こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

ミニエッセ・歯医者さんが笑った!

2014年10月30日 23時23分54秒 | おれ流文芸
  まさに年齢を痛感した瞬間だった。
 うどんを食っていて、なんと前歯がボロリ!根元から見事に欠けた。別に虫歯ではない。歯の金属疲労といったところである。
 実は歯医者に翌日予約を入れていた。三か月に一度のケアー診察で二本の虫歯が判明したからた。治療を始める直前にに、何でもない歯の寿命が尽きたのだ。皮肉な話だ。
「歯が折れちゃいました」
「折れた歯は今日お持ちですか?」
 歯科衛生士は笑顔で訊く。院長先生以外のスタッフはみな愛想がいい。気分がよくなる。
 とはいえ、かぶせてある金属ならまだしも、自分の歯のかけらを持ち歩くなんて思いつきもしなかった。歯の一部があれば治療はよりスムーズに進むというわけでもあるまい。
「こりゃあ酷いね。根元しか残ってないな。
虫歯の治療は後回し。こっちを先にしよう」
 院長先生は歯のかけらのことなど一切触れない。あの歯科衛生士の質問はなんだったのだ?まあ考えてもしようがない。。
「とにかく根を残してかぶせます。それで駄目なら仕方ない、抜くしかないな」
 さすが院長先生だ。即座に抜くと決めつけない。そりゃあそうだ。ネットで見つけた「虫歯は極力削らない。歯髄を残すために薬の注入で歯の再生を図る」という3Pix-MP法(三種混合抗菌剤治療)の歯医者さんなのだ。そんな画期的な治療に取り組む歯医者さんが三十分ほど車を飛ばした地元にいた。
それまでの歯医者さんには削りに削られ、歯の神経は即座に麻酔をかけてグイと取られ放題。すっかり懲りていたので、(こんな歯医者さんがいる!)と感激した。。
自分で見つけた歯医者さんは初めてである。いつも人の噂を頼りに選んでいた。
待合室にコーヒードリッパーが置かれていつでもだれでも飲める。フロアをロボット掃除機が走り回る。壁にはスタッフ全員の似顔絵が貼ってある。診療台の正面と待合室のモニターにはディズニーのアニメがいつも再生された。私の知る歯医者のイメージは根底から崩れた。下見ともいえる治療体験で自分向きだと思った。以来、我が家族の歯の健康はこの歯医者さんに一任した格好だ。
ただ、あの画期的な治療法は、若い歯が初期の虫歯になった時に施されるらしい。十代で神経を取った歯は五十年も経つと、例外なく寿命を迎える。これまで六本の歯を抜いた。この歯医者さんとの出会いは遅かったのだ。
折れた歯の根を残すべく治療が始まった。
「はい、これを持って」と手渡された『どらえもん』の人形。ギュッと押すと、ブーと鳴る。「痛い時は鳴らして下さい」バキュームで唾を吸い込み、ドリルがギュルギュルとうなる。歯医者さんの恐怖の元凶だ。治療中は目を閉じる。昔からそうだ。『どらえもん』は幸か不幸か大人しい。院長先生がいった。
「これでもう少し保つね」と。思わず目が開いた。なんと院長先生が笑っている!

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