こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

父の愛情

2015年06月19日 13時35分17秒 | 文芸
危機を救ってくれた父

 父からの手紙。わたしの半生で、あれ一度きりだった。
 結婚式を前に破断のショックと、そのせいで仕事も辞め、精神的に追い詰められていた。
アパートに閉じこもり、ただ絶望感だけ。自殺すらチラッと考えた。
 田舎から車を飛ばして父が駆け付けたのは深夜。ドアをたたきもせず、父は郵便受けに手紙を放り込んだ。不器用な父の思いが、「コトン」という音にこめられていたのに後で気付いた。
 便せん三枚に埋まった息子への思いがあった。
「一度家に帰ってきい。それからや何もかんも」
 その明け方、家に帰った。
 玄関の向こうに舞っていたのは父と母。そして心づくしの風呂だった。わたしは泣いた。
 わたしの人生の危機を救った手紙。あの「コトン」いう記憶が、いまも鮮明に残る。
(讀賣・1996・6・30掲載)

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