はちみつブンブンのブログ(伝統・東洋医学の部屋・鍼灸・漢方・養生・江戸時代の医学・貝原益軒・本居宣長・徒然草・兼好法師)

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015-本居宣長と江戸時代の医学― 宣長の症例その2 ―

2015-02-07 18:33:21 | 本居宣長と江戸時代の医学

 ここでまた少し本居宣長の実際の症例を見ていきましょう。これらは『済世録』に膨大に残されているもののほんの一部です。治療の方法や成否に係わらず、出来るだけ無作為に、しかしなるべく患者の情報が記載されているものを選びご紹介します。( 010-本居宣長と江戸時代の医学―宣長の症例― の続きです)

 

(症例1)

天明三年 四月二十五日

高町 (無名): 目あか、虫気なし ・洗薬 二日分 補中益気湯 一日分

 これは伊勢松坂の高町のだれかの処方。洗薬とは目を洗う薬のことで、配合は以下の通り。

目掛薬方

胡礬 山梔子 辰砂 各四分、薄荷 黄柏 各三分、伊勢真珠 二分 

 

(症例2)

天明三年 四月二十七日

田原村源八: 生まれつき不足、虫 ・補中益気湯 二日分

 宣長は、貝原益軒のように、補中益気湯を良く使いました。ただし使うのは虚弱な人や、乳幼児に、あるいは病気の治療が終わった時の最後の締めとして用いていました。宣長は通常は一日分を処方しましたが、二日分処方することもあります。長期間使用する事はありません。「不足」とは元気の不足のこと。

 

(症例3)

天明三年 四月二十七日

伊藤七左衛門: 痰咳、おりおり小熱 ・烏梅丸 一日分

 烏梅丸も宣長が多用した処方です。回虫などの寄生虫による病気に使うもので、『傷寒論』に載っています。配合は以下の通り。

烏梅 黄連 各二両、 乾姜 五銭、 蜀椒 当帰 各二銭、 細辛 炮附子 人參 桂枝 黄柏 各三銭

 

(症例4)

天明三年 五月四日

曲村新兵衛: 痰、咳、熱、不食 ・桑白皮湯 五日分

 桑白皮湯は咳や痰に用います。いろいろな文献にでてきますが、宣長は『方剤歌』で以下のように処方を覚えました。

勒メコシ田ノモノ水ニ雪フリテ聯ナル徳モ丹(クチナシ)の文(フミ)

 意味は、桑白皮湯は貝母(勒メコシ)、半夏(田ノモノ)、蘇子(水ニ)、桑白皮(雪フリテ)、黄連(聯ナル)、杏仁(徳モ)、山梔子(丹の)、黄芩(文)の配合である、というものです。

 

(症例5)

天明二年 七月十五日

塚本市郎兵衛: 下り・渇き・むし・不食 ・五苓散 三日分

七月十八日  ・五苓散 三日分
七月二十日  ・五苓散加半夏厚朴 二日分
七月二十三日 ・五苓散加半夏厚朴 三日分
七月二十九日 ・下り・渇き・熱 ・五苓散加柴胡 五日分

八月四日   ・五苓散加柴胡 五日分
八月六日   ・五苓散加乾薑桂皮 五日分
八月八日   ・補中益気湯 一日分

 この症例は、「 010-本居宣長と江戸時代の医学―宣長の症例― 」にも取り上げましたが、実は続きがあります。

八月十四日  ・渋り下りなめど数多し、熱 ・不換金正気散加枳実乾姜檳榔 三日分
八月十八日 ・補中益気湯 一日分
八月二十五日 ・下り、不食、ジヤジヤ ・補中益気湯 一日分

 市郎兵衛さんは再発してしまったようですね。しかし前回と同じ薬は用いません。不換金正気散というのは『和剤局方』にある処方で、急な嘔吐や下痢の時に用います。宣長は『方彙簡巻』では「三味洞密洗」と、枳実・木香・檳榔の組み合わせを記していますが、ここではあえて枳実・乾姜・檳榔の加減を行っています。

 

つづく

(ムガク)



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