度が爆発的に増大しており、アメリカ防空識別圏へ飛来するロシア機の実に千倍に迫る規模となっています。
中国軍機の防空識別圏侵入は一日で25機が飛行することもあり、台湾の金門島へ明日中国の空中機動部隊が降着したとしても不思議ではない危機的状況となっています。そして1997年ミサイル危機に際し、アメリカは空母2隻を展開させ圧倒的海軍力で拡大を阻止しましたが、1997年と2021年では中国軍の空軍力海軍力はそれこそ飛躍的に成長しました。
台湾海峡、特に金門島のように中国大陸外縁の台湾領は現在の中国空軍戦力であれば海峡西部の絶対航空優勢を中長期的に確保し、そのまま地上部隊を侵攻させることは能力的に十分可能である一方、唯一、単なる侵略であれば国際社会の中国経済制裁口実とされる懸念などから回避している段階であり、台湾が田和挑発に乗るのを待っている段階といえる。
太平洋正面の海軍力については、依然としてアメリカ海軍の圧倒的な優位は普遍ですが、局地的に優勢を喪失するだけの戦力差には縮まっています、また中国軍のミサイル爆撃機や中距離弾道弾はアメリカの戦略拠点である在沖米軍基地や日本首都圏在日米軍基地、要衝グアムを射程に収めており、その数と質の向上も年々強化され、歯止めがかかりません。
イラン核開発は、もはや引き返せない危機に展開しています。こういいますのもオバマ政権時代に締結しトランプ政権時代にアメリカが離脱したイラン核合意は、前提としてイランに核兵器開発の意図は無いという大前提が存在しており、その上でその証左に合意を締結した背景がありました、要するに核は平和利用しかしない、と言う前提にて成立します。
ウラン濃縮を60%まで引き上げる、この発言がロウハニ政権から示され、そもそも原子力発電に代表される核の平和利用では10%の濃縮しか必要としません、これをイランはアメリカがトランプ政権時代に20%まで引き上げており、核兵器開発を最終的に目指す以外説明できないウラン濃縮に着手しており、イラン核合意の大本の前提が崩れてしまいました。
イランは1979年イラン革命においてイスラエル国家の消滅を国是とし、いまも堅持していることからイラン核開発は核合意も含めてイスラエルには反対の姿勢を示していますが、ウラン濃縮60%に進めるイランの施策、核兵器開発の決意という状況を突きつけられた現時点で、もとのイラン核合意にアメリカが無条件にて戻ることを非常に難しくしています。
遠心分離機の国外搬出や核関連技術者の中でも核兵器技術者の国外出国、アメリカはイランがウラン濃縮60%に着手した時点で、これを認める選択肢も現状維持のまま核合意に戻り核兵器開発を十数年単位で遅延させる妥協案は採り難くなりました、すると最低限、遠心分離機の国外搬出や核関連技術者の中でも核兵器技術者の国外出国が条件となりうる。
イラン核開発が進めば、イスラエルの諜報活動による妨害工作、それでも不十分となればイスラエルがイラクに対し実施した様なイラン核関連施設への限定攻撃、という次の緊張に展開しかねません。中東和平の枠組みさえも根本から破綻させかねない事態であり、バイデン政権として、静観による核開発黙認か軍事介入、様々な選択肢に悩まされるところ。
ウクライナ東部情勢についても緊迫の度合いを増しています。ウクライナ政府はウクライナ東部国境付近にロシア軍8万名が集結しているとして警戒を強めています。バイデン政権は4月9日、数週間以内に黒海へ海軍艦艇の派遣を示唆し、少なくともウクライナ東部紛争停戦合意破綻を海軍力により回避しようという姿勢を示しています。ここは謎が多い。
ロシア軍は前回のクリミア併合やドンバス自治州騒擾への関与等を経て、日欧米からの経済制裁を受け、その経済活動を大きく後退させた状況にあります、ここで停戦状態を破り軍事行動に出る事が在れば、更なる制裁の危惧があります。ロシアは例えばワクチン外交によりCOVID-19感染対策を盾に軍事行動を強行する事も出来そうですが、実際は難しい。
ウクライナ東部軍事介入、ワクチン外交により欧州等の黙認を得ようとしても、ロシア製COVID-19ワクチンは不活性化ワクチンであり、米欧の開発したmRNAワクチンと異なり変異ウィルスへ現段階で効果がありません、従って逆にファイザーワクチンやアストラゼネカワクチンを必要とする立場である事から、ワクチン外交の立場は真逆なのですよね。
ウクライナ東部の緊張、問題はしかしアメリカにとってより複雑です。ウクライナのゼレンスキー大統領は4月13日、東部戦線の最前線防衛陣地視察の様子をCNNに公開、恒常化しているロシアの脅威を合せ、ウクライナのNATO加盟への支持を国際社会に訴えました。これはウクライナには安心要素ですが、NATO全体には不確定要素となりえるもの。
北大西洋条約第五条には集団的自衛権行使が明示され、加盟国一国への武力攻撃をNATO全体への攻撃を視なす条文があります、するとウクライナでの戦端、勿論NATO加盟となればNATO理事会がウクライナ軍行動へ関与する事にもなるのですが、例えば2008年の北オセチア紛争のような攻められた側が挑発を行った場合でも、欧州大戦、となりえます。
ウクライナ東部問題の悩ましい点は、ロシアの兵力集中が一時的に引いた場合でも、クリミア併合とロシアと国境を接するウクライナ東部の緊張は、常に再燃の懸念があり、その限りにおいて、例えばクリミア返還でも行われぬ限り、ウクライナはNATO加盟を要請し続け、またロシア軍の僅かな動きが、その蓋然性をアメリカに突き付けてしまう現実です。
菅バイデン首脳会談。台湾海峡問題は当然議題に上るでしょうが、イラン核開発問題は対処を間違えれば広島長崎以来の核兵器実戦使用の緊張を高めるものとなりますし、ウクライナ東部の緊張も対処を誤ればロシア軍と米軍を含むNATO軍が衝突する欧州大戦への導火線となりかねません。会談はこうした意味で日米関係今後を示す重要な会談となります。
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