こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

父と息子

2016年03月18日 00時43分32秒 | 文芸
「お前の家を建てるさかい、

お前もその気にならなあかんぞ。

わかっとるな」

 ひまわり畑を前に、

父は前方を見つめたまま

吐き出した。

照れ屋の父は、

いつもそんな風に

自分の思いを口にする。

だから、

もう慣れっこの私は、

父が何を望んでいるのかを

すぐ理解する。

と言って、

私もひどく内気で、

話すのが苦手。

黙ったまま、

コクリと頷くだけだった。

それで通じる

父と息子だった。

 家の敷地は

ひまわり畑を

片付けることから始まる。

太く堅いひまわりの

刈り取りにかかる。

父と暗黙の裡に

交わした約束の実行だ。

 真夏。

汗ダクダクの中で

草刈り機を操作した。

堅い幹は

なたを使って切り倒した。

(なんで俺が、

こないしんどい目せなあかんねん?)

何度も愚痴めいた思いに

とらわれながらも、

父とのやり取りから逃れられずにいる。

あれは父と息子の堅い約束なのだ。

 数週間かかって

刈り終えたひまわりを、

畑のど真ん中に積み上げて焼いた。

煙にむせながら、

ホッとひと息つき眺めた。

「ケツ割らんとようやったのう。

けど、

これは序の口やぞ。

自分の家を建てるんや、

できることは

お前がやらなあかん。

そないしたら

家に愛着が生まれて、

そら大事に住みよる」

 やはり、

父は

高く燃え上がる炎を見つめたまま、

自分の思いを

息子に伝えようとする。

「わかっとる」

 私も父と目を合わさぬまま、

ぼそっと言葉を返した。

 畑をつぶし整地するのは

業者に任せたが、

その間に山へ足を運んだ。

父の後ろにくっついて、

立木の伐り出し作業を手伝った。

松・ヒノキ・杉……

その違いすら知らぬ私は、

父の指示を頼りに

山を駆けずり回った。

 お次は

壁の下地に使う

竹の伐り出しだった。

時期を外すと

虫がついて駄目になることも教えられた。

あまりくどいのに顔をしかめると、

目も合わないのに、

父はちゃんと察していた。

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