◆ちゃんとしゃべれ!治納由気(はるなゆき)◆

変な日本語、敬語もどき、崩れていく日本語、そして、正しい日本語とハムスター。

「気にしなくて外出できる」って?

2008-08-20 19:04:02 | ちゃんとしゃべれ!変な日本語
                       外出する?
 10日に「車輪が下りずに胴体着陸」と「車輪を下ろさずに胴体着陸」について書きましたが、たまたま△△という商品のCMで「○○を気にしなくて外出できる」というセリフを聞き、ここまでひどいことになっているのかと非常に驚き、また改めて書くことにしました。実は、「~ずに」の誤用のもとがこれなのです。いや、私は学者ではありませんから断定することはできませんが、少なくとも、「~ずに」の誤用と「~なくて」「~ないで」の誤用は影響し合っていると思います。
 電子書籍『ちゃんとしゃべれ!』-スーパースプレッダーに気をつけて- の中で、「~ずに」「~なくて」「~ないで」について文法の説明をしています。「~ずに」の使い方が間違っているというのを、何となく雰囲気では分かってもらえたかなぁと思うのですが、この辺で一度文法の裏付けをしておきたいと思います。そのほうがすっきりしますからね。はいっ(^^)/
 まず、「~ずに」について説明します。打消の助動詞「ぬ」の連用形「ず」に助詞「に」が付いて「~ずに」、意味は「~ないで」です。例えば、「手紙を読まずに捨てた」「種類を区別せずに使う」「泣かずに頑張った」、読まなければならないのに手紙を読まないで捨てた、種類を区別することが望ましいのに区別しないで使う、泣いてしまうのが普通なのに泣かないで頑張った、ということになります。
 「車輪が下りずに胴体着陸」の「ずに」を「ないで」と言い換えると「車輪が下りないで胴体着陸」となり、誤りであることがはっきりしますね。本当は「車輪が下りなくて、やむをえず胴体着陸した」と言いたいわけで、「下りなくて」の「て」は接続助詞、打消の助動詞「ない」の連用形「なく」に接続し、「~ので」という意味になります。「車輪が下りないので、やむをえず胴体着陸した」です。そして、これを、いかにも報道らしい、少し硬い言い方にすると、「車輪が下りず、胴体着陸」となるわけです。
 例えば、「探したけれど、見付からずにがっかりした」というのはどうですか、おかしいと感じますか? 「ずに」=「ないで」ですが、「見付からないでがっかりした」ですか? そうではなく、「見付からなかったのでがっかりした」ではありませんか? それは「見付からなくてがっかりした」であり、硬い言い方にすると、「見付からず、がっかりした」です。いつもいつも「~ずに」と言ってしまう人は、「~ないで」と「~なくて」の区別がついていないのでしょう。
 次に、「○○を気にしなくて外出できる」について考えましょう。例えば、「やむをえなくてやりました」と言えば、「~なくて」ですから、「やむをえなかったのでやりました」という意味になります。ということは、「気にしなくて」は「気にしないので」という意味であり、文字どおり「気にしないので外出できる」、それならこのCMは無意味、○○を気にしていないなら何も問題ない、△△を買う必要はないということになります。
 それから、「~ないで」の「で」は状態を表す格助詞で、打消の助動詞「ない」の連体形「ない」に接続しています。「何もしないで立っていた」と言えば、どのように立っていたのか、何もしないでただそこに立っていただけ、という状態を表します。「○○を気にしないで外出できる」なら、外出できる → どういう状態で? → ○○を気にしない、そういう状態、ということで、これが正しい表現です。
 以上、いろいろ書きましたが、普通は「○○を気にしないで外出できる」と言いませんか? 「○○を気にしなくて外出できる」なんて言うのは放送業界の人が多いのではないでしょうか。意味も考えずに「ないで」を「なくて」と言い換えているだけです。響きが、「ないで」より「なくて」のほうが硬いから・・・、要するに、かっこつけてるだけです。でも、ひょっとして、若い人はもうだいぶこういう言い方になっている・・・?

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